この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

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19話

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 開始の合図が鳴った瞬間、赤と透明の残像が交錯した。

「いっくよ~っ、美苑ちゃーんっ!」

 梨羽の〈スカーレット=アストレア〉が、赤い残光を描いて一気に前方へと飛び出す。バイザーが閃き、ヒール型脚部から高出力のブーストが迸る。

「まったく……勢いだけで戦うなど、下策もいいところですわ!」

 美苑の〈フェイド=ヴァニッシャ〉は、スカートのようにゆらめく光学フィンを広げ、すぐさま身を翻す。装甲の隙間から粒子が舞い、姿がふっと掻き消えた。

「うわっ、いきなり消えたっ!? ズルいぞそれ~っ!」

「戦場において、策を弄することは当然のことですわ。……それに、わたくしはあなたのように感情に任せて突撃などしませんもの」

「感情って……ちょ、ちょっとぉ! あたしだってちゃんと考えてるし!」

 だが、梨羽の直感は甘くない。

 目線のブラインドを利用し、わずかな空気の歪みから美苑の位置を読み取ると、脚部ブレードを横なぎに放つ。

 ──キン!

 空中で火花が散る。

 「……感知されましたの?」

「へへっ、見えてなくても、“動き”は感じるからねっ!」

 美苑は即座に距離を取り、背部ホログラフィックウィングを展開。粒子を攪拌し、梨羽の視界を封じる。

「っ……くぅ、視界がチラチラして狙いが……! あたしこういうの、苦手なんだってば~っ!」

「そこが、あなたの浅さですわね。視覚に頼りすぎていらっしゃる」

「……あ、でもでも? さっきのちょっぴり怒ってた声、美苑ちゃんの素が出てた気がする~?」

「~~~~っ! な、なんの話ですのっ!!?」

 美苑の声がワントーン高くなる。見えない顔の下で、確実に赤面しているのが伝わってくる。

「そーれっ!」

 その隙を突き、梨羽はフィンウィングの死角を突いて踏み込む。太ももから展開されたブレードを一閃――美苑は紙一重で回避するが、背後の光学装甲が削れる。

「っ……! やりますわね……ですが!」

 美苑は粒子拡散ノズルを起動。視覚フラッシュを発生させ、目くらましと共に後方へ跳躍。フィールド中央へと移動し、機体を低く構える。

「やっぱり、美苑ちゃんって本当はすごく熱いよね~。そういうとこ、あたし……」

「……っ!」

 言いかけた梨羽の声が止まる。

 次の瞬間、美苑の姿が完全に消えた。

「っ……まさか、完全迷彩モードっ!?」

 空気が沈む。

 息すら飲む緊張の中、梨羽はわずかに口角を上げる。

「でもさ……」

 ブレードを下段に構え、低く跳ねるように走り出す。

「そういう隠れんぼ、あたし得意なんだよねっ!」

 梨羽は、床に残ったわずかな熱源と空気の密度を読み取り、壁を蹴って空中へ。

 「見つけた――っ!」

 垂直落下ブレードを叩き込む瞬間、美苑の姿が出現。

「な……っ、読まれた……!?」

「ふっふーん、あたしだって、毎日文哉くんの様子、見てるんだからねっ! “見えないもの”だって感じるよっ!」

 正面からの激突。

 激しい光の交差。

 二人はほぼ同時にフィールド中央で膝をついた。

「はぁ、はぁ……」

「……っ、息が……」

 どちらも機体損傷率は50%以下。判定不能ギリギリ。

 ──だが、最後に起き上がったのは、梨羽だった。

「やっ……た。勝ち、だね……っ」

「っ……っ、く……認めますわ。ほんの……僅差で、あなたの勝ちですわ」

 美苑は、悔しさを滲ませながらも、真っ直ぐ立ち上がる。

 「ですが、次は……こうはいきませんことよ?」

