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22話
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昼下がりの空は、やけに青かった。
……あの日と、同じ色だった。
俺はひとり、郊外の研究施設に向かっていた。バイオギアのデータ調整、という名目で、護衛はついていない。
周囲は森林と道路しかない静かな場所だ。……静かすぎる。
「……? 何だ、あの音」
風の向こうから、低く唸るような空気の震えが伝わってくる。
俺が道の先を見据えた瞬間、遠方で閃光が走った。――爆発。
建物が一棟、煙に包まれて崩れた。
「っ、マズい……!」
俺は即座にギアのペンダントに触れた。
「展開モード、アカツキ=バーンブレイカー、起動!」
紅蓮の粒子が身体を包み、俺の肉体を戦闘仕様へと切り替える。装甲が瞬時に構成され、視界が光に満たされ――
――たどり着いた瞬間、瓦礫と粉塵の中心に、彼女はいた。
ノノ。
純白と金、そして聖緑を纏う騎士のような姿。
その機体――〈レガリア=ブレイズリリー〉は、まるで“降臨”した神のように光を纏っていた。
「……ノノ」
彼女はこちらを見ていた。まるで、最初から俺を待っていたかのように。
「来たか。やはり、動くのはお前だと思っていた」
「……郊外を襲って、何がしたい。学園が狙いじゃなかったのか」
問いかけながらも、俺はゆっくりと間合いを取る。ノノの手には、まだ武器はない。だが油断はできない。――彼女は“兵器”だ。
「……学園は、お前の城だ」
静かに、ノノは言った。
「守る者がいて、制度がある。監視も、護衛も。私のような者にとっては入り込みにくい」
その目は、どこまでも冷たい。
「だから誘き出した。郊外で暴れれば、きっとお前が動くと踏んだ」
「……まさか、それだけのために――」
「そうだ。私の狙いは、ノア・クロスではない」
ノノの脚が一歩、地を踏みしめる。
「――文哉。私が殺すのは、お前だ」
空気が、凍りついた。
「……なぜ、俺を……」
「お前は、“象徴”だ。唯一の男子適合者。バイオギアの未来そのもの」
「……」
「その存在が、この世界の秩序を成立させている。ならば、お前がいなければ、世界は揺らぐ」
〈レガリア=ブレイズリリー〉の聖剣が、背中の鞘から光の軌跡とともに滑り出す。
金の花弁が、風に舞った。
「この世界は美しくない。歪みきった世界だ。男が“守られ”、女が“奪い合う”。」
「貴様が死ねば――その歪みも、すべて壊れる」
「……ふざけるなよ」
気がつけば、俺の手には〈バーンブレイカー〉の双剣が握られていた。
「この身体で、ようやく“自由に動ける”ようになった。俺の命を、勝手に意味付けるな!」
「なら、力で示せ」
ノノの聖剣が、白く煌めいた。
その瞬間、地面が抉れ、衝撃波が放たれる。
俺は踏み込み、受け止める――!
紅と白、力と意志。
戦いは、今、始まったばかりだった。
ノノの白と金の装甲が月明かりの中で砕けるように崩れ、文哉の《アカツキ=バーンブレイカー》の拳が彼女の胴部にめり込もうとしていた。
だが――
「ノノ、退がれ」
その声と共に、漆黒の雷鳴が空間を切り裂いた。
――ドンッ!
