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第7話 雨の日のティーパーティー
しおりを挟む朝から雨。
屋根を叩く水音が、まるで太鼓のように小屋を揺らしていました。
「まぁ……優雅な朝どころか、“洪水の舞踏会”ですわね」
外は泥と風と冷気の嵐。
畑に出ることも、洗濯もできません。
唯一できるのは、座って雨を眺めること――。
「退屈というのは、貴族を最も苦しめる敵ですの……」
ぼやきながらも、やることがない。
あの紅茶の香りが恋しくて、胸がきゅっと痛む。
“紅茶があれば、心はいつだって優雅になれるのに”――そう思った瞬間、ふと天井から“コトリ”と音がした。
見上げると、梁の上に古びた木箱。
埃を払い、そっと開けると……そこには、割れかけたティーポットと、銀のスプーン。
「まぁ……これはまるで、運命の贈り物ですわ」
ティーポットを磨くと、かすかに薔薇の紋章が浮かび上がった。
「王都の品……この村にも、貴族の時代があったのですわね」
棚の隅には、乾いた草束がいくつか吊るされていた。
アデラおばあちゃんが干していた薬草――
「これを煎じれば……代用紅茶になるかもしれませんわ」
わたくしは小さな鍋に水を張り、火を灯す。
雨音に混じって、コトコトと沸騰の音が響いた。
草の束をちぎり、ポットに入れる。
“香りの奇跡”が、今ここに始まる――そう信じて。
だが、現実は甘くなかった。
「……青臭いっ!」
鼻を突く野草の匂い。
涙目になりながらも、わたくしはくじけません。
「そうですわね、紅茶も最初は“葉っぱを煮ただけ”でしたもの。
改良あるのみですわ!」
何度も試行錯誤。
乾燥ハーブ、少量の蜂蜜、少しのミント。
火加減を変え、時間を変え――そして、五回目の試作で、ふと立ち上る香りが変わった。
「……これは……!」
草の青臭さの奥に、ほんのり甘く、どこか懐かしい香り。
まるで、雨のあとに咲く花のような――柔らかい匂いでした。
「さて、お味のほどは……」
震える手でティーカップ(ヒビ入り)を持ち、ひと口。
――舌の上に広がるのは、草でも薬でもない。
自然の甘み、心をほぐすような温もり。
「……美味しい」
言葉が漏れました。
涙ではなく、笑いがこみ上げてきた。
「おほほ、ついに完成ですわ! この味、この香り――名付けて“辺境の初恋ティー”!」
ドンッと扉が開き、マリオが飛び込んできた。
「クラ! 大丈夫か!? 屋根が飛んだって聞いて!」
「ごきげんよう、マリオ。ご心配には及びませんわ。
わたくし、ついに奇跡を煮出しましたの!」
「……奇跡?」
湯気の立つカップを差し出すと、マリオは恐る恐る口をつけた。
「……あれ、悪くねぇ……草のくせに、あったけぇ味だ」
「草のくせに、ですって? それ、最高の褒め言葉ですわ!」
わたくしは胸を張った。
外は土砂降りでも、この小屋の中だけは、確かに温かい。
夕暮れ。
雨は止み、窓の向こうで薄い虹がかかっていた。
わたくしは湯気の立つカップを見つめながら、そっと呟きます。
「紅茶がなくても、優雅でいられる……。
それは、気品を装うことではなく、“心を満たすこと”なのですわね」
マリオが照れくさそうに笑う。
「クラの“変な紅茶”、また飲ませてくれよ」
「もちろん、いつでもどうぞ。
辺境式のティーパーティー、いつでも開催中ですわ」
アデラおばあちゃんも後からやって来て、カップを手に取った。
「……ほんまに、ええ香りじゃ。
笑いも涙も、よう混じっとる」
「おほほ、わたくしの人生そのものですわね」
笑い声が小屋に響き、香りが漂う。
それは確かに“希望”の香りだった。
――辺境に生まれた、小さな奇跡の一杯。
それは、後に村を変える最初の香りとなる。
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