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王宮で開かれる舞踏会の当日。
今時、未亡人でも着ることがないような、くすんだ朽葉色のドレスを纏い、清楚というにはあまりにも貧相な小ぶりの色石が一つだけ嵌っているペンダントを身に着けたエレーヌ。
「お嬢様、本当にそれでお出掛けになるつもりなのですか?」
エレーヌに言われるがまま身支度を手伝ったメリダは、不本意そうな表情で問いかける。
「これでは不味いかしら?自分でも少し落ち着き過ぎているかもしれないと思わなくも無いけれど・・・もう婚約者も居ない身だし、相手の顔を立てるために着飾る必要もないから地味で丁度良いと思ったの・・・下手に目立ちたくもないし」
エレーヌは身に着けているドレスをしみじみと見つめて言った。
「逆の意味で目立ちます!先日は冗談かと思いましたが、本当にそれをお召しになるなんて、お嬢様の気が知れません。そもそも、あの娘に押しつけられた不用品の様なものではありませんか・・・」
エレーヌの事が心配でしょうがないメリダは、今更余計な事なのだと解っていても黙っていられない。
「そう・・・。私としては、メリダが言うほど質が悪い物には思えないのよね。何か、言葉には出来ないのだけれども、身に着けているとホッとするような・・・そんな感じがするの」
「無理に肯定的に考えようとなさらなくても・・・。お嬢様が言い出しづらいのであれば、私が今から取り返しに行ってまいりましょうか?!」
息まくメリダ。
「本当にもういいの、私が以前持っていた服や装飾品は、お世辞でもなんでもなく正直に言って、銀の髪で華やかな顔立ちのカノンの方がよく似合うわ。
それに、もう着替えている時間も無いし、本人が納得しているんだから構わないでしょう?」
何も気にする事など無いのだというように振る舞うエレーヌを見て、メリダは根負けするしかなかった。
◇
カノンのエスコートがしたかったのに、不本意だと言わんばかりの様子の父に付き添われ、会場に入ったエレーヌ。
案の定、父は会場に入った途端に、ロベルトの隣に居るカノンの方に行ってしまい、エレーヌは一人取り残されてしまった。
エレーヌを除いた三人が歓談している最中、何気なくエレーヌの方を一瞥したロベルトは顔を顰めて小さな声で呟いた。
「場違いだな・・・あんな冴えない女とは婚約を解消して正解だった・・・」
そのロベルトを見たカノンは誰にも見えぬ角度で、冷やかに微笑した。
◇
「お嬢さん」
一人で壁の花になっていたエレーヌに、ローブを纏った大柄な男が話し掛けてきた。
シンプルだが、上質な生地で作られたそのローブから察するに、かなり身分の高い人間なのだという事が判った。無下に扱うのは得策ではなさそうだった。
「お嬢さんは一体何者なのかな?」
「私は・・・ブラン男爵家のエレーヌ・・・と申します」
戸惑うエレーヌの様子を見た男は簡単に自己紹介をした。
「エレーヌ嬢、急に不躾な質問をして悪かったね。私は宮廷魔術師をしている、バートンというものだ」
「宮廷魔術師様・・・」
どうやら面倒な男に絡まれてしまったらしい。
「堅苦しいのは嫌いでね。バートンと呼んでもらって構わないよ。それにしても、少し質問が遠まわしすぎたらしい。今度は率直に聞くとしようか」
今時、未亡人でも着ることがないような、くすんだ朽葉色のドレスを纏い、清楚というにはあまりにも貧相な小ぶりの色石が一つだけ嵌っているペンダントを身に着けたエレーヌ。
「お嬢様、本当にそれでお出掛けになるつもりなのですか?」
エレーヌに言われるがまま身支度を手伝ったメリダは、不本意そうな表情で問いかける。
「これでは不味いかしら?自分でも少し落ち着き過ぎているかもしれないと思わなくも無いけれど・・・もう婚約者も居ない身だし、相手の顔を立てるために着飾る必要もないから地味で丁度良いと思ったの・・・下手に目立ちたくもないし」
エレーヌは身に着けているドレスをしみじみと見つめて言った。
「逆の意味で目立ちます!先日は冗談かと思いましたが、本当にそれをお召しになるなんて、お嬢様の気が知れません。そもそも、あの娘に押しつけられた不用品の様なものではありませんか・・・」
エレーヌの事が心配でしょうがないメリダは、今更余計な事なのだと解っていても黙っていられない。
「そう・・・。私としては、メリダが言うほど質が悪い物には思えないのよね。何か、言葉には出来ないのだけれども、身に着けているとホッとするような・・・そんな感じがするの」
「無理に肯定的に考えようとなさらなくても・・・。お嬢様が言い出しづらいのであれば、私が今から取り返しに行ってまいりましょうか?!」
息まくメリダ。
「本当にもういいの、私が以前持っていた服や装飾品は、お世辞でもなんでもなく正直に言って、銀の髪で華やかな顔立ちのカノンの方がよく似合うわ。
それに、もう着替えている時間も無いし、本人が納得しているんだから構わないでしょう?」
何も気にする事など無いのだというように振る舞うエレーヌを見て、メリダは根負けするしかなかった。
◇
カノンのエスコートがしたかったのに、不本意だと言わんばかりの様子の父に付き添われ、会場に入ったエレーヌ。
案の定、父は会場に入った途端に、ロベルトの隣に居るカノンの方に行ってしまい、エレーヌは一人取り残されてしまった。
エレーヌを除いた三人が歓談している最中、何気なくエレーヌの方を一瞥したロベルトは顔を顰めて小さな声で呟いた。
「場違いだな・・・あんな冴えない女とは婚約を解消して正解だった・・・」
そのロベルトを見たカノンは誰にも見えぬ角度で、冷やかに微笑した。
◇
「お嬢さん」
一人で壁の花になっていたエレーヌに、ローブを纏った大柄な男が話し掛けてきた。
シンプルだが、上質な生地で作られたそのローブから察するに、かなり身分の高い人間なのだという事が判った。無下に扱うのは得策ではなさそうだった。
「お嬢さんは一体何者なのかな?」
「私は・・・ブラン男爵家のエレーヌ・・・と申します」
戸惑うエレーヌの様子を見た男は簡単に自己紹介をした。
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「宮廷魔術師様・・・」
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