まるで雷撃の直撃のような衝撃。文哉の機体が吹き飛ばされ、廃ビルの壁面に叩きつけられる。コクピットが揺れ、警告音が鳴り響く中、文哉は顔をしかめた。
「なにっ……!?」
煙の向こうから、艶やかな悪魔の影が歩み出る。
その機体は、漆黒と紅、そして蛍光グリーンのエネルギーラインを纏い、まるで“怒れる異形”そのものだった。
装甲の割れ目からは肉体に酷似したしなやかなラインが覗き、女の肉体を模したその姿は、生々しさと攻撃性を強調していた。背には稲妻のようなフィン、脚部には閃光を放つスパイク。そして、常に赤く燃える片眼。
「ラノ……」
ノノが掠れた声でその名を呼ぶ。
「遅かったか……だが、任務は果たす」
ラノが顎を上げて言った瞬間、ノノは空へと跳躍し、光の粒子を撒きながら退却していった。
文哉は歯を食いしばり、ラノの姿を見据える。
「……あいつの仲間か。逃がしたのはしくじったけど、今は――お前を止める」
ラノは口の端を吊り上げるように、だがマスクに隠れて見えない笑みを浮かべた。
「“男のバイオギア使い”か。珍しいものを見た。だが――壊れるかどうかは別だ」
赤い光が走り、〈アークブレイカー=ルシフェラ〉が突進する。
その速度、重さ、格闘機としての破壊力――文哉は咄嗟にブレードアームで受け止めたが、足元のアスファルトがめくれ、機体ごと後退する。
「くっ……!」
文哉の腕に響く衝撃。格闘専用の強化筋束から繰り出されるラノの打撃は、一撃ごとに“殺す”意志がこもっていた。
「やる気満々だな……でも、こっちだって!」
〈アカツキ=バーンブレイカー〉の背部スラスターが噴き上がり、一気に距離を詰める。
右肘から放たれた回転式の“紅蓮拳”がラノの肩部装甲を弾くが、彼女は半歩踏み込み、そのまま腹部に掌底を叩き込んでくる。
「ッ!」
咄嗟に背中を逸らしながら、文哉は空中へと跳び、ラノの頭上からカウンターの踵落としを見舞う。
バイオファイバーが紅に燃え上がり、打撃と共に振動波を放つ。
「うおおおおおおおおっ!!」
地面が砕け、ラノの機体が半身ごと地にめり込む。
……しかし。
「まだだ。まだ足りない」
漆黒の装甲が咆哮をあげ、稲妻型ブレードフィンが一斉展開された。
「っ、これは――!」
無数の光刃が宙を走り、文哉の周囲を斬り刻もうと襲い掛かる。
彼は全身のバイオギアを展開し、全力でスラスターを吹かした。
紅蓮の閃光が空を裂く――!
〈アカツキ=バーンブレイカー〉の加速が限界を超え、空中で弧を描いた。
「これで決める!」
全身にエネルギーを集中。バイオファイバーが赤く燃え上がり、文哉の声と共に叫ぶ。
「――《紅蓮閃破(バーニング・シンフォニア)》!!」
螺旋を描いた突撃軌道が、ラノの機体に直撃する。
轟音。
衝撃。
――そして、爆発。
紅い閃光の中で、〈アークブレイカー=ルシフェラ〉は破裂するように崩壊し、その姿を煙の中へと消した。
静寂。
文哉は荒い息を吐きながら、瓦礫の中に片膝を突いて立ち尽くしていた。
(……ノノ。ラノ。こいつらは――)
思考は止まらない。
次の敵が、もうこちらに牙を剥いていることを、彼の体はすでに理解していた。
……あの日と、同じ色だった。
俺はひとり、郊外の研究施設に向かっていた。バイオギアのデータ調整、という名目で、護衛はついていない。
周囲は森林と道路しかない静かな場所だ。……静かすぎる。
「……? 何だ、あの音」
風の向こうから、低く唸るような空気の震えが伝わってくる。
俺が道の先を見据えた瞬間、遠方で閃光が走った。――爆発。
建物が一棟、煙に包まれて崩れた。
「っ、マズい……!」
俺は即座にギアのペンダントに触れた。
「展開モード、アカツキ=バーンブレイカー、起動!」
紅蓮の粒子が身体を包み、俺の肉体を戦闘仕様へと切り替える。装甲が瞬時に構成され、視界が光に満たされ――
――たどり着いた瞬間、瓦礫と粉塵の中心に、彼女はいた。
ノノ。
純白と金、そして聖緑を纏う騎士のような姿。
その機体――〈レガリア=ブレイズリリー〉は、まるで“降臨”した神のように光を纏っていた。
「……ノノ」
彼女はこちらを見ていた。まるで、最初から俺を待っていたかのように。
「来たか。やはり、動くのはお前だと思っていた」
「……郊外を襲って、何がしたい。学園が狙いじゃなかったのか」
問いかけながらも、俺はゆっくりと間合いを取る。ノノの手には、まだ武器はない。だが油断はできない。――彼女は“兵器”だ。
「……学園は、お前の城だ」
静かに、ノノは言った。
「守る者がいて、制度がある。監視も、護衛も。私のような者にとっては入り込みにくい」
その目は、どこまでも冷たい。
「だから誘き出した。郊外で暴れれば、きっとお前が動くと踏んだ」
「……まさか、それだけのために――」
「そうだ。私の狙いは、ノア・クロスではない」
ノノの脚が一歩、地を踏みしめる。
「――文哉。私が殺すのは、お前だ」
空気が、凍りついた。
「……なぜ、俺を……」
「お前は、“象徴”だ。唯一の男子適合者。バイオギアの未来そのもの」
「……」
「その存在が、この世界の秩序を成立させている。ならば、お前がいなければ、世界は揺らぐ」
〈レガリア=ブレイズリリー〉の聖剣が、背中の鞘から光の軌跡とともに滑り出す。
金の花弁が、風に舞った。
「この世界は美しくない。歪みきった世界だ。男が“守られ”、女が“奪い合う”。」
「貴様が死ねば――その歪みも、すべて壊れる」
「……ふざけるなよ」
気がつけば、俺の手には〈バーンブレイカー〉の双剣が握られていた。
「この身体で、ようやく“自由に動ける”ようになった。俺の命を、勝手に意味付けるな!」
「なら、力で示せ」
ノノの聖剣が、白く煌めいた。
その瞬間、地面が抉れ、衝撃波が放たれる。
俺は踏み込み、受け止める――!
