この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

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21話

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 警報が鳴り響く学園の空に、赤く点滅する非常灯が瞬いていた。

 〈ノア・クロス〉第2校舎前──そこに、まるで降り立った天使と錯覚するような装甲姿が、淡い陽光を背に佇んでいた。

 だがその姿は天使とは程遠い。

 白と黄を基調とした、柔らかく光る装甲。肩口にはドローンポッド、腰のアーマーからは医療ツールのホログラムが散っている。精緻で整ったSF的なシルエットの中に、冷たく濁った殺意が確かに宿っていた。

 「……ああ。これよ、この空気……。学園の空気、忌々しい匂い」

 テロリスト──プティは、片眼ゴーグル越しに学園の校舎群を睨み、ゆっくりと左手を掲げた。

 ドローンアームが起動し、周囲に情報波を散布し始める。瞬時に複数の通信チャネルが遮断され、校舎ブロックB~Dがセンサー的に“死んだ”。

 その直後だった。

 空を裂くように鮮烈な光が走り、プティの目前に火花とともに突き刺さる。

 「そこまでよ!」

 ──桜葉梨羽。

 〈スカーレット=アストレア〉の紅い残像が、屋上から真っ直ぐに降下してきた。透過フィンウィングを展開し、空中で大きくブレーキをかけると、軽やかな旋回を経て地面に着地する。

 「テロリストなんて学園に用はないよっ!」

 彼女の声は、明るく、だが確かな怒りに満ちていた。

 「へぇ……現れるのね、こんな小娘が」

 プティのドローンが浮かび、梨羽の全身をスキャンする。

 「〈アストレア〉系……近接高機動タイプ? でもバランスが甘いわ。守りが薄すぎる」

 「関係ないよっ」

 梨羽は言い切った。

 「だって、“守るために戦う”って決めたんだもん!」

 瞬間、両脚のハイヒール装甲が煌めいた。空気を裂く音とともに、梨羽は弾丸のように飛び出す。

 プティも即座に対応。ドローンポッドが自律的に回避行動を開始し、補助アームが盾となって梨羽の蹴撃を受け止める。

 「っ、チッ……!」

 鋭い蹴りが防がれ、梨羽は後方に宙返りして距離を取る。だが目は逸らさない。

 プティはすかさずホログラム操作を開始し、浮遊するツールポッドを散開させる。

 「学園なんて、潰れてしまえばいいのよ!」

 叫ぶと同時に、粒子帯から閃光が放たれ、直線状に数発のビームが展開された。

 梨羽は足場を斜めにずらし、回避しながらも近接まで詰めていく。

 ──接近戦が得意。

 それは梨羽にとって最大の強み。だが、相手はそれを読んでいた。

 「読まれてる…!」

 空中でクロスブレードを振り上げようとした瞬間、プティのドローンアームが梨羽の背後から突進。だが──

 「そんなの、気合でどうにかするんだってばっ!」

 梨羽の右脚が回転し、回し蹴りの勢いで真横のドローンを粉砕。続く勢いで片手剣を逆手に構え、突き刺すようにプティの正面へと飛び込んだ。

 「──なっ……!」

 プティが驚く。

 「“守られてる”からって甘く見ないでよね……!」

 斜め上からの斬撃。透明装甲が弾け、ドローンのコアが露出した。

 その一閃が、戦況を決めた。

 「ここまで……なの……?」

 プティは肩を落とし、その場に崩れ落ちる。機体の中枢が損壊し、稼働不能となった。

 すぐさま駆けつけた学園の警備員部隊が、動けなくなったプティのバイオギアを拘束。拘束フィールドが展開され、彼女は機体ごと拘束搬送車へと引き渡された。

 ──戦闘終了。

 「ふぅ……終わった、かな?」

 装甲が揺れ、梨羽の肩越しにエネルギーフィンが収束していく。汗ばんだ額に手を当てながら、彼女は空を見上げた。

 真っ青な、しかしどこか緊張を含んだ空。

 「……絶対、文哉くんのこと……守るんだから」

 その呟きは、誰にも聞こえていなかった。

 けれど彼女の決意は、確かに空へと刻まれた。

✿✿✿✿

 夕暮れの光が、学園の外周部を黄金色に染めていた。

 突発的な襲撃から一時間後、非常警戒レベルは解除され、生徒たちは屋内退避から徐々に通常待機へと移っていく。そのなかで、俺は警備隊のバリアフェンスを抜け、急ぎ足で第2校舎前へ向かっていた。

