フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ

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 次の日、いつものように市場に向かい仕入れを済ませる。
 明日から仕入れに行くと言うおっちゃんにはとりあえず港町で珍しいものがあったらなんでも買ってきてと伝えた。まかせろとおっちゃんがガハガハと力強く答える。

 セシル婆さんが大きな壺に梅干しをたくさん入れた物を僕に渡してきた。
 孫にいろいろ話は聞いたとセシル婆さんが嬉しそうに話す。
 時間がなくてあまり話せなかったけど梅干しはフェルも大好物だから嬉しいと伝えるとセシル婆さんが今まで見たことのないような優しい顔をした。

 肉屋のミックさんにも昨日の差し入れのことでとても感謝された。
 屋台の準幅をしていたらパン屋のおばさんにお昼に食べてと店のパンをいくつかもらう。
 トビーはそんなもん渡したって礼にもならねーだろとおばさんに文句を言っていたけど、おばさんの気持ちは嬉しかった。

 いつものように営業を始めて忙しく働いていたら3男がハンバーガーを食べに来た。屋台の後ろで3男がいつもの調子で僕たちにずっと話をしていた。
 3男には悪いけど仕事をしながらちょっと面白いラジオの番組を聞いてるみたいだった。

 明日は屋台を休みにすることにしている。3男が僕たちを領都の街を案内したいってしつこく言い出したからだ。
 ちょうどおっちゃんの魚屋も休みだから僕とフェルはその3男の提案に乗ることにした。

 宿に帰ってシャワーを浴びたフェルの髪を乾かす。今日気づいたことや困ったりしたことはなんとなくこの時間にお互い話すようになっていた。
 フェルは明日買い物がしたいらしい。屋台に必要なものなど少し買い足したいものが出てきたみたいだ。ゼランドさんの商会みたいにいろいろ取り揃えているような店に行きたいらしい。3男にあとで相談しよう。

 ご飯を食べたら厨房に行く。
 もう鯛めしのレシピは出来上がったし、明日の仕込みはやらなくてもいいのだけれど、僕たちは皿洗いなど厨房の雑用をやらせてもらう。
 スティーブさんははじめ少し戸惑っていたけれど僕が領都にいる間に少しでも勉強させてもらいたいと話すと心よく了承してくれた。

 明日の朝食の仕込みをしていたら、厨房の人たちに頼まれてその日の賄いは僕が作った。余り物で作ったのは炒飯だったけどみんな美味しいと言ってくれた。
 食材の端切れを使ったあんかけ炒飯を作ったのだけど、スティーブさんにはかなり細かくダメ出しされて、とにかく言われたことは部屋に帰ってから思い出してひたすらノートに書き込んだ。
 魚も他の食材も味付けにふさわしい切り方があるとスティーブさんが言う。それが食材を丁寧に扱うということなのだと諭される。スティーブさんの口調は優しかったけれど、余った端切れだからと適当に切って作ってしまったことを僕はすごく反省した。

 それからお風呂に行きゆっくりと湯船に浸かる。
 お昼前に3男とは待ち合わせをすることにした。どこか食べたいお店はあるか聞かれたから僕はギルドの近くのドーラさんの屋台に行きたいと言ってみた。
 なので3男とはギルドの前で待ち合わせをすることにしている。
 明日パン屋でパンを買ってからフェルと待ち合わせ場所に行こう。今日おばさんからもらったパンもすごく美味しかった。

 久しぶりに長湯をしたせいかベッドに入る頃には僕はもううとうとしていた。
 朝寝坊できるなんて幸せだな。
 やわらかい布団とやわらかいフェルに包まれて眠りに落ちたけど、意識をなくす前にフェルに何か言われたような……。

 そして次の日、まだ早い時間にフェルに起こされた。もう少しくらい寝ててもいいんじゃないかな?いつも仕入れに行く時間よりは遅い時間だったけど、もう少しゆっくりしてもいいんじゃない?

