大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―

甘塩ます☆

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 翌朝、ユナが鏡の前で身支度を整えていると、背後に立ったリサの手が止まった。

「……お嬢様。これは、エル様の仕業ですね?」

 リサの視線の先には、昨夜エルがつけた耳たぶの甘噛みの痕が、赤く残っていた。

「あ、ええ……。昨日は約束を破ったから、罰だって言われて」

 ユナが顔を赤くして俯くと、リサの眼鏡の奥の瞳が、これまでにないほど鋭く光った。

「……少々、やりすぎです。お嬢様は私の管理物。勝手に『傷』をつけるのは、たとえ王子であっても許せませんね。とはいえ、流石に王子様に直接傷をつけるわけにもいきませんし……うーん、何か仕返しをしたいですねぇ。今夜、エル様の寝室の枕元に、数日間悪夢を見るお香を焚くというのはどうですか?」

「リサ、それはそれで怖いわ……」

 ユナは苦笑したが、同時に脳裏には『数日間悪夢を見るお香』の完璧なレシピが浮かんでいた。

(作れそうだわ。エル様からもらった地下の部屋で、後で作ってみようかしら。……そうね、三日くらいにしておきましょうか)

 そんな復讐の計画を立てると、不思議と気分が落ち着いてきた。
 その後の朝食時。席についたユナの耳飾りが痕を隠していることに気づき、エルはリサを鋭く睨みつける。しかし、リサはどこ吹く風で優雅に控えていた。

「リサは私の専属メイドですから」

 ユナがフフンと少し強気に笑って見せると、エルは苦々しく顔を歪めるのだった。



 学園に着くと、昨日の「真っ黒なゴミ」の一件と「見ただけで毒が何か、何個入っているかまで当てた」という反比例するような出来事を経て、ユナへの視線はより複雑なものになっていた。
 それに加え、カトリーヌの香水への指摘があまりに的確だったため、「彼女は有能なのか、それとも無能なのか」という賭けの対象にまでなってしまい、変な意味で人目を集めてしまったのだ。

 その日、ユナは午前を薬学の基礎知識、そして午後からは日常魔法の基礎知識の授業で1日座学だった為、何の問題も無く1日を終える事が出来た。
 そう思ったのがいけなかったのだろう。
 ユナは気を抜いていたのだ。



 放課後、学園では部活動への入部が義務付けられている。

「ユナ、君の部活は決まっているよ。僕が選んでおいた」

 エルの言葉に、ユナは反射的に身構えた。

「……ど、どこですか?」

「『特別管理・薬草園芸部』だ。部員は君一人。学園の端にある、誰も来ない古い温室が活動場所だよ」

 エルは満足げに微笑んだ。そこはエルが権力を使って無理やり「特別管理」の枠にし、他の生徒が立ち入ることを禁止した『ユナ専用の檻』だった。

「僕は隣の訓練場で『魔導騎士部』の活動をしている。何かあれば、僕は壁を壊してでもすぐに駆けつけるからね」

(壁を壊さないで……)




 案内された温室は、エルの言葉通り雑草が茂り、薬草たちは枯れかけた悲惨な状態だった。しかし、ユナはそれを見て今日初めて表情を輝かせた。

「……たくさん薬草があるわ!」

 ユナは、エルの監視が騎士部の活動に向いた隙を突いて、温室の土にそっと手を触れた。

(大丈夫よ、みんな。すぐに元気にしてあげるね!)

 指先から、昨日の実習では抑え込んでいた「翡翠色の光」が溢れ出す。
 すると、どうだろう。茶色く変色していた葉がみるみるうちに青々と繁り、伝説の絶滅危惧種とされる『星降る百合』までもが、ユナの足元で蕾を膨らませ始めたのだ。

「わぁ、初めて見る薬草もあるわ。……綺麗」

 ユナが夢中で再生した薬草を眺めていると、背後からガシャリと鎧の擦れる音がした。

「……本当に、君は目を離すとすぐに宝石を撒き散らす」

 振り返ると、部活動を抜け出してきたエルが、制服の上に軽く胸当てをつけた姿で立っていた。その手には鋭い魔導剣が握られている。

「エル様、騎士部の練習は?」

「他の奴らを全員気絶させてきたから、終わりだよ。それより、ユナ」

 エルはユナに歩み寄り、彼女の指先を自分の口元へ持っていった。

「その『光』を、僕以外に見せないでと言っただろう? ……こんなに綺麗な庭にしたら、また誰かが君を見つけてしまう。僕は、君をこの温室ごと、地下深くの誰の手も届かない場所に埋めてしまいたくなるんだよ」

 エルの瞳は、美しい植物など見ていない。ただ、それらを生み出したユナの指先だけを、食い入るように見つめている。

「……ねえユナ。明日の部活時間は、ここを完全に封鎖させよう。君と僕、二人きり。植物たちの前で、昨日の罰の『続き』をしようか」

 エルの独占欲は、学園という広い場所へ出たことで、より狂気じみてきていた。ユナはみずみずしい薬草達に囲まれながら、自分だけが枯れていくような錯覚に囚われるのだった。
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