この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

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35話

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 無人区画の高層ビル群。その一角、廃ビルの屋上でふたつの影が交差する。

 片や、黒と燻金に包まれた〈オブシディアン=ヴェノム〉。もう片や、黄色と白の光沢装甲を纏った〈リファイン=カレント〉。

 先に動いたのは、しずくだった。

 「守るって決めたんだ……文哉くんも、学園も――だから、負けられないッ!」

 地を蹴った瞬間、脚部の強化フレームが爆ぜ、背部のナノブレードウィングが閃光を引いた。漆黒の装甲が、稲妻のごとく夜空を裂く。視認不能な速度で突貫するその姿はまるで黒い彗星。

 だがプティも怯まない。

 「……来なさい、小娘」

 彼女の機体〈リファイン=カレント〉の背部ドローンが一斉に浮上し、しずくの進路を塞ぐように旋回。光のデータ帯がビルの狭間に投影され、情報のホログラムが奔流のように展開される。戦闘支援アルゴリズムが、迎撃パターンを瞬時に組み上げていた。

 ――だが、止まらない。

 「甘い!」

 しずくは横に跳ねると、空中で反転。宙返りの勢いを利用して、左足でビルの外壁を蹴った。そのまま角度を変えて、プティの死角へ――

 「そこっ!」

 肘部のブレードが炸裂し、プティの肩装甲をかすめた。赤い火花が夜の闇に散る。

 プティは反射的に後退しながら、口元を歪める。

 「……やるじゃない。でもね――」

 言葉の終わりと同時に、四基のドローンがしずくを包囲。浮遊しながら一斉にレーザービットを発射。網のように展開された照射が、逃げ場を奪う。

 (くっ……!)

 地面を滑るように回避するしずくだが、避けきれず片膝をつく。装甲の隙間から、うっすらと赤いエネルギーが漏れた。

 「もう戻れないのよ、私たちは……! なのに、アンタたちは……!」

 プティの叫びは、怒りというより哀しみに近かった。

 「私たちホムンクルスには、“生きる意味”なんてないのよ! 与えられた使命しか、知らないのにッ!」

 しずくの胸に、言いようのない痛みが走る。

 (この子……本当は……)

 でも――だからこそ、言葉では届かない。だからこそ、戦う。

 「それでもっ――あたしは!」

 しずくが跳ね上がる。跳躍と同時に、ナノブレードウィングが前方へ折れ、鞭のようにしなって突き刺さる。

 プティは咄嗟に防御ドローンを展開、バリアを形成するが――

 「破ってみせる!」

 しずくの叫びとともに、ブレードが装甲を削り、ドローンバリアを貫通。プティが後方へ大きく吹き飛ばされ、ビルのガラス窓を突き破って墜落する。

 ビルの内部、階段と壁をなぎ倒しながら、煙とガラスの破片が舞い上がる。

 だがすぐに、白と黄の残光が立ち上る。

 「っ、ふざけないで……あたしは……!」

 プティは立ち上がり、スーツ越しに荒い呼吸を吐いた。その胸の中で、確かな“恐れ”が膨らんでいた。

 (このままじゃ……負ける。使命を果たす前に、壊される――)

 視界が揺れ、血の味が口内に広がる。しずくの突撃に、確実に追い詰められているのを、彼女は自覚していた。

 ――でも、それでも。

 「ホムンクルスの……ニセモノの私は、“人間”にならなくちゃいけないのよッ!」

 叫びとともに、全ドローンが暴走モードへ移行。各機が赤く明滅し、しずく目掛けて一斉に突撃した。

 「来るなら――!」

 しずくの背のナノブレードが展開。機体全体から黒煙状のエネルギーが吹き出す。攻防一体の黒い翼が、旋回するドローンを次々と切り裂いていく。

 光と影が衝突し、衝撃波が周囲のガラスを砕く。超高速で繰り出される斬撃と補助攻撃――

 最後の一撃は、空中で交錯した一瞬だった。

 「――ッ!」

 「うああああああああッ!!」

 交差。沈黙。

 時間が、止まったように感じた。

 直後、プティの〈リファイン=カレント〉の装甲が亀裂を走らせ、ドローンユニットが次々と火花を散らし、落下していく。

 プティの身体が、膝から崩れ落ちた。

 「……っ、や……めてよ……なんで……なんで、あたしを……止めるのよ……」

 震える声に、しずくはただ、ゆっくりと歩み寄る。

 「だって……君のしてること、文哉くんを……誰かを傷つけることだから」

 しずくの声は、怒りでも憐れみでもなかった。守る者としての、ただ真っ直ぐな決意。

 「止めたくなるでしょ。それが“護衛”ってもんなんだから」

 夜の風が吹いた。

 黒い煙が晴れ、壊れたドローンが地に伏す。

 次の瞬間、鉄骨が軋み、地面が震える。破壊の余波が無人ビル街に波のように広がっていく。

 漆黒の装甲が崩れ落ち、しずくの身体が、壁を砕いて跳ね飛ばされた。

 〈オブシディアン=ヴェノム〉の脚部装甲が砕け、黒いエネルギーが漏れている。呼吸は乱れ、視界は霞んでいた。

 ――力で、圧倒されている。

 プティの〈リファイン=カレント〉は、本来支援・補助特化の設計であるはずなのに、今やその面影は無い。

 ドローンは変形し、腕のように本体に結合。背部の光学ユニットが過剰反応を起こし、全身から吹き出す光帯はまるで“暴走する神経”のようだった。

 「なんで……ここまで……!」

 しずくは歯を食いしばり、半壊した装甲を引きずって立ち上がろうとする。

 だが、目の前のプティはもう彼女の声に反応しなかった。

 「私は……人間になるのよ……なるのよぉぉぉ……!」

 その声は狂気と悲願がないまぜになった絶叫。

 「コアー様が言ったの……学園を壊せば、私にも“名前”が、命が、生きる意味が……!」

 残された自我が砕け、ただ命令と執念だけが暴れ回っていた。

 光の鞭のようなデータ帯がしずくを襲い、腹部を貫く。叫びが漏れた。装甲が崩れ、意識が揺らぐ。

 (……動けない)

 膝が落ち、黒煙が吹き出す。

 「さあ、時間よ……!」

 プティが空を仰ぐ。夜空に浮かぶ月の光が彼女の黄白の装甲に反射する。

 「この街の空気に、もうウイルスは散り始めてる……男だけが、死ぬウイルス!」

 しずくの顔から血の気が引く。

 「文哉……くん……!」

 喉が震えた。護りたかったその名が、死の影に包まれようとしている。何もできない。動けない。立てない。

 「さあ、思い知りなさい……あなたたち“人間”が、どれだけ無力かってことを!」

 プティの口元が吊り上がる。抑えきれぬほどの興奮と憎悪が、その表情に張り付いていた。

 だが――そのとき。

 「……違うよ。もう、ウイルスは散布されない」

 風が吹いた。夜風に乗って現れた声は、迷いを一切含まぬ、まっすぐなものだった。

 着地と同時に煌めくのは、鮮やかな赤の粒子。〈スカーレット=アストレア〉の背中から扇状に展開された透過フィンウィングが、舞い上がる月光を切り裂いた。

 しずくの視界に、あの太陽のような少女が映る。

 「梨羽……ちゃん……!」

 プティの顔が一瞬、硬直する。

 「何……?」

 梨羽は、ゆっくりと歩みを進める。彼女の笑顔は、普段の無邪気さではなかった。真っ直ぐに敵を見る瞳。そこに浮かぶのは、確固たる意思。

 「スパイ……春野さんは、もう止められてるよ。美苑さんが、ちゃんと」

 その言葉は、まるで弾丸のようにプティの胸を撃ち抜いた。

 「……何ですって……?」

 「だから、ウイルスは撒かれてない。文哉くんも、学園も、誰も……死なないよ」

 風が吹いた。沈黙が落ちた。

 しずくは、ぼんやりとその背中を見ていた。梨羽のスーツの赤が、まるで彼女の命そのもののように燃えて見えた。

 しかし――

 「ウソよッ!! ウソウソウソウソウソッ!!!」

 プティが絶叫する。

 「違う! そんなの、おかしい! だって、私は! 私は、それしかなかったのよぉぉッ!!」

 全身のドローンが炸裂するように爆発的に再起動。赤いビットが空を埋め尽くす。暴走の熱量に、空間が歪む。

 「壊すしかなかったのよ……私には、それしか意味が無かったのにッ!」

 今や言葉では届かない。

 自分の価値が否定された――それがプティにとって、世界の崩壊と同義だった。

 「認めない……認めないッ!! 私は、“人間”にならなきゃいけないのよッ!!!」

 声が、叫びが、地響きとともに響く。

 その時、梨羽は、ゆっくりとしずくの横を通り過ぎていく。

 「立てる?」

 「……うん」

 答える声は、かすれていたが、確かだった。

 「じゃあ――一緒に、終わらせよっか」

 戦場に再び、火が灯る。

 少女たちの想いが交差し、夜の闇を赤と黒が裂いていく――。
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