冷遇王子を匿ったらまさかのアレがついてきた

すずね

文字の大きさ
2 / 17

第1話 1

しおりを挟む
 エリアスは全力で走っている。
 屋敷には、7歳の誕生祭の為に集まった招待客が滞在しているから、いつものように廊下をうろつくわけにはいかない。
 ましてやエリアスは本日の主役なのだ。
 なので、遠回りだが庭を走っている。
 初夏の日差しが頭上から照り付け、背中にはびっしょりと汗をかいている。
 部屋に戻ったら、侍女の小言を聞きながら2度目の入浴をすることになるだろう。

 だが、今はそれどころではないのだ。
 念願だったアイスクリームを祝宴のメニューに加えたものの、例年にない猛暑で冷凍庫の魔石が過剰に消費され、このままでは客に振る舞う前に溶けそうなのである。
 冷凍庫内はまだ冷気に満ちているので、上手くすれば客に出すまで持つかもしれない。
 だが持たないかもしれない。
 王族貴族が集まる式典の宴で、溶けかけのアイスなど出すわけにいかない。

「エリアス坊ちゃま、そんなに走られて怪我をしてはいけません。私がお使いをしますからどうかお部屋にお戻りください」
 追いかけてきた従者が並走する。
「アイスクリームは一度溶けたら固くなっちゃうからダメなんだよ。僕がデザートに出すって決めたんだから、責任は僕がとる!」
「分かりました。では、失礼して」
 従者は身体強化の魔術を使い、エリアスを抱き上げて倍の速さで走り出した。


 そんな様子を客室から見下ろす者がいた。
「あれはここの嫡男ではないか?」
「そうですね。可愛らしい少年ですが、汗まみれですね」
 案内を待つ間、広い庭園の様子などを眺めていた招待客の一組だった。
「式典に間に合うのだろうか」
「子供の支度なので手はかからないでしょう。元の見目が良いから手を加える必要もなさそうですし」
「確かにな」
 相槌を打った者もまた少年で、整った容姿のため支度の手間はたいして掛からない。
 着替えて髪を軽く整えるだけなので、とっくに済ませて従者と共に寛いでいた。
「騒いでいたアイスクリームとやらが気になるな」
「式典後の宴で振る舞われるのでしょう」
 興味深そうに、走り去る姿を見送った。


 厨房に入ると、エリアスの依頼通り氷を作る魔術に長けた者が2名来ていた。
 到着後すぐに作業を開始していたようで、作業台にある鉄製の大きなボウルや空き容器には、魔術で作った氷が大量に入っている。
「塩は多めにある? 溶けにくいように塩を振ってからバットに広げてね!」
「はい、塩の準備も万端です。皆、急いで並べて冷凍庫に戻すぞ!」
 デザート担当の声掛けで、手の空いた者が指示に従う。
「忙しいのに、余計な手間をかけさせてごめんね」
 エリアスの声に、厨房の者達は笑顔で大丈夫だと返す。
 大量の氷を作ってくれた二人にも礼を伝えた。
 一人は、最近よくエリアスについてくれる従者である。
「いえ、私は今日は非番なので」
 もう一人は、昔よく世話をしてくれていた侍女だ。
「私はユリア様のお支度が終わったので、夕方まで休憩なのです」
「お休みの時間だったんだね。助かったよ、本当にありがとう。そうだ、お礼に焼き菓子の味見用を二人に分けてあげてもいいかな?」
 料理長に許可を取り、形が崩れた菓子を持たせて、エリアスは再び庭を通って部屋に戻っていった。

 案の定、侍女達に怒られて、再び湯浴みをすることになったが、大事なデザートのために奔走した事は後悔していない。
 せっかく遠いところから多くの人が集まってくれるのだから、珍しくておいしいものを食べさせてあげたい。
 それに、彼らの驚いた顔を見たいという悪戯心もある。

 エリアスは、広大な土地を持つアルゼーゲン王国四大公爵家の一つ、グラナート家の嫡男であるが、同時に日本で過ごした記憶も持っている。
 少し前までは、それが特別変わったことだとは認識していなかった。
 なかなか言葉を話せなかったり、読み書きができなかったり、おかしなことを言う子供だと周囲からは思われていたが、日本語や日本の記憶が先にあることで、この世界の常識に合わせることができなかったのだろう。
 父親のサムエルは北部辺境軍の総長という立場のため屋敷を留守にしがちで、母バレンティーナは長女ユリアと次女ラウラの社交教育で忙しく、それに加えて多くの使用人が交代でエリアスの世話をしていたので、その特異性に気付く者はいなかった。
 ただ、同世代の使用人の男児達と比べて覚えが悪いように見えたことから、能力の低い子供とみなされていた。
 それが誤解だと分かったのは、今まで断片的だった情報を順序立てて話せるようになった5歳前後からだろうか。
 特に食については、王国では知られていない食品や調理法、薬としての利用法など語り始め、皆を驚かせた。
 そんな、前世の記憶をフル活用して考案した料理が、今回の誕生祭の宴に供される美食の数々である。
 食事については、なるべくなじみのあるメニューを味付けや盛り付けで工夫して、飲み物については同じくなじみのあるものを中心に、カクテルや炭酸飲料など、王都に住まう新しいもの好きの者達の心をくすぐるようなものを用意した。
 特に力を入れたのはデザートとお土産で、そのデザートというのが先ほど大慌てで氷の準備をしたアイスクリームなのである。
 去年の夏に、あまりの暑さに先ほどの従者につきまとい、氷のかけらを出してもらい舐めていた時に、氷菓子を作れないかと思いついたのだ。
 そこから、ミルクと砂糖を混ぜたものや果汁を凍らせて、シャーベットを作って食べていた。
 コクとなめらかさを求めて生卵を入れようとしたら、食中毒を起こすことがあるからと厨房で止められた。
 何としてもアイスクリームを作りたくて、支援を求めて家族にシャーベットを振る舞ったところ大絶賛で、協力を取り付けることができた。
 先ずは冷凍専用の大きな鉄製食品庫を作り、温熱遮断とそれを持続させる術式を付与し、動力源である大量の魔石を取り寄せて冷凍庫を作ってくれた。
 更になんと、生卵は魔術で殺菌洗浄できるそうで、領地の医療院から魔術師をスカウトしてきた。
 そうこうしている間に季節は冬になってしまい、昨年は完成に至らなかったが、今年は暖かくなってから実験を重ね、なめらかなアイスクリームが完成したのだ。
 貴族令息令嬢は、7歳の誕生日を境に少年貴族として社交に出ることになるので、大きな節目の祝いになる。
 そんな大事な誕生祭だからこそ、特別な料理を出したかったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

