フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ

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おむすび

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 254 おむすび

 フェルが先にシャワーを浴びて、その間僕はノートに道を慣らす道具の絵を描いた。だけど馬にそれを取り付ける仕組みがよくわからない。なんだかイメージばかりでよくわからない絵になってしまった。
 もうガンツに丸投げだ。良い感じに作ってもらおう。

 時間になったのでガンツの部屋をノックするとガンツはもう帰って来ていた。
 一緒に食堂に降りて3男を待つ。
 今日はお弟子さん達は外で食事をするそうだ。どこか良い店でもあるのかな。今度聞いてみよう。
 待ってる間にさっき描いた絵をガンツに見せる。

「なんじゃ?こんなもん普通にあるぞ。畑の作業で使うやつじゃろ?ワシも名前まではわからんが牛や馬に引かせて畑を耕すやつじゃろう」

 そうか。そうだよね。村にはそういうの無かった。ちょっと恥ずかしい。
 そしてガンツに今日海を見に行った時の話をした。

「なるほどの。道を慣らすのに使いたいか。確かにそういう使い方もあるかもしれんの。帰る時にも使うかもしれんし作っておくぞ。必要な時に言うといい」

 そうか。帰り道も僕は土木作業をさせられるのだな。

「まあそんな顔をするな。あの道が通りやすくなったら3男もだいぶ仕事がやりやすくなると思うぞ。お、来たぞ。材料費は彼奴からもらうことにしようかの」

 そう言ってガンツは少し悪い顔をした。

 ガンツの提案に3男はなんてこともない顔で賛成して、せっかくなら帰りは一緒に帰ろうと言い出す。
 3男はこれから1週間くらい領都の近郊の町や村を回るのだそうだ。ちょうど僕たちが屋台の期間が終わる頃戻ってくるらしい。

「ワシはもう少しかかりそうだの。アランがまたいろいろ面倒な頼み事をしてきたからな。ケイたちはどうする?屋台を続けるのか?」

「借りてる場所に期限があるからね。たしかあと1週間と少しかな。延長したとしても今の場所は使えなくなると思う」

「だったら一緒に港町に行ってみようよー。馬車で他にもいろいろ連れて行ってあげるからさー。その時にあの漁村まで道を作るのもいいじゃない。昆布だっけ?僕も興味があるなー。それに村まで行けば何か面白そうなものもあるかもしれないしね。少し売り物も持っていけば商売もできるかも」

「でも村にはお金が無いみたいだよ」

「そんなのどうにでもなるよー。村で余ってるものがあればそれと交換すればいいんだ。その交換したものは別の場所でまた違うものに交換出来たりするんだよ。こう見えて僕はそういうのは得意なんだー」

 なるほど。けっこう真面目に仕事してるんだな。

 商売のついでだからと3男も道を作るのに協力してくれるみたいだ。チコにはそのことを伝えたほうがいいかな?魚屋のおっちゃんに伝言を頼んでみる?

 そんな話をしながら食事を済ませて、僕たちは先に食堂を出た。
 そして厨房に行き、今日もお手伝いを始めようとするとなんと厨房にはドーラさんがいた。

「包丁の使い方がなっちゃいないよ。あー、もう食材はもっと丁寧に扱いな!」

 スティーブさんを見ると僕たちと目があって助かったというような表情をする。やり難くて仕方がないって感じだ。
 そうだよね。職場にお母さんがいるとちょっと困るかも。

「母が急に厨房にやって来てね。ケイくんたちのことを待ってたんだ。はじめは大人しくしてたんだけど、うちの若い子にいろいろ教え出しちゃって。まあこうなるだろうとは思ってたけどね」

 そう言ってスティーブさんは苦笑い。

「ドーラさんどうしたんですか?僕に何か用ですか?」

 僕に気づいたドーラさんは少し恥ずかしそうに笑う。

「余計なおせっかいかと思ったが、息子と支配人にあんたのことを私からもお願いしようと思ってね。その必要もなかったみたいだけどね。それでさっき支配人から聞いたんだが、あんた東の国の料理を作れるんだって?賄いがたいそう美味しいらしいじゃないか。あたしにも作ってくれないか?」