「フェル。おはよう。ちょっと早くない?3男とは昼前に待ち合わせでしょ?」

「何を言ってる。昨日寝る前に今日は朝一緒に走り込みをすると言ったではないか。ケイもわかったと返事をしていたぞ」

 そうだっけ?そう言えばそんな気もする。
 ふとフェルを見るともう着替えは済んでいて張り切った様子で僕を見ている。
 そんな姿を見てしまえば断れるわけがない。
 すぐに支度をして宿を出た。

「まずは南に行き領主館の近くまで行き東側を周り北門まで行く。私は何度か走っているからな。途中いろいろと案内をしながら行こう」

 フェルが少し得意げに話す。気になることがあればなんでも聞いてくれとフェルが言う。そんな張り切るフェルの後に続き、魔力循環しながら走り始める。

 宿を出て中央の大通りを南に。中央広場を超えてそのまま行けばやがて領主館、街のみんなが言う「お城」が高台の上に見えてくる。
 この辺りは旧市街と呼ばれているけれど建物は比較的新しく、ところどころに大きな商会のような建物が並ぶ。
 路地の奥は住宅街みたいだ。割と裕福そうな家が並んでる。

「これ以上行けば貴族街だからな。この辺りでこっちに曲がるぞ」
 
 路地よりは少し広めの道を東側に曲がっていく。少し高級そうな店や洋服屋などが目立つけど進んでいくにつれて建物は古いものが多くなり小さめの家などが目立ち始めた。
 この辺りが昔の下町みたいなところにあたるのだろうか。

 領都の東側の防壁が見えてきた頃、角を曲がり北側に向かって走る。道には長屋のような建物が並んでいる。

「ここは防壁工事などをしている者たちが多く住んでいるらしい。あの建物は住むところがない者に優先して貸し出されているらしいぞ。あと大工などもこの辺に多く住んでいるそうだ」

 いつの間にフェルはこんなに街に詳しくなったのだろう。きっといろいろ宿の人たちに聞いたりして勉強したんだろうな。

 やがて大通りを横切り、北側の区画に入る。少し開けたところで僕たちは少し休憩をとった。
 冷えた麦茶を飲みながらフェルがまた説明してくれる。

「このまま真っ直ぐ行けば市場の方に出るが、この広めの敷地にあるあそこの教会は孤児院をやっているそうだ。孤児院は領都にここだけしかないらしい」

 フェルの言う広めの敷地にある古い教会に立派とは言えないけれどそこそこ大きめの建物が併設されている。まだ朝早いからか子供たちの姿は見えなかった。
 そこから市場まではすぐだった。市場の外側を大きく回るようにして中央通りに出て宿に戻る。休憩を入れても1時間くらいだった。きっとフェルだけならもっと早く周れる。

 多分2時間くらいあれば僕でも領都の街を一周できるんじゃないかな?
 朝のトレーニングで2時間ぶっ通し走るとか地獄すぎるけど、領都の街の大きさがなんとなくわかってきた。

 シャワーを浴びて、フェルの淹れてくれたお茶を飲んでから待ち合わせ場所に向かう。途中トビーのパン屋でいくつかパンを買っていく。

 街の北側に向かい中央の道に比べて少し細めの通りを右手、つまり東の方角に曲がると二階建ての建物が見えてくる。冒険者ギルドだ。この通りにもちらほらと屋台が並ぶ。この辺りにドーラさんの屋台があるらしいんだけど3男とは冒険者ギルドで待ち合わせをすることにしてる。
 ギルドに入ってすぐモリーさんと目が合った。モリーさんはギルドの売店の方を指差す。

 3男はギルドの売店の売り物を眺めていた。ぼんやり眺めている姿はいつもの3男みたいだったけど時々何か指さして売店の人にいろいろ聞いている。
 3男に近づくとギルドの売店の担当との話が聞こえてくる。