ぼくが風になるまえに――

まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」 学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。 ――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。 精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。 「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」 異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。 切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。 ダレン×フロル どうぞよろしくお願いいたします。

【本編完結】おもてなしに性接待はアリですか?

チョロケロ
BL
旅人など滅多に来ない超ド田舎な村にモンスターが現れた。慌てふためいた村民たちはギルドに依頼し冒険者を手配した。数日後、村にやって来た冒険者があまりにも男前なので度肝を抜かれる村民たち。 モンスターを討伐するには数日かかるらしい。それまで冒険者はこの村に滞在してくれる。 こんなド田舎な村にわざわざ来てくれた冒険者に感謝し、おもてなしがしたいと思った村民たち。 ワシらに出来ることはなにかないだろうか? と考えた。そこで村民たちは、性接待を思い付いたのだ!性接待を行うのは、村で唯一の若者、ネリル。本当は若いおなごの方がよいのかもしれんが、まあ仕方ないな。などと思いながらすぐに実行に移す。はたして冒険者は村民渾身の性接待を喜んでくれるのだろうか? ※不定期更新です。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。 ※よろしくお願いします。

娘の代用品にすぎない偽令嬢(男)は、聖女毒殺の罪で兄に焼き殺されて回帰する

人生2929回血迷った人
BL
侯爵家に拾われた孤児の少年は、死んだ娘の「代用品」として育てられた。 名前も、仕草も、笑い方さえも。 ──すべてが他人の模倣品。 家族の愛を渇望しながら、彼はリリアンヌ・ウィンスレットとして生き続けた。 そんな彼には、皇太子ルシアンという婚約者がいた。 リリアンヌのことが好きだと言ってくれた優しい婚約者。 しかし、男であるリリアンヌは、ルシアンの想いに応えられず、逃げるという選択肢を取った。 その結果、今彼の隣にいるのは聖女セレネ。 婚約者としての気遣いは受けるものの、彼の心はセレネにあった。 彼女の嫌味に耐え、出席した3人のお茶会。 セレネはリリアンヌが淹れた紅茶を飲んで、血を吐いて倒れた。 もちろんリリアンヌは毒なんて入れていない。 しかし、弁明の余地はなかった。 杜撰な証言と作り物の証拠だけで、彼の罪は確定した。 裁判は形だけで行われ、彼の人生を捧げた侯爵家は無言を貫いた。 彼の人生はいつもこうだった。 だれも彼を助けに来ない。 母が死んだあの日から、それは変わらない。 あぁ、でも……、やっと楽になれる?

陰気な令息は騎士の献身に焦がれるも、光の王子に阻まれる

マジ卍
BL
憧れの騎士を観察していただけなのに。光り輝く完璧王子が、シャツを脱ぎ捨て「俺じゃダメなの?」と迫ってきました。

ボスルートがあるなんて聞いてない!

BL
夜寝て、朝起きたらサブ垢の姿でゲームの世界に!? キャラメイクを終え、明日から早速遊ぼうとベッドに入ったはず。 それがどうして外に!?しかも森!?ここどこだよ! ゲームとは違う動きをするも、なんだかんだゲーム通りに進んでしまい....? あれ?お前ボスキャラじゃなかったっけ? 不器用イケメン×楽観的イケメン(中身モブ) ※更新遅め

公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します

市之川めい
BL
魔王を倒した英雄によって建国されたグレンロシェ王国。その後は現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れている。 四大公爵家嫡男、容姿端麗、成績優秀と全てにおいて恵まれているジルベールは、いつか自分も英雄になると思い、周りには貴公子然とした態度で接しながらも裏では使用人の息子、レオンに対して傲慢に振る舞い性的な関係まで強要していた。 だが、魔王の襲来時に平民であるはずのレオンが英雄になった。 自分とレオンの出生の秘密を知ったジルベールは恥ずかしくなって逃走することにしたが、レオンが迎えに来て……。 ※性描写あり。他サイトにも掲載しています。

処理中です...