 よくわからないけど、僕の賄い料理を食べに来た?東の国の料理って言っても僕は東の国のことをそんなに知らないんだけど。

「ドーラさん。僕は王国で生まれたから東の国の料理はちゃんと知ってるわけじゃないんです。じいちゃんから聞いた話だけで、なんというか想像で作ってるようなものだからちょっと思ってる料理とは違うものかもしれませんよ」

「細かいことはいいよ。あたしもそんなに詳しく知っているわけじゃないからね。ただ、ずいぶん昔に米を使った料理をご馳走になったことがあってね。なんとなく懐かしくてあんたの料理を食べてみたくなったのさ」

 そういうことなら……でもなにを作ればいいかな?賄いなんだから余り物で作るしかないんだけど……和食?手の込んだものは作れないぞ。

「確か、おにぎりと言ったかね。梅干しというのが中に入ってた。なにも難しい料理を作って欲しいって言ってるわけじゃないんだ。適当に余ったもので作ってもらえればいいから」

 おにぎりですか。そのくらいなら別に構わないけど……。どうしようかな。あんまり待たせるのも良くないよね。

「とりあえずお米を炊きますね。なにを作るかはこれから考えますので」

 なんだろう。いきなりこんな風に料理を作って欲しいとドーラさんからお願いされるとは思わなかった。とにかく急いでお米を炊く。

 スティーブさんはなんでも好きなものを使っていいと言ったけど、そんなわけにはいかないだろう。こんなことで宿の経営に負担をかけるわけにもいかない。
 とにかく明日の準備はフェルにも手伝ってもらって賄いの支度をする。
 フェルはさっそくマヨネーズを作り始めた。

 キュウリを程よい厚さに切って塩で揉む。しばらく置いておけば浅漬けになるだろう。少し硬いくらいでもいい。塩気は少し強めにしよう。塩と一緒に鰹節を細かくして混ぜ込んだ。
 
 梅干しのおにぎりと、卵焼き?それだとなんかお弁当みたいだな。厨房の人も困るかも。もう少し食べ応えがある方がいい。
 お味噌汁はなんか適当に作るとして……。あとは肉じゃがでも作ろうかな。とにかく急ごう。

 ニンジンとジャガイモを切って下茹でする。きちんと面取りもした。そして余っているお肉をもらう。牛肉の端切れをもらえた。けっこういいお肉だ。脂身は炒める時に使おう。

 朝のお茶漬けのための出汁があるので少しもらった。濃いめの出汁だったから少し薄めて……、ちょっと昆布を足そうかな。そのほうが肉じゃがには良さそう。
 出汁を手直ししているとみんなが味見しにくる。あんまり味見すると無くなっちゃうんだけどな。
 僕はお肉からも出汁が出るから風味は少し控えめにしたいんだと説明した。

 サラダに使った葉物野菜の余りも使ってしまおう。下茹でしてる鍋でさっと湯掻いて冷水に漬けておく。

 牛脂で鍋に油を引いて、薄切りにした牛肉とタマネギをさっと炒めて出汁を入れる。下茹でしていたジャガイモとニンジンも入れて少しお砂糖だけで煮込んだ。
 ジャガイモに火が通ったあたりで醤油とみりんで味付けをして葉物野菜を入れたら火を止める。うまく野菜に味が入れば良いけど間に合うかな。

 デミグラスソースに火を通すのを忘れてた。ソースの鍋を火にかけて面取りした野菜のクズなど放り込む。今日はこれで少し煮込んだら終わりにしよう。

 大きめの鍋で味噌汁を作る。出汁をもらってワカメとナスを入れる。ナスは軽く表面を焼いた後、食感がなくなるくらいクタクタになるまで弱火で茹でた。ご飯が炊けた頃、味噌汁も完成。
 肉じゃがの鍋にもう一度火を入れて水分を飛ばす。
 味が染みるように少し濃いめにしたから少し汁気が残るくらいまで煮込む。
 味見をしたら良い感じだ。出汁がしっかりしてたからちゃんと芯のある味付けになってる。
 フェルにはご飯をよそってもらって、味噌汁は厨房の人がやってくれた。
 
