未完成な僕たちの鼓動の色

水飴さらさ

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第一章

久場大也の二面性

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 次の日も久場は早く登校し、教室でお互いの番号や、メッセージアプリのアカウントを交換した。
 二日目からは、自転車登校の久場が、由人が降りる駅まで来て一緒に学校まで歩き、教室でも更に二十分ほど話をする。
 お互いの家族の話や、好きな漫画やアニメやゲームの話、よく聞く音楽の話、久場が好きなサッカーの話、受験勉強の話、たわいもない話ばかりでも、男子にここまで相手をしてもらった経験がない由人は嬉しくてしかたなかった。
 話せるようになっても久場はますます優しかった。
 そして[伊勢川]呼びから[由人]呼びになる頃、登校中に歩きながら由人の知らなかった久場の噂のことも話してくれた。
「由人は俺がモテると思う?」
「めちゃくちゃモテると思うよ」
「……俺のこと、聞いてくれるか?」
「何でも聞くよ」
「俺、由人に嫌われるかも」
「嫌わないよ」
「……俺な、彼女が常に三人いるんだ、とにかくよく告白されるんだけど……断らないんだ」
「そうなの? 何で断らないの?」
「別に断る理由がないから……小学校の頃から告白されてたからずっとそんな感じで、でもやっぱり数が多すぎてトラブルも何度かあって、中学からは条件を出してる」
「条件?」
「家族と友達と部活が優先、彼女はその次、後年下はなんか無理、学校ではベタベタしないこと……他にも付き合ってる子がいること、それでもよかったらいいよって言うんだ」
「それでもいいってみんな言うんだね」
「そう……でも俺部活してただろう、遊ぶ時間はたまに日曜日くらいで友達とも遊ぶから、本当に彼女と遊ぶ時間なんて少なくてさ、彼女達が許してくれたらまとめて一緒にデートしてたことも何度もある……そんなんだから結局みんな長続きはしないんだ」
「そうなんだ……」
 早恵子が話していた久場の軽薄な噂話とは、この事なんだろう。
 交際なんかしたことない、ましてや恋もしたことがない由人には、正直未知の世界だった。
 でもせっかく話してくれているから真面目に聞かないと、と思いまず想像をしてみた。
 少ない知識を総動員してみる。
 デートは映画館なのかな、アイスクリーム屋さんかも、パンケーキ屋さんとか?
 可愛い格好をした女の子に囲まれて椅子に座り、分け隔てなくにこにこと笑う久場。そこに家族か友達の大久保とかから電話がきて「ごめん、行かなきゃ」と笑って去っていく久場。
 自分と置き換えてみる。久場が遊んでくれると言うのでウキウキして行ってみると、用事が出来たとすぐに帰られてしまう……悲しいだろうな。
「それは女の子達はかわいそうだね……断らないってことは嫌いではないんだよね?」
「人に好かれるって単純に嬉しいだろ……小学生の頃から遊ぶくらいならいいかって、あんまり深く考えないで付き合い出して、そのまんま今に至るっていうか、よくタラシとかチャラいとか言われるから俺もしっかり断った方がいいのかと思うんだけど……女の子は勇気出して告白してるからかわいそうで」
「いっぱい付き合ったんだね」
「そう、でも結局は俺が振られるんだ、会えなくてつまらないとか……思ってたのと違うとかな、まあ俺もそれでいいと思うし、だいたい3ヶ月間隔で女の子が入れ替わってる」
「す、凄いね、久場くん……」
「引いた?」
「……引くとかじゃなくて、僕はそういうの全然分からないから……まだ誰かを好きになったことないから」
「俺も」
「それはおかしいよ! 色んな子とお付き合いしてるんだよね?」
「……だよな、それもみんなに言われる、俺だって付き合えば好きになれる子もそのうち出来るだろうと思ってたのに、サッカーが楽しかったのもあるけど……俺、恋愛に向いてないんだよ、なんか生々しいんだよな」
「僕には全く分からない領域だ……」
「手を繋ぐくらいは普通に出来るんだ、でもその先は……やっぱりああいうのは好きな子としたいよな」
「好きじゃないから……出来ない……」
「そもそも好きっていうのが分からん、友達以上の気持ちなんだろう、誰と付き合ってもそこまでいけないんだ、早く俺に飽きてくれないかなって思ってる」
「……もしかしたら久場くんって酷いかも……」
「あ、由人に言われると突き刺さるものがあるな……付き合ってて言われたから付き合う俺が悪いのか? キスしてって言われてするけどしっくりこない俺が悪いのか? やっぱりもうこういうのはやめた方がいいのか?」
「わーー、そんな話、僕に聞いても分かんないよ……酷いかもって思ったのは恋愛面であって、でも断れないのは久場くんの優しいとこからだし……条件も最初に伝えているし、でもでも女の子達がかわいそうだとも思う……やめた方がいいのかな? でもみんな納得して付き合って……だめだ、考えても分からないよ、僕がとやかく言うことじゃないと思う」
 彼女達からしたら、そんな久場でも付き合えたら嬉しいのかもしれない。
 側から見ただけでは、その人の本当の気持ちなんて分からないからだ。
「そうだな、自分で考えることだよな、変な話したのに真剣に聞いてくれたんだな、嬉しいよ」
「びっくりしたけど……久場くんくらいモテると大変なんだなってことが分かったよ」
「そうか、由人に全部話すか悩んだんだ、でも由人は……俺に変わりたいって、話してくれたろ、お前だけに言わせて俺だけ黙っているのは違うんじゃないかって思って、俺の恥ずかしい部分を話したんだ……嫌われてないみたいでほっとした……」
 隣で自転車を押しながら、久場は俯いてはにかんでいる。
 久場みたいに何もかも上手くこなせる人間が、僕のことで悩んだり安堵したりすることが不思議で嬉しい。
 もしかしたら久場が交際している彼女達よりも、優先される友達というランクに僕は入っているのかもしれない。
 久場と話せるようになって、もう何週間か経つけれど、いまだにその現実に気持ちが追いつかず、嬉しがらないように、調子に乗らないようにしていたけれど……
 久場は僕のことを友達と思ってくれていると、間に受けていいのかもしれない。
 ここまで親しくされて、まだ信用しないことは久場の友情に対して失礼なのかもしれない。
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