大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―

甘塩ます☆

文字の大きさ
15 / 23

15

しおりを挟む
 プヨンの案内に従い、壁を突き進むユナ。
 二枚目の壁の質問は「愛する人の、最も愛するところはどこ?」であった。

「私はリサの強くて優しいところ……あ、二個になっちゃった! えーっと、いつも助けてくれるところが好き!」

「お嬢様! 私はお嬢様の……一つを選ぶなんて難しいです……。えっと、いつもお側に置いてくださるところです!」

 ユナとリサはキャッキャと手を繋いではしゃぐ。壁も囃し立てるようにクラッカーを鳴らし、祝福ムード一色だ。
 だが、エルは面白くない。またも二人の間に割って入った。

「僕がユナを好きなところは、この美しい瞳、滑らかな肌ざわりの頬、それに髪……」

「エル様、一つです!」

 いちいち触りながら説明しだすエルを、ユナは手で押し返す。すかさずリサがユナを引き離して自分の背後に隠すと、二人の間にバチバチと火花が散った。……それすらも、壁の演出として盛り立てられる始末だ。

「ユナさん、この壁抜けルートは安全なようで、精神的に最も危険なルートなんじゃないか?」

 教授の困ったような声に、ユナも頷く。

「そうですね……プヨン、別のルートはある?」

 プヨンは頷くように強く光ったが、同時に壁も怒ったように大きな音を立てた。一度質問を提示された以上、答えなければ攻撃に転じるらしい。

「ここだけ抜けちゃいましょう。エル様、とにかく一つだけ言ってください!」

 ユナに促され、エルは少し考えて叫んだ。

「ユナは宝石だ!」

「……それ、好きな『ところ』ですか?」

(私は宝石ではないのだけれど)とユナは心の中でツッコんだが、壁は了承したらしく「◎」を表示した。


「じゃあ僕だね。教授の好きなところか。……本当は僕と同い年で童顔なのに、周りから侮られるのが嫌で、毎日『老薬』を飲んで老けて見せているところが可愛いね」

「ヴィクトール! 余計なことまで言うな! 『可愛い』だけでいいだろう!」

「可愛いのは認めるんだ?」

「違う!!」

 教授は顔を真っ赤にして叫んだ。

「老薬……興味深いですね」

 ジロジロと観察を始めるユナに、教授はたじろぐ。初老に見える紳士の中身が、第一王子と同じ二十四歳の青年だと判明し、ユナの驚愕の声が響き渡った。

「二十四歳で教授なんて、天才なんですね!」

「……さあ、進もう! 壁ルートは精神攻撃が激しいね。もう勘弁してくれ!」

 教授は逃げるように歩を速めた。
 ユナがプヨンに「恋バナ・パス」を頼むと、一行は壁を避けて細い脇道へと導かれた。



 やがて、通路全体が幻想的な青白い光に包まれ始めた。感情に反応する『灯火の苔(ランプ・モス)』だ。

「わあ……綺麗。まるで星空の中を歩いているみたい」

 ユナが苔に触れると、彼女の純粋な喜びに応えるように、苔は温かな黄金色に輝いた。

「ユナ、やはり君は光そのものだね」

 エルが肩を抱き寄せ耳元で囁くが、彼の過剰な執着心に反応した苔は、毒々しい赤紫色にドロドロと明滅し始める。

「……エル様、苔が怖がっています。少し落ち着いてください」 

「えっ、あ、ああ。済まない」

 窘められたエルがシュンと肩を落とすのを、ヴィクトールは鼻で笑いながら、弟を慰めるように肩を叩く。
 それはそれで嬉しいエルは照れて頬を染めた。


 さらに進むと、プヨンが空洞の中央で止まった。そこにはクリスタルのように透き通った枝を持つ小樹があり、紫色の実が一つだけなっていた。  

「教授、あれは……!」

 ユナは感動で殆ど悲鳴のような声を上げてしまう。

「ああ、あれは『瞬刻の果実(エフェメラ・ベリー)』だね。十年に一度、数分間だけ実る伝説の魔力回復薬だ」

 ユナと教授の瞳が輝く。

「凄まじい魔力循環……綺麗ね。食べるのがもったいないわ」
  
 ずっと眺めていたいが、数分で落ちて潰れてしまう。その実の考慮も数分で消えてしまうため、持ち帰る事は出来ないのだ。

「この実は、食べた瞬間に『その時一番愛している人の唇』の味がすると言われている。噛むたびにその人の声が漏れるともね。興味深いでが、人前で食べるのは試練過ぎる実だよ」  

 その瞬間、王子二人の視線が鋭く交差した。

(ユナの唇の味、そして声が味わえるなんて……!)
(滅多に拝めない果物か。興味深いね)

 不穏な沈黙の中、ユナは実を冷静に観察して呟いた。

「この実は皮ごと食べた方が栄養吸収率が良いはずだわ。かぶりつくより、切り分けた方が汁が溢れなくて済むし……」

 ロマンチックな実の性質より効率を優先するユナ。背後ではリサが(お嬢様の唇の味、そして声を王子殿下にだけは味あわせたくない!)とナイフを構えている。

「今のところ、誰も魔力は減っていないし、これは貴重な果物だ。ユナさんの言う通り、皮のまま切り分けて、平等に五人で分けて食べようじゃないか」

 殺気立つ空気を、教授が冷静(かつ冷酷)な提案で一蹴した。
 教授も精神攻撃を受けるが、それでも一生に一度味わえるか分からない貴重な果物を食してみたいという、植物オタクの好奇心に負けてしまったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿 心刃
恋愛
僕の幼馴染で姉的な存在である西田香奈は、眉目秀麗・品行方正・成績優秀と三拍子揃った女の子だ。彼女は、この辺りじゃ有名な女子校に通っている。僕とは何の接点もないように思える香奈姉ちゃんが、ある日、急に僕に急接近してきた。 僕の名は、周防楓。 女子校とは反対側にある男子校に通う、ごく普通の男子だ。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

愛情に気づかない鈍感な私

はなおくら
恋愛
幼少の頃、まだ5歳にも満たない私たちは政略結婚という形で夫婦になった。初めて顔を合わせた時、嬉し恥ずかしながら笑い合い、私たちは友達になった。大きくなるにつれて、夫婦が友人同士というのにも違和感を覚えた私は、成人を迎えるその日離婚をするつもりでいた。だけど、彼は私の考えを聞いた瞬間豹変した。

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

狭山雪菜
恋愛
アリカ・シュワルツは、この春社交界デビューを果たした18歳のシュワルツ公爵家の長女だ。 社交会デビューの時に知り合ったユルア・ムーゲル公爵令嬢のお茶会で仮面舞踏会に誘われ、参加する事に決めた。 しかし、そこで会ったのは…? 全編甘々を目指してます。 この作品は「アルファポリス」にも掲載しております。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。ユリウスに一目で恋に落ちたマリナは彼の幸せを願い、ゲームとは全く違う行動をとることにした。するとマリナが思っていたのとは違う展開になってしまった。

処理中です...