「ふふっ、そのときは、また“本気の美苑ちゃん”と勝負できるの、楽しみにしてるよ!」

 そう言って、梨羽は笑う。

 美苑は、微かに視線を逸らしながらも、その笑顔にほんの少しだけ、肩を緩めた。

✿✿✿✿

 春の陽射しが斜めに差し込む教室の窓際。
 誰もいない昼休みの教室で、俺はぼんやりとノートの隅に落書きをしていた。

 その隣で、柊 真帆が静かに座っていた。
 白いカーディガンを羽織った細い肩が、ゆっくり上下して、スケッチブックに集中している。

「なに描いてんの?」

 俺の声に、真帆の手が止まった。桜色の髪がゆらりと揺れる。

「……べつに、なんでもない」

「ふーん? そんなに隠されると、余計に気になるんだけど」

 冗談めかして覗き込もうとすると、彼女はあわててスケッチブックを閉じた。

「ダメ。まだ途中だし……見せない」

 ほんのり赤くなった頬と、うつむいたままの視線。
 でも、ちゃんと俺の言葉を聞いてくれてる。

「じゃあ、完成したら。俺のこと描いてるならさ」

「……っ……なんでわかったの?」

「勘、かな?」

 彼女はしばらく黙ったあと、小さく「……バカ」とつぶやいて、目線をそらした。

 こうして少しずつ、心の距離が縮まっていく――そんな予感がした。

 だが、その静かな時間はチャイムに断ち切られる。

「柊 真帆さん、黒崎 美苑さん、模擬戦の準備を整えてください」

 構内放送が鳴り響いた瞬間、真帆の瞳の奥がわずかに揺れた。
 そして、スケッチブックを閉じ、無言で立ち上がった。



 演習場に並び立つ二機のバイオギア。
 〈ファム=ヘヴィリオン〉と〈フェイド=ヴァニッシャ〉。

 どちらも、主張が強い。けれど、まったく別の方向に。

「貴女のその“感情の迷い”、戦場じゃ命取りになりますわよ」

 美苑の声は、研ぎ澄まされた刃のように冷たい。

 けれど真帆は、ギアの内側でただ静かに息を吐いた。
 余計な言葉はない。彼女にとって、表現すべきは“言葉”ではなく、“動き”だった。

 開始の合図とともに、〈ファム=ヘヴィリオン〉の巨大キャノンが火を噴く。

 地を揺らす轟音。熱と衝撃で空間が歪む。
 だが、美苑の姿は……すでにそこにはいなかった。

「幻影……!」

 真帆が口にした瞬間、背後に残像が走った。
 美苑の〈フェイド=ヴァニッシャ〉は、光学迷彩によって姿を溶かし、霧の粒子を撒きながら疾走する。

「戦場で見惚れている余裕なんて、ありませんのよ」

 すれ違いざまの一閃。真帆の機体がきしむ。

 けれど、彼女も引かない。

「……だったら、ちゃんと“届く”ように撃つだけ」

 ミサイルコンテナが展開。追尾弾と散弾の組み合わせで周囲を制圧する。
 砲撃は“絵筆”のように軌道を描き、戦場そのものを塗り替えていく。

 それでも――

 〈フェイド=ヴァニッシャ〉は、掠れるように動き続けた。

「貴女、まだどこかで迷ってる。そういうの……すぐに伝わりますのよ」

「……うるさい」

 真帆のキャノンが再起動し、炸裂する。

 だがその弾道は、美苑の“予測”の範囲だった。

 最後の瞬間、霧のように消えた美苑の幻影のあとから――
 背後に回り込んだ本体が、一撃を叩き込む。

 そして、〈ファム=ヘヴィリオン〉が膝をついた。

 勝者:黒崎 美苑。



 演習後、控室の隅。
 真帆は少し乱れた髪を整えようともせず、スケッチブックを抱えて座っていた。

「……負けた」

 俺が声をかけると、彼女は小さく微笑んだ。

「悔しいな……ちょっとだけ、泣きそう」

「俺には、真帆の戦い、ちゃんと見えたよ」

「……そう?」

 そっと彼女の手に触れると、真帆はほんの少し指を絡めてきた。

「……ありがと。……また、頑張る」

 その言葉は、砲声よりも強く、まっすぐに俺の胸に響いた。
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