 梨羽が、あの襲撃者を止めたらしい。

 俺が聞いたのはそれだけだった。

 だけど――理由もないのに、胸がざわついていた。あの子が、俺を守ろうとして……自分の身を削るような戦い方をしていないか。それが、どうしようもなく怖かった。

 ──そして。

 見つけた。

 半壊した校舎の側、夕日に染まる赤い装甲の機体。装甲が開いて、ゆっくりと中から姿を現したのは……。

 「梨羽!」

 俺の声に、彼女はピクリと肩を震わせ、振り向いた。

 いつもの明るい笑顔じゃなかった。少しだけ、目を伏せていた。

 「……文哉くん」

 声がかすかに揺れていた。

 駆け寄って、咄嗟に彼女の肩を抱きとめた。傷こそ見えないが、肩越しに伝わる体温と微かな震えが、全てを物語っていた。

 「無茶しただろ……」

 俺の手が、彼女の髪に触れた。梨羽は反応するように目を伏せたまま、口を開く。

 「……守らなきゃって、思ったの。ここが壊されたら……文哉くんが、危ないかもしれないって」

 「……バカ」

 思わず出たその言葉に、彼女は少しだけ笑った。けれど、それはどこか張り詰めた笑顔だった。

 「でも、ね。文哉くんが戦ってたとき、すっごく……かっこよかったから」

 「……っ、そ、そういうこと言うなよ。こっちが照れる」

 梨羽は、小さく頷いた。

 それから二人、沈黙のまま視線を空へ向けた。

 校舎の破損は局所的だったが、建物のひび割れや焦げた地面が、今の事態の異常さを物語っていた。

 「……梨羽。相手、言ってたか? 目的とか」

 「ううん……あの子は、ただ“学園が憎い”って。それしか言わなかった。でも……あのバイオギア、完全な汎用機じゃなかった。中に、ノノと同じ粒子発振パターンがあった」

 「やっぱり……」

 俺は思わず声を押し殺した。

 「今回の襲撃、プティとかいうやつと……ノノ。複数のギア使いが連携して学園を狙ってるってことだ。たぶん、目的は……」

 「学園の破壊?」

 俺は静かに頷く。

 「ノア・クロスの中枢を狙ってる。今まで男子を中心に守られてきたこの都市機能そのものが……崩されようとしてるんだ」

 遠くで警備隊のドローンが空を飛んでいた。

 その光景の中、俺は――気づいてしまった。

 俺自身が、この学園にとっても、奴らにとっても“価値のある存在”なんだと。

 「文哉くん……」

 梨羽の声が、小さく寄り添うように響く。

 気づけば、彼女の手が俺の袖をそっと掴んでいた。ほんの少しだけ、震えている。

 「私は……怖いよ。文哉くんが、また戦場に行っちゃうの。見てるだけで……すごく、苦しくなる」

 「……でも」

 俺は手を重ねる。

 「俺も、怖いよ。でも、俺が何もしなかったら、誰かが傷つく。だから……お前みたいに、守りたいって思える人がいる限り、戦いたいって思えるんだ」

 その言葉に、梨羽は一度目を見開いて、それから小さく笑った。

 「……それ、ずるい」

 「なんでだよ」

 「だって……そんなこと言われたら、また好きになっちゃう」

 俺は返事ができなかった。

 頬が熱くなって、それを隠すように目をそらすと、夕陽の向こうで、校舎の尖塔が赤く染まっていた。

 その色は、まるで次に来る夜を予兆するようで。

 ──だが、確かに俺たちは今、“何か”の中心に巻き込まれ始めていた。
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