7 / 29
6
しおりを挟む
「バートン様・・・」
エレーヌには面倒事の予感しかしなかったが、この男の身分を考えれば、勝手にこの場から立ち去る事も出来ない。
「ただの夜会に出るだけだというのに、君はどうしてそんなに物々しい・・・否、物騒な格好をしているのかな?私には、まるで戦支度のようにしか見えないが・・・」
「・・・」
(ああ、この方もメリダと同じ意見なのね。私の格好があまりにも地味すぎて、この場にそぐわず無粋だという事を独特の表現を用いて婉曲に伝えようとしてくれているのかしら・・・)
エレーヌの当惑した様子など、気にも留めない様子でバートンは一人興奮した様子で話し続ける。
「魔蚕の糸で織られたドレスに、質の高い魔力が目一杯込められた月光の結晶の首飾り・・・!どちらも金をどれだけ積んだとしても、手に入れられるか分からない様な貴重な代物だ。これは・・・例えるなら、魔王の花嫁でもなければとても身に着けることは出来ないだろうね」
(褒めているのか貶しているのか全く理解できないわ。魔術師というのは随分変わった表現を好むものなのね・・・)
「生きているうちにこんなものが見られるだなんて・・・」
そう言いながら、息を荒げてエレーヌのドレスに手を伸ばした瞬間、バートンの指先はバチッという音を立てて弾かれた。
「え・・・?」
何が起こったのか理解できず、戸惑うエレーヌは思わず声を漏らした。
「この装身具は、邪な思いを抱く者が触れるとただでは済まない代物・・・魔術師を名乗っていらっしゃる癖にそんな事もご存じないとは聞いて呆れますね」
聞き覚えのある声がして、エレーヌがハッとして振り返ると、そこにはバートンを睨みつけるように立っているカノンが居た。
その今にも視線だけで相手を射殺せそうな程に冷たい貌は、普段の柔和な彼女の様子からは想像もつかなかった。
「カノン・・・?!お父様とロベルト様はどうしたの?いえ、そんな事より身分が上の方にそんな口をきいてはいけないわ。カノン、バートン様に謝りなさい」
カノンを見たバートンは、何かを思い出したように驚き、後ずさって言った。
「あ、あなたは・・・!」
カノンは、いつもの頬笑みに戻り穏やかに、だが強くバートンに言った。
「先程は失礼な事を申し上げました・・・どうか、お静かになさってくださいませ、魔術師様」
バートンは無言になり、青い顔で頷いた。
◇
「さ、お義姉さま、帰りましょう」
エレーヌの手を引いて、カノンが歩を進める。
「さっきは正直どうして良いのか困っていたの。あなたが来てくれて助かったわ。ありがとう、カノン」
カノンの手に触れるのはこれが初めてのはずだったが、エレーヌはこの手を以前から知っているような気がしたのだった。
エレーヌには面倒事の予感しかしなかったが、この男の身分を考えれば、勝手にこの場から立ち去る事も出来ない。
「ただの夜会に出るだけだというのに、君はどうしてそんなに物々しい・・・否、物騒な格好をしているのかな?私には、まるで戦支度のようにしか見えないが・・・」
「・・・」
(ああ、この方もメリダと同じ意見なのね。私の格好があまりにも地味すぎて、この場にそぐわず無粋だという事を独特の表現を用いて婉曲に伝えようとしてくれているのかしら・・・)
エレーヌの当惑した様子など、気にも留めない様子でバートンは一人興奮した様子で話し続ける。
「魔蚕の糸で織られたドレスに、質の高い魔力が目一杯込められた月光の結晶の首飾り・・・!どちらも金をどれだけ積んだとしても、手に入れられるか分からない様な貴重な代物だ。これは・・・例えるなら、魔王の花嫁でもなければとても身に着けることは出来ないだろうね」
(褒めているのか貶しているのか全く理解できないわ。魔術師というのは随分変わった表現を好むものなのね・・・)
「生きているうちにこんなものが見られるだなんて・・・」
そう言いながら、息を荒げてエレーヌのドレスに手を伸ばした瞬間、バートンの指先はバチッという音を立てて弾かれた。
「え・・・?」
何が起こったのか理解できず、戸惑うエレーヌは思わず声を漏らした。
「この装身具は、邪な思いを抱く者が触れるとただでは済まない代物・・・魔術師を名乗っていらっしゃる癖にそんな事もご存じないとは聞いて呆れますね」
聞き覚えのある声がして、エレーヌがハッとして振り返ると、そこにはバートンを睨みつけるように立っているカノンが居た。
その今にも視線だけで相手を射殺せそうな程に冷たい貌は、普段の柔和な彼女の様子からは想像もつかなかった。
「カノン・・・?!お父様とロベルト様はどうしたの?いえ、そんな事より身分が上の方にそんな口をきいてはいけないわ。カノン、バートン様に謝りなさい」
カノンを見たバートンは、何かを思い出したように驚き、後ずさって言った。
「あ、あなたは・・・!」
カノンは、いつもの頬笑みに戻り穏やかに、だが強くバートンに言った。
「先程は失礼な事を申し上げました・・・どうか、お静かになさってくださいませ、魔術師様」
バートンは無言になり、青い顔で頷いた。
◇
「さ、お義姉さま、帰りましょう」
エレーヌの手を引いて、カノンが歩を進める。
「さっきは正直どうして良いのか困っていたの。あなたが来てくれて助かったわ。ありがとう、カノン」
カノンの手に触れるのはこれが初めてのはずだったが、エレーヌはこの手を以前から知っているような気がしたのだった。
35
あなたにおすすめの小説
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
転生者と忘れられた約束
悠十
恋愛
シュゼットは前世の記憶を持って生まれた転生者である。
シュゼットは前世の最後の瞬間に、幼馴染の少年と約束した。
「もし来世があるのなら、お嫁さんにしてね……」
そして、その記憶を持ってシュゼットは転生した。
しかし、約束した筈の少年には、既に恋人が居て……。
やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~
岡暁舟
恋愛
名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
学園は悪役令嬢に乗っ取られた!
こもろう
恋愛
王立魔法学園。その学園祭の初日の開会式で、事件は起こった。
第一王子アレクシスとその側近たち、そして彼らにエスコートされた男爵令嬢が壇上に立ち、高々とアレクシス王子と侯爵令嬢ユーフェミアの婚約を破棄すると告げたのだ。ユーフェミアを断罪しはじめる彼ら。しかしユーフェミアの方が上手だった?
悪役にされた令嬢が、王子たちにひたすらざまあ返しをするイベントが、今始まる。
登場人物に真っ当な人間はなし。ご都合主義展開。
【完結】土壇場で交代は困ります [おまけ1話更新]
himahima
恋愛
婚約破棄⁈いじめ?いやいや、お子様の茶番劇に付き合ってる暇ないから!まだ決算終わってないし、部下腹ペコで待ってるから会社に戻して〜〜
経理一筋25年、社畜女課長が悪役令嬢と入れ替わり⁈ 主人公は口が悪いです(笑)
はじめての投稿です♪本編13話完結、その後おまけ2話の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる