3 / 23
3
しおりを挟む
平常心を装ってはいたが、カイルの心臓は今にも破裂しそうなほど脈打っていた。
長年、呪い殺してやるという執念で追い続けてきた相手。そのアーサーによる肩揉みがあまりに心地よく、背後に「彼」がいるという事実だけで、カイルの心拍数は制御不能なほど跳ね上がる。
あの日以来、カイルは復讐だけを糧に、がむしゃらに突き進んできた。女性を侍らせることもなく、学問、体術、そして魔術の会得に全霊を捧げてきたのだ。
もともと、彼にとって女性は身の回りを飾るだけのアクセサリーに過ぎなかった。后候補として多くの姫君と引き合わされても、心ときめくことなど一度もなかった。
頭にあるのは常に、あの不遜な騎士を屈服させることだけ。一途なまでの「アーサーへの憎悪」こそが、彼の原動力だったはずなのだ。
……だというのに、今やカイルの脳裏を占めるのは、彼を無慈悲に組み伏せ、陵辱したいという衝動ばかり。
(俺は……男好きだったのか?)
これまでの価値観が根底から崩れ去る混乱に、カイルは身悶えした。
「アーサー。今のお前は専属メイド……つまり女だ。女らしい名をつけてやらねばな」
嫌みを言って、どうにか気を紛らわせようとする。
「『アリス』なんてどうだ?」
知的で凛々しい彼には、似合わないほどに愛らしい名だ。だが、アーサーは溜息混じりに肩揉みを続けながら、淡々と答えた。
「……お好きなように呼んでください、ご主人様」
その直後だった。
凄まじい轟音と共に、執務室の窓ガラスが派手に砕け散った。魔法銃による高密度の魔力波動だ。
「——っ!」
考えるより先に、カイルの身体が動いた。座っていた椅子を蹴り飛ばし、アーサーの細い肩を抱き寄せ、その身を覆うように強く抱きしめる。同時に展開した防御結界が、降り注ぐガラス片と第二波の波動を完璧に弾き飛ばした。
「……衛兵たちは、何をしているんだ!」
カイルは瞬時に感知魔法を広げる。
一方、腕の中でアーサーが鋭い声を上げた。
「……っ! 私は騎士だ。守られる必要はない!」
抗うアーサーを、カイルは離さなかった。メイド服越しに伝わる体温。それだけで、背筋が凍るような恐怖を覚えたからだ。
「黙れ! 今のお前は武器も持たぬ、ただのメイドだ!……もし今のでお前に何かあったら、俺は……!」
そこまで言って、カイルは言葉を詰まらせた。自分でも驚くほど、声が震えていた。
復讐したかったはずだ。奴隷にして苦しめたかったはずだ。なのに、彼を失うかもしれないと思った瞬間、カイルの心臓は死よりも深く凍りついた。
一方、カイルの胸に顔を埋める形になったアーサーは、初めて知る強固な守護に戸惑いを隠せないでいた。
(なんだこれは……私の心臓が、こんなに煩い)
カイルの腕の中は、悔しいほどに安堵をもたらしていた。ずっとこの腕の中に居たい、守られたい——アーサーの中で深く眠っていた「女性」の部分が、強引に引きずり出されようとしている。
「離せと言っているんだ! 私は騎士だ!」
アーサーは己を鼓舞するように叫ぶと、カイルを力いっぱい突き飛ばした。そして、太ももに隠し持っていた護身用の短刀を素早く引き抜く。
手の中で短刀を三本に複製したかと思うと、窓の外へ向けて一気に放った。
カイルの感知魔法が拾った下手人は、三人。
刹那、外から短いくぐもった悲鳴が響き、気配が薄れる。アーサーは一寸の狂いもなく、獲物を仕留めたのだ。
「カイル様! 申し訳ございません、お怪我はございませんか!」
側近が血相を変えて乱入してくる。
「……ああ、無事だ」
「再度、城のバリアをかけ直しました。今、衛兵が下手人を追っております」
「下手人は既にアーサーが仕留めた。回収して拷問にでもかけておけ」
カイルが冷たく言い放つと、側近は深々と頭を下げて下がっていった。
静寂が戻った執務室で、カイルはアーサーの腕を掴み、問答無用で引き寄せた。
「何をする気だ……っ!」
「さて、アリス。まだお前は自分の立場を分かっていないようだな」
刺客を仕留めたというのに、なぜこれほどまでに怒りに満ちた目で睨まれるのか。アーサーには理解できない。
「俺は仕事を邪魔されて気が立っている。これ以上、俺を怒らせるな。……仕事の続きをする」
ニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、カイルは徐ろにズボンの帯を緩めた。中から露わになったのは、先程の襲撃の熱にあてられ、猛々しく隆起した「彼」の象徴だった。
(コイツ、命を狙われて何を興奮しているんだ……!?)