 肉じゃがは大皿2つに盛り付けてドーラさんの分だけはきちんとお皿に盛り付けた。厨房の皆さんにはそれぞれ適当にやってもらおう。

 そしてドーラさんのために梅干しのおにぎりを握る。もうひとつはふりかけのおにぎりにした。出汁をとった後の鰹節をもらって作った物だ。
 フェルもおにぎりが良いみたい。小さめでいいそうだ。そうだよね。さっき夕食食べたもんね。

 おにぎりを握るのってなんだか風呂敷で物を包むのに似てると思う。
 中に入れる具を炊き上がったお米で、大切な物を包むようにふんわりと柔らかく握る。
 ある程度形になったらご飯が解けないように優しくきゅっと結ぶんだ。
 食べるまでの時間にもよるけれどすぐに食べるなら口の中で解けやすいように優しく丁寧にお米を結んだほうがいい。
 おむすびって言うくらいだものな。
 出来上がったおにぎりをフェルが炙ってくれた海苔で包み込む。

 厨房の人たちは手の空いた人から交代で食べるみたい。調理台の隅でドーラさんとフェル、3人で賄いを食べる。
 そうは言っても僕はけっこうお腹いっぱいだから試食程度の量だ。フェルのお皿から少し肉じゃがをもらう。

 もう少し味が染みたほうが美味しいけれど濃いめの味付けにしたからまあまあの出来だ。味付けが薄いと感じることもない。
 面取りをしたことで気がついたこともあった。煮崩れしにくいと言うことは素材に熱を加える時間を延ばせると言うことでもある。使う素材によっては甘みをもっと引き出せるってことだ。
 ドーラさんがジャガイモを切らずにそのまま煮たのはきっとそう言う理由があったからだ。
 素材を丁寧に扱うか。奥が深いなぁ。

 おにぎりを一口食べてドーラさんの表情がふんわりとほころんだ。

「懐かしいねぇ。昔作ってもらった味だよ。優しい味がする」

「おにぎりなんて単純な料理だから誰が作っても同じような味がすると思いますけど」

「こういう単純な物だからこそ作る人の料理にこめる気持ちが重要なのさ。それこそその人の性格が出ると思ってもいい。あんたの料理は本当に優しい味がするよ」

 僕の料理。
 これまでずっと悩み続けていたことが、ドーラさんの言葉で手掛かりが見えてきた気がする。

「だいぶ昔のことだけどね。東の国から来た夫婦を助けたことがあるんだ。港町で追手に追われていてね。隣町に住んでいたセシルの家に連れて行ったんだ。セシルの家は当時領都よりもっと北の村にあってね。10年前の戦争でその村は無くなってしまったんだが半年くらいそこでその2人は暮らしていたよ」

 ドーラさんは優しい口調でその時のことを話してくれる。

「時々様子を見にセシルの家を訪ねた時はよく奥さんが夕飯を作ってくれてね。朝になって帰る時には途中で食べてと私にこのおにぎりを持たせてくれたものさ」

 その後2人は王都の方に向かったらしい。ドーラさんはその後結婚して領都で暮らし始めた。旦那さんは行商人だったけど行商の途中で魔物に襲われて亡くなったらしい。その後戦争があってセシルさんの村が焼かれたり、避難して来た人たちを受け入れたり、とにかくいろんなことがあったんだそうだ。

「やっと穏やかな暮らしが出来て、あんたの味噌汁を飲んだら不意に昔のことが懐かしくなってね。今日はありがとう。またいつでも屋台に遊びにおいで、あんたに教えてあげられることはほとんどないかもしれないが」

 ドーラさんはスティーブさんが送っていった。僕たちは後片付けを手伝ってから部屋に戻った。

 少し熱いお湯をバスタブに張って湯に浸かり体を伸ばす。
 今日はなんだかいい1日だったな。

 優しい気持ちが人を繋いでいく。
 その優しさが人と人を結びつける。
 それは料理に限ったことではないけれど、そんな気持ちを作る料理に込めたならば、きっとその結ばれた輪は少しずつ世界を良い方向に進めてくれるのではないだろうか。

 なんとなくそんなことを考えた。
 
 
 














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