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19 閑話 或る男の追憶
しおりを挟むそれは、茹だるように暑い夏の日だった。
夜のような黒い髪に、月のような銀の瞳のまだ幼い少女。
どこからか現れて、百合畑に一人佇んでいた私に声を掛けた。
◇
私は驚いた。
百合の花を一輪差し出すのは、竜族においては求婚の証だった。
竜の血をひいているでもない、こんな幼い少女がそんな意味を知る訳がない。
おそらく落ち込んでいる私をなんとかしようと、精いっぱい出来ることを考えてくれただけなのだろう。
他意など無かったに違いない。
それでも、私は彼女が私を勇気づけようと花を差し出してくれたことが、言葉にできないほど嬉しかった。
彼女の魂は、白く発光するような眩しさと温かさを持っていた。
私は一瞬で虜になった。
基本的に竜は気が長い。
しかし、これと思えば決断するのは電光石火のように早いのだ。
幾星霜の年月を経て、我が一族の寿命は人並みになっても、気質は変わらなかった。
先祖返りが強く出た私は、特にその気質が強かった。
私は彼女に魂の契約をすることを決めた。
運命という他者によって定められた番よりも重い、自らの意志によって選んだ相手に捧げる生涯で一度の竜だけの誓い。
彼女こそが私の唯一。
彼女が誰を選ぶのも自由だが、私は彼女だけを生涯思い続ける。
彼女がただ幸せになってくれれば、それでいい。
そのためには、どんな事でもしよう。
彼女が幸せならば、私のことなど忘れたとしても構わない。
だが、彼女がもしも幸せでなくなってしまったとしたら・・・そんなことは、あってほしくないが、その時はどこにでも迎えに行って私が絶対に幸せにする、そう誓った。
見守っているよ、アメリア。
どうかその満月のように優しい笑顔を、いつまでも絶やさないでおくれ。
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