紅と白、力と意志。
戦いは、今、始まったばかりだった。
ノノの白と金の装甲が月明かりの中で砕けるように崩れ、文哉の《アカツキ=バーンブレイカー》の拳が彼女の胴部にめり込もうとしていた。
だが――
「ノノ、退がれ」
その声と共に、漆黒の雷鳴が空間を切り裂いた。
――ドンッ!
まるで雷撃の直撃のような衝撃。文哉の機体が吹き飛ばされ、廃ビルの壁面に叩きつけられる。コクピットが揺れ、警告音が鳴り響く中、文哉は顔をしかめた。
「なにっ……!?」
煙の向こうから、艶やかな悪魔の影が歩み出る。
その機体は、漆黒と紅、そして蛍光グリーンのエネルギーラインを纏い、まるで“怒れる異形”そのものだった。
装甲の割れ目からは肉体に酷似したしなやかなラインが覗き、女の肉体を模したその姿は、生々しさと攻撃性を強調していた。背には稲妻のようなフィン、脚部には閃光を放つスパイク。そして、常に赤く燃える片眼。
「ラノ……」
ノノが掠れた声でその名を呼ぶ。
「遅かったか……だが、任務は果たす」
ラノが顎を上げて言った瞬間、ノノは空へと跳躍し、光の粒子を撒きながら退却していった。
文哉は歯を食いしばり、ラノの姿を見据える。
「……あいつの仲間か。逃がしたのはしくじったけど、今は――お前を止める」
ラノは口の端を吊り上げるように、だがマスクに隠れて見えない笑みを浮かべた。
「“男のバイオギア使い”か。珍しいものを見た。だが――壊れるかどうかは別だ」
赤い光が走り、〈アークブレイカー=ルシフェラ〉が突進する。
その速度、重さ、格闘機としての破壊力――文哉は咄嗟にブレードアームで受け止めたが、足元のアスファルトがめくれ、機体ごと後退する。
「くっ……!」
文哉の腕に響く衝撃。格闘専用の強化筋束から繰り出されるラノの打撃は、一撃ごとに“殺す”意志がこもっていた。
「やる気満々だな……でも、こっちだって!」
〈アカツキ=バーンブレイカー〉の背部スラスターが噴き上がり、一気に距離を詰める。
右肘から放たれた回転式の“紅蓮拳”がラノの肩部装甲を弾くが、彼女は半歩踏み込み、そのまま腹部に掌底を叩き込んでくる。
「ッ!」
咄嗟に背中を逸らしながら、文哉は空中へと跳び、ラノの頭上からカウンターの踵落としを見舞う。
バイオファイバーが紅に燃え上がり、打撃と共に振動波を放つ。
「うおおおおおおおおっ!!」
地面が砕け、ラノの機体が半身ごと地にめり込む。
……しかし。
「まだだ。まだ足りない」
漆黒の装甲が咆哮をあげ、稲妻型ブレードフィンが一斉展開された。
「っ、これは――!」
無数の光刃が宙を走り、文哉の周囲を斬り刻もうと襲い掛かる。
彼は全身のバイオギアを展開し、全力でスラスターを吹かした。
紅蓮の閃光が空を裂く――!
〈アカツキ=バーンブレイカー〉の加速が限界を超え、空中で弧を描いた。
「これで決める!」
全身にエネルギーを集中。バイオファイバーが赤く燃え上がり、文哉の声と共に叫ぶ。
「――《紅蓮閃破(バーニング・シンフォニア)》!!」
螺旋を描いた突撃軌道が、ラノの機体に直撃する。
轟音。
衝撃。
――そして、爆発。
紅い閃光の中で、〈アークブレイカー=ルシフェラ〉は破裂するように崩壊し、その姿を煙の中へと消した。
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文哉は荒い息を吐きながら、瓦礫の中に片膝を突いて立ち尽くしていた。
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