29 / 37
28
しおりを挟む
王の執務室で、二人の同じ顔を持つ男は、向かい合っていた。
緑の視線が絡み合う。
あんなに分かりやすい記録が残っていたにも関わらず、なぜ自分は今まで気づかず見逃していたのだろう。
自身の推論によって、アメリアと同様の結論に至ったナーヴェが、セルヴィスに問いかけていた。
「自覚があったか知りませんが、処刑されたあの女が兄上にとっての唯一だったのでしょう?」
「情けないが、彼女を失ってから気づいた。かつての私にとって、必要なものも、そうでないものも、すべて向こうからやって来るのが当たり前だった。だから、失うまで気が付けなかった・・・すべてが遅すぎた。愚かだな・・・」
「それで、自暴自棄になってあの薬を飲んだというのですか?」
セルヴィスは静かに頷いた。
「薬の効果は絶大だった。痣は黒く変色し、思った通りの結果になった。だが、薬の効果は意図していたよりも強力に作用した。今思えば馬鹿げた行為だったが、当時の私は至極真剣に思い詰めていた・・・。
もう後先の事を考えることすら出来なくなっていた私は、確実に効果があるという量の倍は飲んだ。おそらく、それが作用し番の痣近くにあるという、愛の感情を司る器官も損傷を受けてしまったのだろう。その時から私の愛は、機能を完全に失ってしまった。自業自得とはいえ、大きな代償だった・・・後悔が全くなかったとは言えない。今の私はかつて愛しいと思った女性との思い出すら、他人の記憶のようにしか感じられなくなってしまったのだから・・・」
「兄上・・・」
「アメリアと最初に引き合わされた時、正直に伝えるべきだったのだろう。添い遂げることはかなわない・・・と。だが、私の中で都合のいい期待もどこかにあって、本当の番と過ごせば、愛の機能が回復する可能性が僅かにでもあるのではないか・・・と考えた。
自ら薬を飲んだのだから自業自得なくせに、何を今更勝手なことを考えているのかと、我ながら都合のいい人間だとも思ったが、やはり因果応報なもので、愛の感情が戻ることは無かった」
セルヴィスは自嘲するように、そう言ったのだった。
緑の視線が絡み合う。
あんなに分かりやすい記録が残っていたにも関わらず、なぜ自分は今まで気づかず見逃していたのだろう。
自身の推論によって、アメリアと同様の結論に至ったナーヴェが、セルヴィスに問いかけていた。
「自覚があったか知りませんが、処刑されたあの女が兄上にとっての唯一だったのでしょう?」
「情けないが、彼女を失ってから気づいた。かつての私にとって、必要なものも、そうでないものも、すべて向こうからやって来るのが当たり前だった。だから、失うまで気が付けなかった・・・すべてが遅すぎた。愚かだな・・・」
「それで、自暴自棄になってあの薬を飲んだというのですか?」
セルヴィスは静かに頷いた。
「薬の効果は絶大だった。痣は黒く変色し、思った通りの結果になった。だが、薬の効果は意図していたよりも強力に作用した。今思えば馬鹿げた行為だったが、当時の私は至極真剣に思い詰めていた・・・。
もう後先の事を考えることすら出来なくなっていた私は、確実に効果があるという量の倍は飲んだ。おそらく、それが作用し番の痣近くにあるという、愛の感情を司る器官も損傷を受けてしまったのだろう。その時から私の愛は、機能を完全に失ってしまった。自業自得とはいえ、大きな代償だった・・・後悔が全くなかったとは言えない。今の私はかつて愛しいと思った女性との思い出すら、他人の記憶のようにしか感じられなくなってしまったのだから・・・」
「兄上・・・」
「アメリアと最初に引き合わされた時、正直に伝えるべきだったのだろう。添い遂げることはかなわない・・・と。だが、私の中で都合のいい期待もどこかにあって、本当の番と過ごせば、愛の機能が回復する可能性が僅かにでもあるのではないか・・・と考えた。
自ら薬を飲んだのだから自業自得なくせに、何を今更勝手なことを考えているのかと、我ながら都合のいい人間だとも思ったが、やはり因果応報なもので、愛の感情が戻ることは無かった」
セルヴィスは自嘲するように、そう言ったのだった。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたの瞳に映るのは
今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。
全てはあなたを手に入れるために。
長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。
★完結保証★
全19話執筆済み。4万字程度です。
前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。
表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
【完結】 婚約破棄間近の婚約者が、記憶をなくしました
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
その日、砂漠の国マレから留学に来ていた第13皇女バステトは、とうとうやらかしてしまった。
婚約者である王子ルークが好意を寄せているという子爵令嬢を、池に突き落とそうとしたのだ。
しかし、池には彼女をかばった王子が落ちることになってしまい、更に王子は、頭に怪我を負ってしまった。
――そして、ケイリッヒ王国の第一王子にして王太子、国民に絶大な人気を誇る、朱金の髪と浅葱色の瞳を持つ美貌の王子ルークは、あろうことか記憶喪失になってしまったのである。(第一部)
ケイリッヒで王子ルークに甘やかされながら平穏な学生生活を送るバステト。
しかし、祖国マレではクーデターが起こり、バステトの周囲には争乱の嵐が吹き荒れようとしていた。
今、為すべき事は何か?バステトは、ルークは、それぞれの想いを胸に、嵐に立ち向かう!(第二部)
全33話+番外編です
小説家になろうで600ブックマーク、総合評価5000ptほどいただいた作品です。
拍子挿絵を描いてくださったのは、ゆゆの様です。 挿絵の拡大は、第8話にあります。
https://www.pixiv.net/users/30628019
https://skima.jp/profile?id=90999
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる