この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

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14話

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 ある日の放課後。人気のない図書室の隅、使われていない研究用のサブルーム。
 そこに集まっていたのは、真帆、しずく、梨羽――そして、分厚い一冊の本だった。

 「……ねえ、本当にこれ、効くの?」

 しずくが眉をひそめながら、机の上に置かれた本の表紙を指でとんとんと叩く。
 金文字で飾られたそのタイトルには、妙なインパクトがある。

 《誰でもできる!催眠術入門(実技編)》

 「しずくが言い出したんでしょ? “ちょっと面白そう”って」

 梨羽が腕を組んで睨むように言い返す。

 「それにしても、これ……学園の図書室にあるってどうなの?」

 「……たぶん、貞操倫理科の教材じゃないかな」

 ぽつりと呟いたのは真帆だった。スケッチブックを膝に乗せながら、何やら“被験者の表情”という項目を真面目に描き込み始めている。

 「で、誰にかけるの? まさか、私たちで掛け合うの?」

 しずくが言うと、梨羽がふっと口角を上げた。

 「そんなの決まってるじゃん。……文哉でしょ?」

 「……えっ」

 驚く真帆に対して、しずくはすでに頷いていた。

 「うん。文哉にかかったら、絶対楽しいと思う!」

 ――そして運命のタイミングで、図書室のドアが軋む音。

 「おーい、ここにいるって聞いたけど……あれ、みんなそろってる?」

 文哉が入ってきた。手にはジュースの入った紙パックを持ち、無防備な笑顔。

 「ちょ、ちょうどいい! ねえ文哉くんっ!」

 「こっち来て、座って座って!」

 「ねえ、少しだけ、実験に協力してくれないかな」

 三人が順番に囲んでくる。わずかに警戒しつつも、文哉は素直に応じた。

 「……催眠術? またすごいもの持ってきたな」

 「でしょ? でも“信じる気持ち”が一番大事なんだって!」

 しずくが得意げにページを開き、「催眠状態に導くセリフ例」を読み始めた。

 「じゃあ、私からやってみるね――“あなたはだんだん眠くなる……”」

 目を見開いたしずくが両手を揺らしながら迫る。

 「――ふむ」

 文哉は表情ひとつ変えずに応じる。

 次に梨羽が前に出る。

 「じゃあ私。文哉、目を閉じて……3つ数えたら、もう“私の命令に逆らえなくなる”。いい?」

 「3、2、1――はい、今からあなたは……うさぎさん!」

 「ぴょんぴょんして!」

 「…………(じっ)」
 文哉は当然ながら、ぴくりとも動かない。

 「最後は、わたし……っ」

 真帆が緊張で手を震わせながら前に立つ。スケッチブックを置いて、彼女なりの決意が見える。

 「……文哉くん、もし本当に催眠にかかってくれるなら……“わたしのことだけ、特別に思って”……とか……」

 しずくと梨羽が一斉に「ずるい!」と突っ込んだ。

 しかし――当然ながら、文哉の顔は困ったように笑っているだけだった。

 「……だよねー!」

 しずくが椅子に崩れ落ちるように座り込む。

 「やっぱり、かかんないよね……文哉、普通すぎる……」

 「っていうか、むしろ鋼メンタルすぎない?」

 「……ごめん。やっぱり、こういうの、信じないとダメみたい……」

 三人が一斉にしゅんとなって、空気が急速にしおれていく。

 その様子を見た文哉は――

 心が、ずきんとした。

 (あ……やばい、めっちゃ落ち込んでる……)

 無邪気な好奇心。ちょっとした遊び心。でも、その根底にあったのは――自分に何かをしてみたい、近づきたい、関わりたいという想いだった。

 (……それに応えたい)

 そう思ったときには、もう口が動いていた。

 「……う、うう……なんだか、頭がぼーっとしてきたような……?」

 「……へ?」

 「ま、まさか……!」

 「催眠に……かかった……!?」

 三人の顔が一気に色めき立つ。

 「文哉! 今、犬になって!」

 「……わん」

 「えっ、ほんとに!? かわいすぎでしょ!!」

 「じゃ、じゃあ次は、“好きな人の名前を言って”!」

 「……ひ、ひ・み・つ……だよ……」

 「う、うわぁ……これはこれで……破壊力ヤバ……っ」

 「……すごい。文哉くんが、文哉くんじゃない……」

 三人の目がきらきらと輝いていた。

 文哉は、ほんの少しだけ罪悪感を覚えながら――でも、心のどこかで温かい何かが芽生えるのを感じていた。

 (ま、いっか。たまには、“されるがまま”も悪くない)

 催眠術という名の小さな遊びが、放課後の空間を満たしていった。

 そして、文哉はそっと目を細めながら――その空気ごと、愛おしく感じていた。

 「え、えへへ……ほんとに、かかってるんだよね、これ……?」

 梨羽がそっと文哉の顔を覗き込む。その目には興奮と疑念が入り混じり、まるで宝物を目の前にしたようなきらめきがあった。

 「文哉くん……今、ちょっとだけ“無防備”になってるんだよね……?」

 真帆も、手を胸元でぎゅっと握りしめながら小さな声で確認する。

 「ならさー、ちょっとお願いしちゃってもいいよね? ね?」

 しずくが笑顔でぱんっと手を打ち、ニヤリと悪戯っぽく笑った。

 「まずは、シャツのボタン、上から三つ外して!」

 「し、しずくちゃん……!?」

 真帆が小声で止めようとするも、梨羽が「ちょっとだけなら……」と同調してしまう。

 文哉は軽く目を閉じ、演技のままゆっくりと手を伸ばした。

 カチ、カチ……とボタンが外されるたびに、彼の胸元が覗いていく。

 「っ……うわ……」

 梨羽が顔を背けつつ、指の隙間からしっかりと見ている。

 「か、かっこいい……というか、ヤバ……」

 真帆はスケッチブックを盾のように抱きながら、そのページの隅に「腹筋(生)」とメモを走らせていた。

 「じゃあ次は梨羽のターンねっ♪ いけいけ!」

 けしかけられた梨羽は、どぎまぎしながら前に出た。

 「じゃあ……わ、私の手、握って……“大好き”って……言って……」

 文哉は、ためらう様子もなく手を取った。

 そして、静かに。

 「梨羽のこと、大好きだよ」

 「ふぎゃっ!?」

 梨羽は変な悲鳴を上げて、その場で崩れ落ちそうになる。耳まで真っ赤になって床に倒れ込み、もはや機能停止状態。

 「じゃ、じゃあ、次は……わ、わたし……!」

 顔を真っ赤に染めながら真帆が前に立つ。

 「文哉くん……わ、わたしの目を見て……“わたしだけを見てる”って言って……」

 視線を合わせた文哉は、優しく言った。

 「真帆しか見えてないよ」

 「……ぁ…………っ!」

 スケッチブックが落ちた。真帆の顔は茹で上がったように真っ赤で、何も言わずその場にしゃがみ込んでしまった。

 「ふふーん、ここまでは完璧だねっ!」

 しずくが得意げに指を鳴らす。

 「さあ……いよいよ、ラストミッション!」

 梨羽と真帆が同時に振り返る。

 「しずくちゃん、それ以上はさすがに……」

 「そ、それって……風紀的にアウトな予感がするんだけど……」

 「へーきへーき! だって催眠だもん!」

 しずくは満面の笑みで言った。

 「じゃあ、文哉。下着だけになって、ポーズとって♡」

 ――教室が、凍った。

 「……は?」

 文哉の目が、わずかに揺れる。

 「な、なんてこと言ってるの……!?」

 真帆が頭を抱え、梨羽は「バカなの!?」と額に手を当てている。

 しずくは「いや、ほら、そういうのも訓練として大事かなって……!」とごまかそうとしたが――

 「……さすがにそれは……」

 文哉が、ぽつりと呟いた。

 「それは、恥ずかしすぎるだろっ!!」

 そう言ってぷいっと顔をそむける。
 耳まで真っ赤。怒っているというより――完全に、拗ねていた。

 「えっ、あ、ご、ごめん! ほんとに冗談だから!ね!?」

 しずくが慌てて両手をぶんぶん振る。

 「ま、まあまあ! 文哉、ね? 恥ずかしいってことは……かかってなかった、ってこと……だよね……?」

 梨羽が気まずそうに視線を泳がせる。

 「そ、それってつまり……最初から、演技だった……?」

 真帆の震える声に、文哉はやれやれと息をついた。

 「……うん。最初から、かかってなかったよ。でも、なんか……楽しそうだったから」

 「……うそ……」

 三人はぽかんと口を開け、そして、しずくが先に爆発した。

 「えええーっ!? マジで!? ぜんっぜん気づかなかったんだけど!? プロの俳優じゃん!!」

 「な、なんで……そんなこと……っ」

 「……優しいんだね、文哉くんは」

 文哉は肩をすくめて、ちょっと拗ねたように言った。

 「でもなあ……恥ずかしがらせるにも、限度ってもんがあるからな……?」

 三人は顔を見合わせ、そろって笑い出した。

 「ごめんごめん! 次はもっと健全にするから!」

 「でも、こういう文哉くんも……可愛いと思う」

 「次は……ガチでかけられる方法、探すから……ふふっ」

 「おいおい、勘弁してくれよ……」

 そう言いながら、文哉は照れ隠しのように目を逸らした。
 教室には、今日も平和で、少しだけ甘い空気が満ちていた。
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