アーサーは混乱と、そして魂を泥で汚されたような侮辱に、カイルを睨みつけた。
「ほら、早くしろ。……お前が望んだことだろう。俺を屈服させるような王になったら、何にでもなると」
カイルは、硬質なそれをアーサーの頬にペチ、と軽く叩きつけた。
屈辱に染まったアーサーが、憎悪を込めた眼差しで自分を見上げる。
その、今にも噛み付いてきそうな獣の瞳こそが、カイルのサディスティックな情欲をさらに焼き焦がしていくのだった。
長年、呪い殺してやるという執念で追い続けてきた相手。そのアーサーによる肩揉みがあまりに心地よく、背後に「彼」がいるという事実だけで、カイルの心拍数は制御不能なほど跳ね上がる。
あの日以来、カイルは復讐だけを糧に、がむしゃらに突き進んできた。女性を侍らせることもなく、学問、体術、そして魔術の会得に全霊を捧げてきたのだ。
もともと、彼にとって女性は身の回りを飾るだけのアクセサリーに過ぎなかった。后候補として多くの姫君と引き合わされても、心ときめくことなど一度もなかった。
頭にあるのは常に、あの不遜な騎士を屈服させることだけ。一途なまでの「アーサーへの憎悪」こそが、彼の原動力だったはずなのだ。
……だというのに、今やカイルの脳裏を占めるのは、彼を無慈悲に組み伏せ、陵辱したいという衝動ばかり。
(俺は……男好きだったのか?)
これまでの価値観が根底から崩れ去る混乱に、カイルは身悶えした。
「アーサー。今のお前は専属メイド……つまり女だ。女らしい名をつけてやらねばな」
嫌みを言って、どうにか気を紛らわせようとする。
「『アリス』なんてどうだ?」
知的で凛々しい彼には、似合わないほどに愛らしい名だ。だが、アーサーは溜息混じりに肩揉みを続けながら、淡々と答えた。
「……お好きなように呼んでください、ご主人様」
その直後だった。
凄まじい轟音と共に、執務室の窓ガラスが派手に砕け散った。魔法銃による高密度の魔力波動だ。
「——っ!」
考えるより先に、カイルの身体が動いた。座っていた椅子を蹴り飛ばし、アーサーの細い肩を抱き寄せ、その身を覆うように強く抱きしめる。同時に展開した防御結界が、降り注ぐガラス片と第二波の波動を完璧に弾き飛ばした。
「……衛兵たちは、何をしているんだ!」
カイルは瞬時に感知魔法を広げる。
一方、腕の中でアーサーが鋭い声を上げた。
「……っ! 私は騎士だ。守られる必要はない!」
抗うアーサーを、カイルは離さなかった。メイド服越しに伝わる体温。それだけで、背筋が凍るような恐怖を覚えたからだ。
「黙れ! 今のお前は武器も持たぬ、ただのメイドだ!……もし今のでお前に何かあったら、俺は……!」
そこまで言って、カイルは言葉を詰まらせた。自分でも驚くほど、声が震えていた。
復讐したかったはずだ。奴隷にして苦しめたかったはずだ。なのに、彼を失うかもしれないと思った瞬間、カイルの心臓は死よりも深く凍りついた。
一方、カイルの胸に顔を埋める形になったアーサーは、初めて知る強固な守護に戸惑いを隠せないでいた。
(なんだこれは……私の心臓が、こんなに煩い)
カイルの腕の中は、悔しいほどに安堵をもたらしていた。ずっとこの腕の中に居たい、守られたい——アーサーの中で深く眠っていた「女性」の部分が、強引に引きずり出されようとしている。
