冷遇王子を匿ったらまさかのアレがついてきた

すずね

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プロローグ

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 遠くで祝福の鐘が鳴っている。
 昼下がりの穏やかな風が、ブラウスのリボンを揺らした。

「エリアス、きれいだよ」
「うん……きれいに……してくれたみたい」
 艶やかな黒髪を一つに結んだ、黒曜石のような瞳の青年が優しく微笑みかける。
 黒地に金ボタンと金モールの飾りがついた軍隊風の礼服は威厳があり、最近体格が良くなってきた青年によく似合っている。
 彼の後ろにキラキラが舞っているように見えるのは、明るい日差しが窓から差し込んでいるせいなのか、それとも王族特有のオーラなのか。
 まぶしくて瞬きをしたら、風で乱れた髪を整えるように撫でられ、額にキスをされた。
 昨夜、家族として、兄弟のように仲良くやっていこうと言われて元気に同意したのに、本当の恋人同士のような扱いにクラクラと目がまわる。
 イケメン王子パワーを正面から大量に浴びて、どうにもおかしな感じになっている。さっきから顔が熱い。
 幸い、薄化粧を耳や首まで施されているから、赤くはなっていないはずだ。
 エリアスは鏡に映る自分の姿を確認する。
(赤くはなってないけど……)
 柔らかい金の髪と緑の瞳は母親譲りで、少女の様な顔立ちや華奢な体型も母や長女とよく似ている。
 いつもは使用人のような服装で屋敷や庭をうろついているエリアスも、さすがに今日は正装に着替え、肩まで伸びた髪はハーフアップにして家宝の髪飾りで留めている。
 魔鉱石の粉でコーティングした特注の白い式服は真珠のような光沢があり、十分に格式高い装いなのだが、それでもまだ華やかさが足りないと、フリルやリボンをふんだんに追加された結果、妖精か天使かという可愛らしさになってしまった。
 婚約式だからと侍女達が張り切っていたが、男なのにやりすぎではないかと鏡から目を逸らす。
「アルも……カッコいいよ」
「ありがとう。このまま婚姻式でもいいのだけれど」
 再び髪を整えるように撫でて、ついでのように頬を指の背で撫でた。
 声も仕草も甘い。甘すぎる。

 従者に呼ばれて控の間から廊下に出る。

 漆黒の王子はエリアスの手を取り、指を絡ませて手をつなぐ。
 王国の第三王子であるアルベルトがエリアスの領地に来てもうすぐ2年になる。
 手を繋いだり抱っこされたり撫でられたりは日常茶飯事だったのに、今日はどうにも照れくさくて困る。

 会場の前で侍女にお直しをしてもらい、二人顔を見合わせて頷く。
 扉を開けると、招待客からの大きな拍手と歓声に迎えられた。
 階下を見渡せば、見慣れた大広間の中央には両親と二人の姉、未来の義兄達が拍手と笑顔でこちらを見上げている。
 生まれる前の記憶、おぼろげに覚えている前世の記憶では、独身で母の介護と仕事に明け暮れ、寂しい余生を過ごした。
 そんな自分が婚約、しかも相手は男性で側妃の子とはいえ王子である。
 隣を見上げたら、いつもは表情が読めない男のとびきり甘々な笑顔が返ってきた。
 そして、大きくて温かい手が、一回り小さなエリアスの手をしっかりと握っている。
 急に胸の辺りが熱くなり、涙が出そうになる。
 女のお嫁さんが欲しかったとか、姉に家督を譲ってのんびり美味しいものを作りながら領地改革をしたかったとか、不満は山ほどあった。
 なのに、そんなものはこの瞬間に全部吹っ飛んだ。
 政敵に狙われているこの人の命を守りたい。
 年上の男嫁だが、この手で絶対に幸せにすると心に決めた。
 女の嫁は諦めたが、食と領地改革はまだ諦めていない。
(美味しいものも、まだまだいっぱい食べさせてあげるからね!)

 二人で階段を降りて父の元へ歩み寄ると、完璧な笑顔の母に対し、父は泣きそうになっている。
 そんな二人を見た途端、なんだか面白くなってしまい、溢れそうになった涙はすっかり引っ込んでしまった。
 家族全員が揃ったところで父から招待客に婚約報告を、嫡男であるエリアスと婚約者アルベルトからはそれぞれ挨拶を告げて、盛大な婚約の宴が始まった。

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