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それは、彼女にとっては明確な裏切り同然だった。
だが、だれも責めることができないような、行き場のない気持ちだけがあった。
アメリアの自尊心は粉々だった。
もう希望も何も何もないのだ。
初めから自分は望まれてすら居なかった。
そして、これから愛されることも決してない。
ここに居る意味などもうない、否、初めからここに居る意味など存在しなかったのだと。
そもそも、この関係は始まる前から終わっていたのだ。
それはもはや、裏切りでも何でもないのかもしれない。
ただの自分の長い長い独り芝居だったのだと思った。
彼は一度も舞台に立ってすら居なかった。
◇
自分はセルヴィスの事を愛していると、ずっと思ってきた。
彼から愛されなかったとしても、自分だけは愛し続けるのだという信念すら持っていた。
だが、すべてが明らかになった今、自分は彼を愛しているのか、それすらよく解らなくなってしまった。
そもそも、それは愛だったのか、それすら自信が持てなかった。
どれだけ尽くしても自分を顧みてくれることが無い人間から、どうにかして注目されたいという醜い渇望だったのかさえ判然としない。
アメリアは、もうここには居たくないと思った。
かと言って、どこに行きたいという訳でもない。
ただ、この止まることのない不愉快で惨めな脳内の活動を、何とかして停止させたい。
彼女には、もうそれだけしか考えられなかった。
既に正常とは言えなかった彼女の精神状態に、明らかになった真実はとどめをさしたのだった。
もう疲れたわ・・・
アメリアは安らぎに満ちた微笑を浮かべた。
ずいぶん久しぶりに笑ったような気がする、そんなことを彼女はぼんやりと思った。
それから、自室の机の中にいつからか入れてあった、小さなナイフを手際よく取り出すと、徐に鞘から抜いた。
そして、ゆっくりと心臓まで刺し抜くようにその胸の痣を貫いたのだった。
不思議と痛みは感じなかった。
じんわりと滲みるような柔らかな熱だけが、広がったように感じられた。
やっぱり、最期に嘘でも良いから、一度くらい笑って欲しかった・・・
アメリアは、ふと夢なのか現実なのかよく判らない記憶の中にある、いつかの優しげな翡翠色の瞳を思った。
セルヴィス様に惹かれた気がしたのは、はじめは番の痣が知らせる熱のせいだったかもしれない・・・
けれど、いつまでも私に冷たいままだった彼から、どうしても愛されたいと思い続けたのは、番だったからではなかったのね、
きっとあの人に似ていたからだわ・・・
私は、あの夏の日に出会ったあの人の笑顔が、もう一度見たかったの・・・
私が百合の花を手渡したあの人・・・
今なら解る、
ナーヴェ様、たとえ瞳の色が違ったとしてもあれはあなただったのだと・・・
あんなに優しい瞳で私を見つめる人を他に知らないのに・・・
どうして、もっと早く気が付かなかったのかしら・・・
アメリアは温かな暗闇の底へ沈んでいった。
だが、だれも責めることができないような、行き場のない気持ちだけがあった。
アメリアの自尊心は粉々だった。
もう希望も何も何もないのだ。
初めから自分は望まれてすら居なかった。
そして、これから愛されることも決してない。
ここに居る意味などもうない、否、初めからここに居る意味など存在しなかったのだと。
そもそも、この関係は始まる前から終わっていたのだ。
それはもはや、裏切りでも何でもないのかもしれない。
ただの自分の長い長い独り芝居だったのだと思った。
彼は一度も舞台に立ってすら居なかった。
◇
自分はセルヴィスの事を愛していると、ずっと思ってきた。
彼から愛されなかったとしても、自分だけは愛し続けるのだという信念すら持っていた。
だが、すべてが明らかになった今、自分は彼を愛しているのか、それすらよく解らなくなってしまった。
そもそも、それは愛だったのか、それすら自信が持てなかった。
どれだけ尽くしても自分を顧みてくれることが無い人間から、どうにかして注目されたいという醜い渇望だったのかさえ判然としない。
アメリアは、もうここには居たくないと思った。
かと言って、どこに行きたいという訳でもない。
ただ、この止まることのない不愉快で惨めな脳内の活動を、何とかして停止させたい。
彼女には、もうそれだけしか考えられなかった。
既に正常とは言えなかった彼女の精神状態に、明らかになった真実はとどめをさしたのだった。
もう疲れたわ・・・
アメリアは安らぎに満ちた微笑を浮かべた。
ずいぶん久しぶりに笑ったような気がする、そんなことを彼女はぼんやりと思った。
それから、自室の机の中にいつからか入れてあった、小さなナイフを手際よく取り出すと、徐に鞘から抜いた。
そして、ゆっくりと心臓まで刺し抜くようにその胸の痣を貫いたのだった。
不思議と痛みは感じなかった。
じんわりと滲みるような柔らかな熱だけが、広がったように感じられた。
やっぱり、最期に嘘でも良いから、一度くらい笑って欲しかった・・・
アメリアは、ふと夢なのか現実なのかよく判らない記憶の中にある、いつかの優しげな翡翠色の瞳を思った。
セルヴィス様に惹かれた気がしたのは、はじめは番の痣が知らせる熱のせいだったかもしれない・・・
けれど、いつまでも私に冷たいままだった彼から、どうしても愛されたいと思い続けたのは、番だったからではなかったのね、
きっとあの人に似ていたからだわ・・・
私は、あの夏の日に出会ったあの人の笑顔が、もう一度見たかったの・・・
私が百合の花を手渡したあの人・・・
今なら解る、
ナーヴェ様、たとえ瞳の色が違ったとしてもあれはあなただったのだと・・・
あんなに優しい瞳で私を見つめる人を他に知らないのに・・・
どうして、もっと早く気が付かなかったのかしら・・・
アメリアは温かな暗闇の底へ沈んでいった。
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