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アメリアは頁をめくる手を止めて、本を閉じると重い溜息をついた。
そろそろ休憩しなくては・・・
一度公務の最中に倒れそうになったことが切っ掛けで、きつい食事制限は既に止めていたが、彼女の体形は元のようには中々戻らなかった。
また大分、体力が落ちてしまったわ・・・
自らの手によってこれ以上無い程に痛めつけられたアメリアの内臓は、ストライキでも起こしたかのように彼女の意思とは裏腹に、食物を受け入れることをひたすらに拒んでいた。
柔らかいものを十分に咀嚼して飲み込もうとしても、まるで胃の中に針の束を入れられたような鋭い痛みが走る。
必然的に、満足な食事を摂ることなど不可能だった。
晩餐になっても、アメリアにとってメインディッシュは飾りのようなもので、はじめに供されるスープくらいしか手を付けることができなかった。
アメリアは食べたいと思ったが、自らの身体はそれを一切許可しなかった。
唯一口にすることが出来るスープですら、生温い泥水を飲んでいるように感じられた。
いつの間にか味覚すら失っていた彼女にとって、もはや食事の時間は苦痛でしかなくなっていた。
食べられないのに、空腹感だけは無くなってくれない。
地獄に落ちた咎人は永遠の空腹に苦しむというが、きっと今の自分のような気持ちに違いない、そうアメリアは夢想した。
自分はそんな状態にも関わらず、多忙を理由に食事を共にしないセルヴィスに対して見苦しいものを見せずに済んで良かったとさえ、彼女は思っているところがあった。
殆ど栄養失調に近い状態に陥っている彼女には、長時間の読書は酷く疲労感を覚える重労働のように感じられた。
筋力も落ちて、本を読む最中に手を添えておくという簡単な事さえ辛かった。
心なしか目の霞みも、日毎に酷くなっているような気がしたが、それについて考えれば更に憂鬱になりそうに思えて、無理にでも気持ちを切り替えようとした。
◇
手に入る範囲の医学書を読み漁ったが、セルヴィスが一体どんな病に罹患しているのか、アメリアには判らなかった。
アメリアには手掛かりが少なすぎた。
正直、手詰まりだった。
何の病か特定するにしても、セルヴィスに出ているであろう病の症状自体がどんなものなのか、判然としなかった。
アメリアはセルヴィスの挙動を注意深く観察していたが、何の手掛かりも見つけられなかった。
医師に相談するにしても、セルヴィス自身が秘匿しようとしている以上、第三者の自分が告げ口するような真似は憚られた。
現状で把握している彼の症状は、薬の副作用と思われる二点のみだった。
痣の黒化と、番の認識機能の低下。
それ以外の症状が全くわからないのだ。
薬の副作用だという前提そのものが、見当違いだったのかもしれない、とアメリアは思った。
もしかしたら、病ではなくて何か呪いの類なのかもしれない・・・
彼女は自分が確信を持っていたはずの仮説が揺らぐのを感じた。
今にも辿り着けそうだと考えていた答え探しは徒労に終わり、全ては振り出しに戻ってしまったのだと思うと、虚無感しか残らなかった。
きっと上手くいけばセルヴィスは笑ってくれるはずだと思っていた当てが外れたことで、アメリアの頭の中は彼から向けられた蔑むような視線の記憶で埋め尽くされた。
やっぱり自分なんて居ない方が良いのだ、という暗い思いが湧き上がってくる。
自分を責め立てるような思考が際限なく溢れてきて、それが止めどなく繰り返される。
アメリアはもう何も考えたくないと思った。
そろそろ休憩しなくては・・・
一度公務の最中に倒れそうになったことが切っ掛けで、きつい食事制限は既に止めていたが、彼女の体形は元のようには中々戻らなかった。
また大分、体力が落ちてしまったわ・・・
自らの手によってこれ以上無い程に痛めつけられたアメリアの内臓は、ストライキでも起こしたかのように彼女の意思とは裏腹に、食物を受け入れることをひたすらに拒んでいた。
柔らかいものを十分に咀嚼して飲み込もうとしても、まるで胃の中に針の束を入れられたような鋭い痛みが走る。
必然的に、満足な食事を摂ることなど不可能だった。
晩餐になっても、アメリアにとってメインディッシュは飾りのようなもので、はじめに供されるスープくらいしか手を付けることができなかった。
アメリアは食べたいと思ったが、自らの身体はそれを一切許可しなかった。
唯一口にすることが出来るスープですら、生温い泥水を飲んでいるように感じられた。
いつの間にか味覚すら失っていた彼女にとって、もはや食事の時間は苦痛でしかなくなっていた。
食べられないのに、空腹感だけは無くなってくれない。
地獄に落ちた咎人は永遠の空腹に苦しむというが、きっと今の自分のような気持ちに違いない、そうアメリアは夢想した。
自分はそんな状態にも関わらず、多忙を理由に食事を共にしないセルヴィスに対して見苦しいものを見せずに済んで良かったとさえ、彼女は思っているところがあった。
殆ど栄養失調に近い状態に陥っている彼女には、長時間の読書は酷く疲労感を覚える重労働のように感じられた。
筋力も落ちて、本を読む最中に手を添えておくという簡単な事さえ辛かった。
心なしか目の霞みも、日毎に酷くなっているような気がしたが、それについて考えれば更に憂鬱になりそうに思えて、無理にでも気持ちを切り替えようとした。
◇
手に入る範囲の医学書を読み漁ったが、セルヴィスが一体どんな病に罹患しているのか、アメリアには判らなかった。
アメリアには手掛かりが少なすぎた。
正直、手詰まりだった。
何の病か特定するにしても、セルヴィスに出ているであろう病の症状自体がどんなものなのか、判然としなかった。
アメリアはセルヴィスの挙動を注意深く観察していたが、何の手掛かりも見つけられなかった。
医師に相談するにしても、セルヴィス自身が秘匿しようとしている以上、第三者の自分が告げ口するような真似は憚られた。
現状で把握している彼の症状は、薬の副作用と思われる二点のみだった。
痣の黒化と、番の認識機能の低下。
それ以外の症状が全くわからないのだ。
薬の副作用だという前提そのものが、見当違いだったのかもしれない、とアメリアは思った。
もしかしたら、病ではなくて何か呪いの類なのかもしれない・・・
彼女は自分が確信を持っていたはずの仮説が揺らぐのを感じた。
今にも辿り着けそうだと考えていた答え探しは徒労に終わり、全ては振り出しに戻ってしまったのだと思うと、虚無感しか残らなかった。
きっと上手くいけばセルヴィスは笑ってくれるはずだと思っていた当てが外れたことで、アメリアの頭の中は彼から向けられた蔑むような視線の記憶で埋め尽くされた。
やっぱり自分なんて居ない方が良いのだ、という暗い思いが湧き上がってくる。
自分を責め立てるような思考が際限なく溢れてきて、それが止めどなく繰り返される。
アメリアはもう何も考えたくないと思った。
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