今宵、薔薇の園で

37. side キース

それは一目惚れだった。

シャーロット・ロセッティ伯爵令嬢。

兄から連絡を受けて見舞いに来てくれたという彼女。

出会った瞬間、彼女の理知的で優し気な眼差しに胸を射抜かれてしまっていた。

ずっと自分の傍にいてほしい。

何をしても手放したくないと思ってしまった。

ふと彼女ともう会えないかもしれないと急に不安が募り、帰り際になって、また会えないかと強請ってしまった。

初対面の令嬢にとるべき態度ではなかった。

そもそも図々しすぎるし、自分の行動はどうかしている・・・。


◇


結局、その後も治療の一環としての話相手という名目をつけて、彼女に何度も来てもらった。

療養中という立場を利用するようで些か狡いとは思ったが、自分の気持ちに嘘はつけなかった。

使えるものは全部使ってでも、彼女に会えるならそれで良いと思った。


それに、幸い彼女はまだ独り身で決まった相手も居ないという。

彼女に好いた相手がいるのかどうかは判らないが、もしかすると、こんな自分にも少しくらいはチャンスがあると期待しても良いのだろうか・・・。


後から兄に訊いてみれば、彼女は記憶を失う前からの知人で、僕も交流があったのだという。

だが、それは本当なのだろうか・・・。

あんなに素敵な人、一度でも会ったとしたら忘れるはずが無いのに・・・。

会ったことがあるなんて、とても信じられない。

かといって、兄が嘘をついているとも思えない。


けれど、僕を見たあの人が時々寂しそうに笑うのが、何故か気に掛かって仕方がない。

僕は一体何を忘れているというのだろうか・・・。