この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

文字の大きさ
12 / 36

12話

しおりを挟む
 月が滲むほどに曇った空の下、演習場の空気はいつもより重たかった。

 それは天候のせいだけではなかった。
 文哉自身の中にも、答えを出せずにいた“迷い”が残っていた。

 ――自分は、ここにいてもいいのか。

 ――男である自分が、前線に立つ意味はあるのか。

 この世界では、男は希少であり、守られる存在。
 それが常識であり、制度としても厳しく運用されていた。
 実戦に出るなど、論外。許されているのはシミュレート訓練と演習、あとは護衛付きの任務のみ。

 だが文哉は、それでも“戦う”という道を選んだ。

 目の前で誰かが傷つくのが怖かった。
 失うことが、何よりも――怖かった。

 それを知っていたのは、彼の傍にいた少女たちも同じだった。

 

 その日の訓練は、各個戦術ではなくチーム戦。
 バイオギア〈アカツキ=バーンブレイカー〉の“本領”を引き出すための、実戦的な演習だ。

 「文哉……今日、なんか違うね?」

 控え室でヘアバンドを整えていたしずくが、ふと声をかけた。

 「……そう?」

 文哉は、淡く微笑んだだけでそれ以上は答えなかった。

 (変わろうとしてる。そんな顔……)

 しずくはそう思ったが、それを言葉にはしなかった。

 

 演習が始まる。相手は、最新型の汎用女性機〈エルネスタ=ドラグナイア〉を中心に編成された3人小隊。
 それぞれ異なる属性の連携機体で構成されており、火力も耐久も段違い。通常なら、文哉の単独機ではまず勝ち目がない。

 だが。

 〈アカツキ=バーンブレイカー〉は、ただの男用試作機ではない。

 精神エネルギーと“意志の炎”を出力に変換する特殊機構を持ち、搭乗者の覚悟によって性能そのものが変動する――いわば「感情で戦う」機体だった。

 

 敵機の一斉射撃。

 文哉は回避もせず、ブレードを構えた。

 「……ここで逃げたら、また誰かを失う」

 彼の声と共に、機体の胸部装甲が赤熱する。

 バーンブレイカーの背部ユニットが展開し、紅蓮の炎を纏ったようなエネルギーが全身を包む。

 「“燃焼変換、第二段階――烈陽形態”」

 その瞬間、文哉の動きが変わった。

 加速。ブースト。ブレード回転。

 熱と意志が交錯する中、彼は一切迷わず飛び込んだ。

 

 敵機の一機――重装型の〈アストリード=ガルヴァニス〉が斬撃を構えるも、文哉のバーンブレイカーが一瞬でその間合いに入った。

 刃と刃が交錯し、火花が弾ける。

 「……俺はもう、守られてるだけの存在じゃいられない!」

 振り抜かれたブレードは敵機の腕部を貫き、衝撃と共に膝をつかせた。

 

 それを遠くから見つめていたのは――柊 真帆。

 管制室のモニター越しに、唇を噛みしめていた。

 (……あんなに、迷ってたのに)

 (なのに……どうして、あんなに前を見てるの)

 

 残りの敵機が連携して囲みにかかる。
 だが文哉は、それを読むように動いた。敵の次の一手、三手先までも見通すような動き。

 「心配なんて、もうさせたくない。俺自身が、前に出る。守るために」

 吹き上がる蒸気、焼けつく装甲。

 その中で、彼の瞳だけは冷たく、そして熱かった。

 ――そして、ついに。

 最後の敵機を“撃破”ではなく、“戦闘不能”に追い込むことで勝利が決定する。

 

 演習終了の合図。だが、誰も声を上げなかった。

 静寂の中で、彼の存在だけが確かに、場を支配していた。

 

 演習後。外の風が冷たい。けれど、彼の胸の奥は静かに燃えていた。

 後方から、小さな足音が近づいてくる。

 「……文哉くん」

 振り向くと、そこにいたのは真帆だった。

 スケッチブックを胸に抱え、でもその表情にはいつものような戸惑いがない。

 「今日のあなたを見て……私、ちょっと泣きそうだった」

 「えっ……?」

 「――もう、気持ちに迷いなんて無かった」

 その言葉は、涙ではなく、誇りと祝福に満ちた微笑みと共に口にされた。

 文哉は、はにかんだように笑ってから、ひとつだけ頷いた。

 「……ありがとう。見ててくれて」

 夕暮れの風が吹く。

 でもそれは、彼をもう止めることのない、ただの風だった。

✿✿✿✿

 午後のチャイムが鳴り、教室にゆるやかな緊張感が戻ってくる。

 全生徒が座席に着くと、担任教官の氷室先生が、いつものように前に立った。

 「それじゃあ、ホームルーム始めるわよー。今日はまず、次回の戦術演習について確認しておくわ」

 この《ノア・クロス》では、ホームルームと言えど内容は濃い。単なる連絡事項だけでなく、バイオギア演習の日程や精神ケアの確認など、男子学生(=文哉)を含めたクラス全体の安全管理も重視されている。

 「男子のバイオギア稼働率については、管理局からの経過観察もあるから、次回は全体戦じゃなくペア形式でいくわ。文哉くん、可能なら希望のパートナーを……」

 「――あ、先生っ、それ私が!」 

 教室の右列から、勢いよく手を挙げたのは桜葉 梨羽だった。

 赤茶の髪が揺れるほどに前のめり、笑顔はいつもどおり全開だ。

 「私、この前の訓練でちょっとミスっちゃっててさ~。そのリベンジってことで、お願いしたいなって!」

 (また始まった……)

 と、クラスの誰もが心の中で苦笑する。梨羽が文哉と組みたがるのは、日常茶飯事だ。

 

 その隣では、柊 真帆が視線を伏せ、少しだけ肩を縮めていた。

 (……言えるわけない。私も、本当は、文哉くんと……)

 教科書の影からそっと彼の横顔を見つめながら、彼女は胸の奥でそっと言葉を呟いた。

 (あの時の演習、私……あなたに助けられたのに、まだちゃんと、ありがとうも言えてない)

 彼女の指は、机の上で小さく震えていた。

 

 一方、窓際席で体操服のジャケットをラフに羽織ったままの海里 しずくは、少し口を尖らせていた。

 「ま~た梨羽、出たなぁ。早い者勝ちじゃんかこれじゃあ~」

 そして、ふと文哉の方を見やる。

 (でも、ほんとすごいなって思う。男の子で、こんなに真面目に戦ってて、しかも強くなってて)

 いつだったかの訓練の記憶が蘇る。炎の中で立つ彼の姿は、今もまぶたに焼きついていた。

 (……正直、ちょっとドキドキしちゃうよね。アイツ)

 

 「ちょっとちょっと、順番にね? 文哉くんが困っちゃうでしょ」

 と、担任が慌てて割って入る。教室内に笑いが起きるが、それでも文哉本人は、苦笑しながらもどこか穏やかだった。

 「俺は誰とでも大丈夫だよ。うん……皆と組めたら嬉しいし」

 その一言が、ヒロインたちそれぞれの心をぐらりと揺らす。

 

 (あーもう、そういうとこズルいんだよ~!)

 梨羽は両手を組み、勢いよく机に突っ伏した。

 (そんなん言われたら、他の子だってその気になっちゃうじゃん!)

 

 (……でも、やっぱり優しいな)

 真帆は小さく微笑んで、俯き気味の視線をそっと上げた。

 (そういうところ、ちゃんとみんな見てるんだよ、文哉くん)

 

 (優しすぎるから、勘違いする子も出てくるかもね~)

 しずくは冗談めかして内心そう毒づいた。

 でも同時に、心のどこかで――

 (だけど、それでも私は……誰より近くで、その“炎”を見てたい)

 

 放課後、ホームルームは解散。

 廊下に出た文哉のもとに、ヒロインたちが続々と集まる。

 「今日さ、帰りにちょっと寄り道しない?アイスでも食べてさっ!」

 「ま、待って、それなら図書室も付き合ってもらっても……」

 「えー? アイスの方がテンション上がるっしょー?」

 そして――

 その中心にいる文哉は、やっぱり優しい笑みを浮かべていた。

 どこかまだ無自覚なその顔に、三人の少女たちは、それぞれ異なる胸の音を鳴らしていた。

 そして、誰も言葉にはしないけれど――

 “いちばんになりたい”という気持ちは、すでに教室の外でも静かに火花を散らしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...