「……これとか…………あれも売れそうにないと思うんだけどさーなんであんな目立つところに置いてるの?」

「いや、この辺りの森の浅い部分はこれがないと危険なんです。使い捨てですけど一番売れてる商品ですよ?」

「あー、そう言うことかー。でもさー。ちょっと値段が上がるけど、ここの素材をさー、もう少しいい物にすれば使い捨てにならないと思うんだけど」

「確かにそう言われてみるとそうですね。ですが使い捨ての方が商売する方にとっても都合がいいのでは?」

「確かにねー。だけどさー、形と効果が決まったらあとはどうおしゃれに作るかって話になると思うんだー。おしゃれって簡単に言うけどすごく幅広いんだよ?誰でもかっこいいものを身に付けたいじゃない。そっちで競争した方がいろいろ面白い物ができそうだと思わない?このままだとこの商品をどれだけ安く作るかっていうだけの競争になっちゃうよ。そしたら儲けも減っていっちゃう。売れる数って上限が必ずあるからね。それにそんなの面白くないと思わない?」

「なるほど。そういう考え方もあるんですね。王都の方はみんなそういう商売を?」
 
「そんなことないよー。ただ王都の場合は人がもっと多いからね。とにかくいっぱい文句や注文をつけてくる人たちが多いからさー。うちの商会でもすっごく苦労してる。でも僕が見てきた限り、みんなが文句を言う商品ほど改良して作ったものはよく売れていくんだー。きっと文句が多い物ってみんなが欲しい物に近いってことだと思うんだよー。お客様のそういう意見は大事にしないと」

 ん?3男がすごくまともなことを言ってる気がする。
 こういう風にいろんな人と話をして商売のことを考えてたりするのかな?3男ってけっこう物知りだし、きっとそういう知識は商人にとって大事な物だ。

 ほんの少しだけ3男を見直した僕は3男に声をかけてギルドを出た。

「えーと、ドーラの屋台だったよね。あそこだよ。端っこにあるからあまり目立たないんだけど、ここのスープはとっても美味しいんだー」

 ギルドから少し離れたところに串焼き屋の屋台があってその奥にお婆さんがやってる屋台が見える。屋台はけっこう年季が入っていて、よく言えば味のある。まあ言ってしまえば見た目少しボロボロの屋台だった。

「ドーラ。久しぶりー。お客さん連れてきたよー。王都からこっちに旅行に来てるクライブのお弟子さんだよ」

 さすが3男。どう切り出そうと思っていたのに最初からどんどん切り込んでいく。そういう感じは羨ましいと思う。

「は、はじめまして。王都の小熊亭で働いてます。ケイって言います。こっちはフェル。僕たち銀の鈴に泊まっていてスティーブさんからおばさんのことを聞いて」

「あー。あんたがケイだね。息子から聞いてるよ。なんか中央の方で屋台をやってるんだって?クライブのとこの料理を出してるとか」

「あー、いえ。小熊亭で出してるものとは少し違うっていうか。屋台に合わせて少しいじってるんですけど。師匠には店の名前を出して恥ずかしくないものを作れって言われてます」

 緊張する。
 だってあの師匠を怒鳴りつけたっていうんだからけっこう怖い人かと思って。

「あの無愛想が師匠だなんてね。あたしも年をとるわけだよ。おばさんなんて気を使わなくていいよ。あたしは見ての通りもうおばあちゃんだからね」

 そう言ってドーラさんは笑う。
 その雰囲気がスティーブさんに少し似てる。やっぱり親子なんだな。

「こちらの綺麗なお嬢さんもクライブの弟子かい?どちらかと言えば冒険者のように見えるんだが」

「私は料理人ではなく小熊亭で給仕のようなことをさせてもらっている。おっしゃる通り冒険者だ。今はケイと2人で屋台をやっている。先日お客で来た冒険者にここのスープをもらったのだ。とても美味しかった。お会いできてとても嬉しい。これからもよろしくお願いする」
 
