追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

ワールド

文字の大きさ
6 / 60

第6話 村の笑い者、貴族の顔

しおりを挟む


 「嬢ちゃん、明日は村の収穫祭じゃ。顔を出しなさい」

 アデラおばあちゃんの声に、わたくしは紅茶……いえ、ハーブティーを吹き出しそうになりました。

 「村の……宴、ですの?」
 「そうじゃ。あんた、畑の手伝いもよう頑張っとる。村の者も一杯飲ませちゃろうて言うとる」

 心臓が少し跳ねた。
 村の“輪”に正式に誘われたのは初めて。
 けれど同時に、王都育ちのプライドが顔を出す。

 「まぁ……庶民の宴といえば、ざっくばらんで楽しそうですわね」
 「ざっくばらんどころか、ざっくざっく飲むんじゃ」

 おばあちゃんの笑いに押されるように、わたくしは了承しました。

 ――まさか翌日、自分が笑いの的になるとは知らずに。



 収穫祭の夜。
 村の広場には灯火が並び、木の樽からは香ばしい酒の匂い。
 笑い声と歌声が、星空の下で溶け合っていました。

 わたくしは、唯一持っていたドレスの中で“まだマシ”なものを着込み、姿勢を正して登場。

 「ごきげんよう、皆さま。公爵令嬢クラリッサ・ヴァレンティーヌと申しますわ」

 瞬間、場の空気が止まる。
 次の瞬間――

 「ぎゃはは! また“変な令嬢”が来たぞ!」
 「なんであんな姿勢で挨拶すんだよ!」

 どっと笑いが起きた。
 わたくしは笑顔のまま、扇子を開く。

 「ええ、ご自由にお笑いなさいませ。笑いがあれば、平和ですもの」

 マリオが苦笑しながら酒を持ってきた。
 「クラ、固い固い。ほら、飲めよ」
 「わたくし、嗜む程度にしか……」

 ひと口。――強い。
 喉が焼けるようで、目が回りそう。
 けれど、周りは大笑い。

 「嬢ちゃん、顔真っ赤だぞ!」
 「……っ、こ、これは、王都式の健康法ですわ!」

 その場はまた爆笑に包まれた。



 笑い声の中、わたくしはふと手を止めた。
 笑われているはずなのに――嫌な感じがしない。
 誰も悪意を持っていない。
 ただ、楽しんでいる。

 (王都の舞踏会では、誰もこんなに心から笑ってくれなかったのに……)

 気づけば、口元が緩んでいた。

 アデラが酒を注ぎながら言う。
 「嬢ちゃん、あんた笑われとるが、ちゃんと“場の真ん中”におる。
  人はのぉ、真ん中で笑える奴を嫌いになれんのじゃ」

 わたくしはハッとした。
 ――笑われる勇気。
 それは恥ではなく、“人と交わる力”。

 扇子を閉じ、わたくしは立ち上がった。
 「皆さま、ご静粛に!」

 再び静まり返る広場。
 「わたくし、笑われることを誇りに思いますわ!
  笑いとは、気品の証。人を見下ろすより、笑い合う方が――ずっと美しいですもの!」

 しばし沈黙。
 次の瞬間――拍手が起きた。


 宴の後、焚き火のそばでマリオがぼそりと呟いた。
 「……なぁ、クラ。オレ、思ったんだ」
 「なにかしら?」
 「お前、やっぱり立派な人だよ」

 わたくしは驚いて彼を見る。
 「立派……ですの?」
 「うん。変だけど、強ぇし、優しいし……。
  村の誰よりも、“誇り”ってもんを知ってる」

 胸の奥に温かいものが広がる。
 ――笑われても、見てくれる人はいる。
 それだけで、少し泣きそうでした。

 「ありがとう、マリオ。
  わたくし、この村で気品を磨いてまいりますわ」

 焚き火の火がはぜる。
 夜空には、王都のどんなシャンデリアよりも美しい星々。

 “笑い者”と“誇り”は、きっと同じ場所にあるのだと――
 その夜、わたくしは初めて心の底からそう思いました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。 困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。 さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず…… ────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの? ────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……? などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。 そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……? ついには、主人公を溺愛するように! ────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...