この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

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34話

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 ──何もなかった。

 色も、音も、時間さえも。
 ただただ、白。

 その“場所”に、俺はいた。

 立っているのか、浮かんでいるのかもわからなかった。ただ、確かなのは、身体の感覚が、遠く離れているということ。

 ──俺は……死んだのか?

 その実感はなかった。でも、生きているとも思えなかった。
 思考は霧の中にあり、記憶は断片的で、重さだけが胸に残っていた。


 「……ふみや」

 そのとき。
 霧の奥から、微かな声がした。

 振り返ると、そこにいたのは──彼女だった。

 黒髪のショートカット。煤けた頬に、柔らかな笑み。

 ノノが、そこにいた。

 「……ノノ……」

 言葉が震える。あの最期を、俺は確かに看取ったはずだった。
 だけど今、ここに彼女はいて、笑っていた。

 「また会えて、嬉しい」

 「なんで……なんでノノが……」

 俺がそう呟いたとき、ノノは首を横に振って言った。

 「私ね、死んでからも、考えてたの。自分が何のために生まれて、何を守りたかったのかって」

 白い世界の中、彼女は静かに歩いてくる。
 その瞳は、もう戦いに染まってなどいなかった。

 「最初は、ただ命令通りに戦ってた。でも……文哉と会って、変わったの。
 “私にも、誰かと一緒に生きたいって思っていいんだ”って、教えてもらったの」

 「ノノ……」

 彼女は、俺の手をそっと取った。

 その指先は、温かかった。夢だと気づいていても、触れたぬくもりに、涙が溢れた。

 「お願い、文哉。……あなたが、止めて。コアーを」

 「……でも……俺には、あいつの力には……」

 「大丈夫。私が……あなたの傍にいる」

 ノノの瞳が、まっすぐに俺を見つめていた。

 「それに……私の力も、少しだけ……預けていくから」

 そう言った瞬間、ノノの身体が光の粒になって舞い上がる。
 その黒髪が、風に溶けて、俺の胸に吸い込まれていく。

 “黒い炎”が、心の奥に宿った。

 そのとき、世界が一瞬、軋んだ。

 ──次の瞬間。

 「ッ……が、あ……!」

 意識が、引き戻された。

 現実の世界へと──

✿✿✿✿

 燃え残る廃墟の中、赤黒く燻る瓦礫の山。
 その中心で、半壊した〈アカツキ=バーンブレイカー〉が、微かに脈動していた。

 その全身を覆う装甲の隙間から、異質な輝きが走る。

 黒。
 深く、濃く、夜のような艶を湛えた黒いラインが、紅蓮の装甲の上に浮かび上がる。
 まるで、血管のように絡み、そして……何かを“融合”させるように波打つ。

 〈アカツキ=バーンブレイカー〉が呻くように唸り、停止していた反応炉が再起動する。
 その中心部──胸のコアには、紅蓮と黒焔が交錯する“新たな光”が灯っていた。

 「──っ……ぁ……」

 崩れた機体の中で、文哉の瞳が、ゆっくりと開かれた。

 「……ノノ……!」

 彼は叫び、力強く手を伸ばす。

 起き上がるその動作と共に、機体が新たな輝きを放つ。

 紅蓮の閃光に、黒い意志のラインが走る。

 それはまさに──ノノの“想い”が加わった、第二の進化形態だった。

 〈アカツキ=バーンブレイカー:インカーネイトモード〉
 ノノの記憶が織り込まれた、魂の融合体。

 「……あいつは、止めなきゃならない……!」

 文哉の声に、システムが応えるように駆動する。
 失われた出力は、異質な波長で補われ、新たな武装が形成され始める。

 “黒き光”が形を成し、右腕には鋭く細身のブレードが展開。
 左腕には、ノノの〈レガリア=ブレイズリリー〉の意匠を思わせる、金の輪型エネルギー発生装置が浮かぶ。

 「待ってろ、真帆……!」

 静かに、そして確かに。
 文哉の魂が、再び戦場に立ち上がる。

 黒と紅の光が交錯し、空間を引き裂く。
 〈アカツキ=バーンブレイカー:インカーネイトモード〉のブレードが唸り、対する〈セレスト=ファングレア〉の双爪が火花を撒き散らす。

 文哉とコアー──対等な力で打ち合う激突。

 さきほどまでの“虐殺劇”のような戦況は、もうなかった。
 今、この空間には、確かな“拮抗”が生まれていた。

 「そんな……力……!」

 目を見開くコアー。その身を駆けるペールピンクの装甲が、刃の風圧で抉れ、口元にわずかな血をにじませる。

 「ノノの想いが……お前の機体に反応している……? そんなはず、ない……!」

 文哉は答えず、無言のまま宙を駆けた。

 漆黒のエネルギーが翼のように展開され、重力を振り切る推進力が戦場を切り裂く。
 追従するようにブースト回避するコアーだったが、その瞳には確かに動揺が刻まれていた。

 「さっきまで虫けらのように這っていた男が……なぜ……!」

 その呟きを断ち切るように、文哉の剣が再びうなった。

 激突。火花。重なり合う刃と爪の軌跡が、夜空に禍々しいアートを描き出す。

 やがて、一瞬の距離が生まれた。

 両者は、瓦礫に足を止め、向き合う。

 ──そして、文哉が口を開いた。

 「……コアー。あんたの言ってること、……全部が間違ってるわけじゃない。……むしろ、正しい部分もある」

 その声に、コアーの目が鋭く細められる。

 「……何を言うつもり?」

 「この世界は……歪んでる。男だからって守られて、優先されて……何をしても許される。
 女の子たちは、ずっと俺を気遣って、気持ちを抑え込んで……本音を、ちゃんとぶつけてこないこともある」

 風が吹いた。
 炎に焼かれた建物の残骸が軋み、燃えかすが宙を舞う。

 「そんな世界、心地いいはずがない。俺は……本気で、誰かとぶつかって、生きて、……支え合って、立ちたかった」

 文哉の声は、どこまでも静かだった。

 「だから……この世界が変わるべきだって、俺も思う。
 けど、あんたのやり方じゃ、ただの“逆の支配”だ……! 結局、誰かが犠牲になって、誰かが笑う世界だ!」

 その言葉に、コアーはしばし沈黙した。

 やがて、笑った。

 低く、哀れむように。

 「……理想家。……本当に、愚かね」

 咆哮核が脈動し、ファングレアの爪が再展開される。

 「共に支える? 対等に生きる? そんなことが可能だったなら、私はこんな存在になってない!」

 声が震えていた。
 怒り、悲しみ、絶望、すべてが混じり合った激情が、コアーの喉を裂くように迸る。

 「私が……どれだけのものを奪われてきたか、知らないくせに……!」

 「知ってるよ」

 その言葉に、コアーがぴたりと動きを止めた。

 「お前が言ってたこと、さっきの声で……全部じゃないけど、届いた。
 技術を奪われて、名前を奪われて、人間として扱われなかった……
 自分の手で築いたものを、男っていうだけの奴に塗り替えられた。……辛かっただろ」

 文哉は、剣を下ろしたまま、ただ前を見ていた。

 「けどな、コアー……今のお前は、きっとその時の“加害者”と同じ顔をしてる」

 その言葉が、コアーの胸に刺さった。

 彼女の眉がひくりと揺れる。

 「お前は、“自分の痛み”で、“他人を殴る”ようになった。
 それじゃ……お前が嫌ってる“男たち”と、どこが違うんだよ」

 ──数秒の、沈黙。

 それは、空気そのものが止まるような、静謐な“間”だった。

 やがて、コアーの身体から、エネルギーの粒子が逆巻き始める。

 「……黙りなさい」

 その声には、かつての冷徹ではなく、明確な“怒り”が滲んでいた。

 「ならば、力で示すしかない。正しさなんて、言葉じゃ伝わらない。
 私が正しいことを……お前の“屍”で証明してやるわ!!」

 ファングエッジ・ツインクローが炸裂する。

 文哉も、剣を構える。

 次の一撃は、すべてを決める“問い”になる。
 どちらの“信念”が、本物なのか。

 「かかってこい、コアー……! 俺は、“この世界”も、お前も、背負って戦う!」

 そして、黒と紅、獣と炎。
 二つの意志が、空に衝突した――!

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