 フェルもどことなく緊張した雰囲気でドーラさんに話しかける。

「2人ともなに硬くなってんだい。そういうのよしとくれ。ところであんたたち何しに来たんだい?わざわざ挨拶にでも来てくれたっていうのかい?」

 少しイタズラっぽくドーラさんが言う。
 僕たちは慌ててドーラさんのスープを注文する。
 
「うちで出してるのはこの3つだよ。これは昔から出してる海鮮のスープだ。こっちが季節の野菜を使ったやつだね。そしてこっちはその日の仕入れで決めてる。まあなんとなく作ったもんだから当たり外れはあるかもしれないがね」

 僕が前にビトさんにもらったスープはたしか海鮮のスープだったように思う。
 フェルは季節のスープだと言うトマトソースのスープを3男は「定番が一番美味しいんだよー」とか言って海鮮スープ。僕はドーラさんが適当に作ったと言う日替わりの創作のスープを頼む。

 待ってる間にフェルが隣で串焼きを買ってきた。みんなで立ち食いと言うのも何なので折りたたみの椅子を出して屋台のそばに座ってスープとパンを食べることにした。
 ドーラさんが「ここ使っていいよ」と屋台のテーブルの一角を開けてくれる。

 ドーラさんが適当に作ったと言うそのスープはキノコやニンジン、ジャガイモがゴロっと入った透明なスープだ。かすかにトロミもついている。香りは少し生姜の匂いがする。

 食べてみるととにかく不思議な味だった。例えようのない味だけど強すぎない塩味と、とにかくまろやかで優しい味なんだ。クリームシチューに似ているけど少し違う。強いて言うなら中華丼の餡をもっと緩くしてスープにした感じ。
 少しだけついたトロミが優しく具材を包んでいてスープだけでお腹が満たされるような。そんな感じの味だ。

 これは昆布?でも出汁に使ってるよりもっと濃い。少しだけ醤油を使っているかな?
 あとは具材の味。
 一口、また一口と食べ進む中で気づいた。スープの具材がとても食べやすい。きちんと面取りされていて歯応えやその甘みが本当に絶妙なんだ。
 少し大きめに切ってあるニンジンをスプーンで掬ってじっくりと見る。

「どうしたんだい?何かおかしな味がするのかい?」

「いや、全然そんなことはないです。ただその……。この野菜の切り方がすごくいいって思って」

 ドーラさんは少し驚いた顔をする。

「おや、あんたそれがわかるのかい?クライブにでも教わったかい?」

「いいえ、小熊亭のスープはこういう細かいやり方はしてません。ただ師匠の作るハンバーグとかは野菜の切り方が違うって言うか……何となくこのやり方に考え方は近いような気がします」

 うまく表現出来ないんだけど、みじん切りの大きさを料理ごとに変えて作っていた師匠のやり方を真似してやってみたことを思い出した。
 ドーラさんのスープの具材は何と言うか、『ちょうど良い』んだ。
 きちんと面取りをして、食べやすい、と言うのとちょっと違って、具材の味を充分に引き出している、そんな感じがする。
 ドーラさんはそう思い悩む僕を見て少し笑顔になった。

「クライブもなかなかいい弟子を持ったねえ。あんな無愛想な奴だから、下で働くもんはさぞかしやりにくそうだろうとは思ってはいたが、ケイ。あんたいい目をしてるじゃないか」

 ドーラさんのスープはとてもまあるい味がするんだ。まろやかっていうよりも調和って言葉がしっくりくると思う。特別奇抜な味付けはしていないし、だけどそれでいて新鮮な味付け。それは僕が初めて食べたからかもしれないけど今まで経験したことがないような味だった。

「あんたたちまだ時間はあるかい?ケイ、それを食べたらちょっとこっちに来て何か一品作ってみな」
 
 何か試されているのだろうか。
 緊張しながら手を洗いに行き、ドーラさんの屋台の中に入る。





 
 
 
 
 

 

 
 
 

 
 

 
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