あなたのためなら

天海月

文字の大きさ
19 / 37

18

しおりを挟む
アメリアは頁をめくる手を止めて、本を閉じると重い溜息をついた。

そろそろ休憩しなくては・・・

一度公務の最中に倒れそうになったことが切っ掛けで、きつい食事制限は既に止めていたが、彼女の体形は元のようには中々戻らなかった。

また大分、体力が落ちてしまったわ・・・

自らの手によってこれ以上無い程に痛めつけられたアメリアの内臓は、ストライキでも起こしたかのように彼女の意思とは裏腹に、食物を受け入れることをひたすらに拒んでいた。

柔らかいものを十分に咀嚼して飲み込もうとしても、まるで胃の中に針の束を入れられたような鋭い痛みが走る。

必然的に、満足な食事を摂ることなど不可能だった。

晩餐になっても、アメリアにとってメインディッシュは飾りのようなもので、はじめに供されるスープくらいしか手を付けることができなかった。

アメリアは食べたいと思ったが、自らの身体はそれを一切許可しなかった。

唯一口にすることが出来るスープですら、生温い泥水を飲んでいるように感じられた。

いつの間にか味覚すら失っていた彼女にとって、もはや食事の時間は苦痛でしかなくなっていた。

食べられないのに、空腹感だけは無くなってくれない。

地獄に落ちた咎人は永遠の空腹に苦しむというが、きっと今の自分のような気持ちに違いない、そうアメリアは夢想した。


自分はそんな状態にも関わらず、多忙を理由に食事を共にしないセルヴィスに対して見苦しいものを見せずに済んで良かったとさえ、彼女は思っているところがあった。


殆ど栄養失調に近い状態に陥っている彼女には、長時間の読書は酷く疲労感を覚える重労働のように感じられた。

筋力も落ちて、本を読む最中に手を添えておくという簡単な事さえ辛かった。

心なしか目の霞みも、日毎に酷くなっているような気がしたが、それについて考えれば更に憂鬱になりそうに思えて、無理にでも気持ちを切り替えようとした。





手に入る範囲の医学書を読み漁ったが、セルヴィスが一体どんな病に罹患しているのか、アメリアには判らなかった。

アメリアには手掛かりが少なすぎた。

正直、手詰まりだった。

何の病か特定するにしても、セルヴィスに出ているであろう病の症状自体がどんなものなのか、判然としなかった。

アメリアはセルヴィスの挙動を注意深く観察していたが、何の手掛かりも見つけられなかった。

医師に相談するにしても、セルヴィス自身が秘匿しようとしている以上、第三者の自分が告げ口するような真似は憚られた。

現状で把握している彼の症状は、薬の副作用と思われる二点のみだった。

痣の黒化と、番の認識機能の低下。

それ以外の症状が全くわからないのだ。

薬の副作用だという前提そのものが、見当違いだったのかもしれない、とアメリアは思った。

もしかしたら、病ではなくて何か呪いの類なのかもしれない・・・

彼女は自分が確信を持っていたはずの仮説が揺らぐのを感じた。

今にも辿り着けそうだと考えていた答え探しは徒労に終わり、全ては振り出しに戻ってしまったのだと思うと、虚無感しか残らなかった。


きっと上手くいけばセルヴィスは笑ってくれるはずだと思っていた当てが外れたことで、アメリアの頭の中は彼から向けられた蔑むような視線の記憶で埋め尽くされた。

やっぱり自分なんて居ない方が良いのだ、という暗い思いが湧き上がってくる。

自分を責め立てるような思考が際限なく溢れてきて、それが止めどなく繰り返される。

アメリアはもう何も考えたくないと思った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆
恋愛
「まあ、ご覧になって。またいらしているわ」 「あの格好でよく恥ずかしげもなく人前に顔を出せたものねぇ。わたくしだったら耐えられないわ」 「ああはなりたくないわ」 「ええ、本当に」  クスクスクス……  クスクスクス……  外交官のデュナミス・グローは赴任先の獣人国で、毎回ボロボロのドレスを着て夜会に参加するやせ細った女性を見てしまう。彼女はパルフォア・アルテサーノ伯爵夫人。どうやら、獣人が暮らすその国では『運命の番』という存在が特別視されていて、結婚後に運命の番が現れてしまったことで、本人には何の落ち度もないのに結婚生活が破綻するケースが問題となっているらしい。法律で離婚が認められていないせいで、夫からどんなに酷い扱いを受けても耐え続けるしかないのだ。  伯爵夫人との穏やかな交流の中で、デュナミスは陰口を叩かれても微笑みを絶やさない彼女の凛とした姿に次第に心惹かれていく。  それというのも、実はデュナミス自身にも国を出るに至ったつらい過去があって……

婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢ルイーズは、婚約者であるジュノー大公国の太子アレクサンドが最近とある子爵令嬢と親しくしていることに悩んでいた。 そんなある時、ルイーズの乗った馬車が襲われてしまう。 死を覚悟した前に現れたのは婚約者とよく似た男で、彼に拐われたルイーズは……

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

彼女は白を選ばない

黒猫子猫
恋愛
ヴェルークは、深い悲しみと苦しみの中で、運命の相手とも言える『番』ティナを見つけた。気高く美しかったティナを護り、熱烈に求愛したつもりだったが、彼女はどうにもよそよそしい。 プロポーズしようとすれば、『やめて』と嫌がる。彼女の両親を押し切ると、渋々ながら結婚を受け入れたはずだったが、花嫁衣装もなかなか決めようとしない。 そんなティナに、ヴェルークは苦笑するしかなかった。前世でも、彼女は自分との結婚を拒んでいたからだ。 ※短編『彼が愛した王女はもういない』の関連作となりますが、これのみでも読めます。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

嘘だったなんてそんな嘘は信じません

ミカン♬
恋愛
婚約者のキリアン様が大好きなディアナ。ある日偶然キリアン様の本音を聞いてしまう。流れは一気に婚約解消に向かっていくのだけど・・・迷うディアナはどうする? ありふれた婚約解消の数日間を切り取った可愛い恋のお話です。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...