「離せと言っているんだ! 私は騎士だ!」
アーサーは己を鼓舞するように叫ぶと、カイルを力いっぱい突き飛ばした。そして、太ももに隠し持っていた護身用の短刀を素早く引き抜く。
手の中で短刀を三本に複製したかと思うと、窓の外へ向けて一気に放った。
カイルの感知魔法が拾った下手人は、三人。
刹那、外から短いくぐもった悲鳴が響き、気配が薄れる。アーサーは一寸の狂いもなく、獲物を仕留めたのだ。
「カイル様! 申し訳ございません、お怪我はございませんか!」
側近が血相を変えて乱入してくる。
「……ああ、無事だ」
「再度、城のバリアをかけ直しました。今、衛兵が下手人を追っております」
「下手人は既にアーサーが仕留めた。回収して拷問にでもかけておけ」
カイルが冷たく言い放つと、側近は深々と頭を下げて下がっていった。
静寂が戻った執務室で、カイルはアーサーの腕を掴み、問答無用で引き寄せた。
「何をする気だ……っ!」
「さて、アリス。まだお前は自分の立場を分かっていないようだな」
刺客を仕留めたというのに、なぜこれほどまでに怒りに満ちた目で睨まれるのか。アーサーには理解できない。
「俺は仕事を邪魔されて気が立っている。これ以上、俺を怒らせるな。……仕事の続きをする」
ニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、カイルは徐ろにズボンの帯を緩めた。中から露わになったのは、先程の襲撃の熱にあてられ、猛々しく隆起した「彼」の象徴だった。
(コイツ、命を狙われて何を興奮しているんだ……!?)
アーサーは混乱と、そして魂を泥で汚されたような侮辱に、カイルを睨みつけた。
「ほら、早くしろ。……お前が望んだことだろう。俺を屈服させるような王になったら、何にでもなると」
カイルは、硬質なそれをアーサーの頬にペチ、と軽く叩きつけた。
屈辱に染まったアーサーが、憎悪を込めた眼差しで自分を見上げる。
その、今にも噛み付いてきそうな獣の瞳こそが、カイルのサディスティックな情欲をさらに焼き焦がしていくのだった。
3
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
【完結】男装令嬢、深い事情により夜だけ王弟殿下の恋人を演じさせられる
千堂みくま
恋愛
ある事情のため男として生きる伯爵令嬢ルルシェ。彼女の望みはただ一つ、父親の跡を継いで領主となること――だが何故か王弟であるイグニス王子に気に入られ、彼の側近として長いあいだ仕えてきた。
女嫌いの王子はなかなか結婚してくれず、彼の結婚を機に領地へ帰りたいルルシェはやきもきしている。しかし、ある日とうとう些細なことが切っ掛けとなり、イグニスに女だとバレてしまった。
王子は性別の秘密を守る代わりに「俺の女嫌いが治るように協力しろ」と持ちかけてきて、夜だけ彼の恋人を演じる事になったのだが……。
○ニブい男装令嬢と不器用な王子が恋をする物語。○Rシーンには※印あり。
[男装令嬢は伯爵家を継ぎたい!]の改稿版です。
ムーンライトでも公開中。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる