追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

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学院の誓い

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王都・東区。
 新設された白い校舎の前で、クラリッサは風を受けて立っていた。

 「……本当に、できましたのね。」

 石造りの門柱には、金の文字でこう刻まれている。

 > 『王立香り学院(Academia Aromatica)』
 > ――“香りは心を照らす風なり”

 風に乗って、開校を告げる鐘が鳴る。
 その音に混じって、春の草花の香りが漂った。

 初日の講堂は人でいっぱいだった。
 豪奢な服を着た貴族の子女、
 粗末な靴を履いた庶民の子ども、
 そして兵士見習いらしき若者まで――
 それぞれの胸には、“新しい風”への期待と不安が渦巻いていた。

 クラリッサは壇上に立ち、扇子を広げた。
 「――皆さま、ようこそ“香り学院”へ。
  ここでは身分も家柄も関係ございません。
  香りの前では、誰もが“ひとつの心”を持つのですわ。」

 ざわついていた空気が、静まり返る。

 「香りとは、目に見えぬ記憶。
  ですが、それは“誰かの祈り”でもありますの。
  今日から皆さんには、その祈りを“創る者”になってもらいます。」

 言葉と同時に、彼女が香瓶の蓋を開ける。
 柔らかい香気が会場を包み、
 緊張していた生徒たちの肩がふっと緩んだ。

 「これが、“初恋草”の香り。
  ――わたくしが、かつての絶望の中で見つけた希望の香りですの。」

 授業後、ひとりの少女が近づいた。
 淡い栗色の髪に、控えめな瞳。
 その胸元には“アシュフォード家”の紋章が光っている。

 「先生……わたし、エリス・アシュフォードと申します。」
 クラリッサはわずかに目を見開いた。
 「……あなた、“ユージン様”の?」
 「妹です。兄に反対されましたけれど、どうしても来たくて……」

 エリスは震える声で続けた。
 「兄はずっと、あなたのことを……誤解したままなんです。
  でも、わたしは知っています。兄が“恐れていた”のは、
  あなたの“まっすぐさ”だったんです。」

 クラリッサは静かに微笑んだ。
 「……ありがとう、エリスさん。
  香りは、恐れを溶かす風ですわ。
  あなたがここに来たことが、もう一つの誓いですのね。」

 夕暮れ。
 学院の庭に灯がともる。
 レオンが見回りを終え、クラリッサの隣に立った。

 「……お前、本当に教師になっちまったな。」
 「ええ。わたくし、香りで“教える”ことがこんなに嬉しいなんて知りませんでしたの。」
 「お前らしいよ。戦うより、導く方が似合ってる。」

 クラリッサは扇子を閉じ、空を見上げる。
 「この学院が、風のように広がればいいですわ。
  王都の外、辺境にも、香りを学ぶ場所を。」

 レオンは微笑みながら頷く。
 「そのときは、俺も講師にしてくれ。――“剣で風を読む授業”でもやるさ。」
 クラリッサはくすりと笑った。
 「面白そうですわね。香りと剣、どちらが風を導くか、試してみましょうか。」

 夜。
 学院の窓から見える王都の街は、静かに光を放っていた。
 クラリッサは机に向かい、日誌を開く。
 そこには、一行だけ書かれている。

 > 「――香りの誓いとは、“生きる勇気”を分かち合うこと。」

 彼女はペンを置き、ゆっくりと扇子を開いた。
 香りが流れ、夜風がそれを運んでいく。
 学院の鐘が、柔らかく鳴り響いた。

 “ヴァレンティーヌの誓い”は、今、次の世代へ。
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