この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

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13話

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 朝のHR(ホームルーム)前。

 登校してきた文哉は、肩からバッグを下ろすと、軽く背中を伸ばした。

 「ふぅ……今日も晴れか。よかった」

 何気ない一言だったが、窓際席に座っていた数人の女子たちはすでにその姿をちらちらと見ている。

 「うわ……今日のシャツ、ちょっと透けてない?」

 「っていうか首元のボタン、また外れてない? 誰か注意してあげたら?」

 「いや無理無理、男の子の体に触れるとか……処分もんだよ」

 女子たちはヒソヒソと囁き合う。
 この世界では、男性への“接触”は基本的に風紀違反にあたる。特に校内では、見ているだけでも場合によっては指導が入る。触れるなどもってのほか。

 だからこそ――

 文哉の、ほんの少し乱れた制服姿が、教室全体をざわつかせていた。

 

 「おーい、文哉くん」

 ガラリ、と扉が開いて、しずくが元気よく入ってきた。

 「……って、あー! やばいよそれ! 背中、シャツ捲れてる!」

 「え? あ、ほんとだ……。昨日のトレーニング、荷物重くてちょっと擦れたかも」

 そう言いながら、文哉は教室の隅の机に腰をかけ、上着を脱いでシャツの裾を直し始めた――その瞬間だった。

 

 「ちょ、ちょちょちょっと待って文哉くん!? それ……」

 桜葉 梨羽が、椅子から立ち上がりかけて、止まる。

 (シャツの裾、まくりあげてお腹出てるーっ!?)

 しかもその腹筋は、日々のトレーニングで無駄なく締まっていて、汗ばむ肌がシャツの下からちらちらと――

 

 「……ぅぁ、な、なんで……。そんな無防備に……っ」

 柊 真帆はノートを持つ手をぎゅっと握りしめ、顔を伏せた。

 (見ちゃダメ……でも、見たい……けど、ダメ……!)

 

 だがその一方で、女子たちの視線が集中する中、文哉はまったく無自覚。

 「ふー……これで大丈夫かな」

 シャツを整えながら、今度はネクタイを緩めて胸元の通気を確保。

 (暑いな……風、入れとこう)

 さらに、首元のボタンをもう一つ外してしまった。

 ――その瞬間。

 全女子、思考停止。

 

 「……せ、せせ、せくはら……」

 「でも男の子がやってる分には違反じゃ……ないよね?」

 「でもでもこれは、こっちがセクハラされてる感ある……!」

 

 ざわざわ……と教室の空気が微妙に揺れ始める。

 そして、ついに――

 「……だめっ!」

 梨羽が耐えきれず、文哉の前へと走り寄った。

 「ちょ、ちょっと、落ち着こう!? 文哉くん、女子の前でそれはちょっと、刺激強すぎっていうか! わたし、ドキドキしすぎて心臓に悪いからぁあっ!」

 「えっ? あ、もしかして見えてた? ご、ごめん……」

 「そういうことじゃないのぉぉぉっ!」

 梨羽は顔を真っ赤にして後退。後方で待機していたしずくと真帆にすがるように寄りかかる。

 「ね、ねぇ……ほんとにあの子、気づいてないの? 自分がどんだけ危険か……」

 「……たぶん、わかってない。そこが……またズルいんだよね……」

 「ズルい、っていうか……あんなの、好きになっちゃうに決まってるじゃん……」

 

 その時、担任の氷室先生が入室。

 「……何、騒いでるの? 風紀違反?」

 教室中の女子が一斉に姿勢を正す中、文哉だけが首を傾げる。

 「ん? 俺なんかした?」

 天然。それは時として、最強の暴力。

 ――この日以来、《文哉くんの肌が見えた事件》は、“語られるけど書類には残らない”伝説のひとつとなった。

✿✿✿✿

 放課後――学園の一角にある補習指導室。
 本来なら講義用のミーティングスペースとして使われる静かな部屋に、今日に限って微妙な熱気が漂っていた。

 文哉は机の前に座りながら、頬をかいていた。

 「……えっと、俺、何かやらかしました?」

 彼の向かいに立つのは――

 風紀指導兼任の学年主任・氷室先生。
 黒フレームのメガネ越しに鋭い視線を向けながら、手元の電子端末を操作している。

 「“やらかした”って自覚がある時点でアウトよ。自覚がない方がもっと問題だけどね」

 「う……すみません……」

 彼の脇に座っているのは、今回“参考人”として呼び出された桜葉梨羽、柊真帆、海里しずくの三名。
 教室での騒動を一部始終見ていたメンバーであり、ある意味“被害者”でもあった。

 梨羽は腕を組みながら文哉を睨み、しずくは面白そうに口元を押さえ、真帆は赤面しながら目を伏せていた。

 「……わたし、別に文哉くんのせいだとは思ってない、けど……」

 「でもさぁ、シャツまくってお腹見せて、それで“気づいてなかった”は……ね?」

 「ま、うちの文哉くんは、そういうとこ鈍いからな~」

 しずくがからかうように肘でつつくと、文哉はさらに困り顔になる。

 「でも、そういう意図じゃなかったんだって……。暑くて、風通そうと思っただけで……」

 「それが無防備って言ってんのー!」

 梨羽が思わず机をドンと叩き、しずくが吹き出す。

 「とりあえず、風紀上の指導はこれで完了とするけど……」

 氷室先生は腕を組み、鋭い視線で全員を見回す。

 「補習として、男女間の適切な距離感と、“異性に与える影響”について、今日のこの場でしっかり体験的に学びなさい」

 「体験的って……?」

 文哉が尋ねると――

 

 数分後、部屋のソファに並んで座らされていたのは、文哉と三人のヒロインたち。

 距離は――極めて、近い。

 「……これ、ほんとに“学習”なんですかね……?」

 「いいから動かないの! 今、測ってるんだから!」

 梨羽が手にしていたのは、文哉の脈拍測定端末。
 しずくは後ろから文哉の背中に密着するように座り、「発汗率と体温の推移」をチェック中。
 真帆は向かい合う位置で、文哉の視線の動きや表情を観察してノートにまとめている。

 「ねえ文哉くん、これって、すごく“密着”してるよね……? ……恥ずかしく、ないの?」

 「え? あ、いや、ちょっとドキドキはするけど……学習だし……うん」

 「もう~……その“真面目”がいちばんズルいんだから~!」

 梨羽がうなるように呟く。

 「ま、でもこれで、ちょっとは自覚持った?」

 「うん……たぶん……。ていうか、こうやって距離近いと、すごく緊張するっていうか……」

 「じゃあさ、逆にさ……」

 しずくが文哉の耳元にそっと口を寄せた。

 「わたしたちが“文哉くんに触れたくなる気持ち”も、少しはわかってきた?」

 「――っ……!」

 反射的に肩を強張らせる文哉。そんな彼を、真帆が潤んだ目で見つめていた。

 「……優しすぎるんだよ、文哉くん。だから……誰にでも優しくするの、ちょっと……やめてほしい、な」

 その言葉には、微かに滲む独占欲があった。

 空気が、少しずつ、重なっていく。

 

 「はいそこまでっ!」

 氷室先生の手拍子が鳴り、全員が跳ねるように離れる。

 「今日の補習は以上。解散。……ま、恋愛感情の火種をばら撒いた罪は、後で自分で回収することね、文哉くん」

 「あ、は、はい……」

 

 扉が開いて、空気が流れる。

 ――教室では見られない、特別な放課後の時間。
 その中で、文哉の“鈍さ”と“優しさ”が、また一歩、少女たちの心を惑わせていた。
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