大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―

甘塩ます☆

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 教授の冷静な提案に頷き、ユナは瑞々しい実を収穫した。リサから手渡されたナイフで丁寧に五等分に切り分ける。薄紫色の果肉は、ほんのりと甘い香りを放っていた。
 誰もが固唾を呑んで、その断片を口に運ぶ。

「ん……? この味は……」

 ユナが目を閉じ、静かに咀嚼する。その瞬間、彼女の唇から微かに囁くような声が漏れた。

『お嬢様は私が守ります!!』

 それはリサがいつも口にする誓いの言葉。ユナは「ふふっ」とクスリと笑った。
 続いてリサが果実を口にする。彼女の顔は一瞬で紅潮し、驚きに見開かれた。

「……お、お嬢様……?」

 リサの唇から漏れたのは、紛れもなくユナの声。自分を「リサ」と呼んでくれる。いつもの温かい響きだった。リサは幸せを噛みしめるように両手で顔を覆い、その場にうずくまってしまった。
 そしてエル。彼が口にした途端、その顔はこれ以上ないほどの悦びに満ち溢れた。

「ふはぁ、ユナ……」

 エルの唇から漏れたのは、ユナの甘く柔らかな声だった。

『愛してますエル様。チュチュ』

「ユナあ~! ふぁああ!! チュチュ!」

 一口サイズだったことが惜しすぎる。ユナの唇そのものを味わいたかった――そんな欲望を剥き出しにしてチュチュとキスを繰り返すエル。

「何ですか、気持ち悪いですね」

 ユナが冷たく言い放つ。他人にはその「声」は届かないため、エルが虚空に向かって「チュチュ」と鳴いている光景は、不気味以外の何物でもなかった。

「いやあ……困ったね。僕の弟はこんな奴ではなかったはずだが、身体でも乗っ取られているのかな?」

 実兄のヴィクトールですら、本気でドン引きしていた。
 そのヴィクトールが実を口に含む。彼は微動だにしなかったが、唇から漏れたのは意外にも教授の真面目な声だった。

『殿下、また書類に不備がありますよ』

 ヴィクトールの端正な顔が僅かに引き攣る。

「……これは、想像以上に堪えるな」

 愛する対象が、小言を言ってくる教授の声だとは。理性が揺らいだ瞬間だった。
 最後に教授が口にする。顔を赤く染めた彼の唇から聞こえたのは、若きヴィクトールの溌剌とした声だ。

『バルト! 近くの湖畔に白鳥でも見に行こう!』

 教授は呻き、両手で顔を覆った。

「……私の最も愛するものが、私をからかうヴィクトール殿下とは……」


 五人が実を食した瞬間、溢れ出した魔力が周囲を強く照らした。
 すると地下の奥から地響きが轟き、プヨンが怯えたように明滅する。


「これは……聖樹の守護者か!」

 隆起した壁から、硬質化した樹木のゴーレムが姿を現した。全身に黒い蔦が絡みつき、憎悪のような魔力を放っている。

「ユナ、そのモンスターは守護者だ! 傷つけてはいけない!」
「わかってるわ。でも、何か困ってるみたい」

 教授の声にユナが頷く。
 ユナが見定めようと目を向けている間にも、ゴーレムは苦しげな咆哮を上げて襲いかかってきた。

「ユナ!」
「お嬢様!」
「教授、僕の後に下がれ」

 武闘派の三人が前に出る。攻撃を仕掛けようとする彼らを、後ろに下がった二人が鋭く制した。

「ヴィクトール、バリアを張れ! カウンターはするなよ!」
「リサ、エル、下がるのは貴方たちよ!」

 教授がヴィクトールの手を掴み、ユナがエルとリサの腕を掴んで引き戻す。ヴィクトールは即座に教授の意図を組み、透明な障壁を張って攻撃を凌いだ。

「おかしい。聖樹を傷つける意志のない者を見極める存在が、なぜこんな風に……。この中に、不届き者がいるのか?」

 教授の問いに全員が首を振る。ユナはじっとゴーレムを見つめ、その想いを汲み取った。

「……蔦が絡まって、嫌みたい」

「確かに、凄い絡み具合だな」

 ユナの言葉に、教授も頷く。こんなに蔦が絡まった守護者を見たのは初めてだ。

「よし、皆で手分けして取ってやろう」
「今、みんなで取るから落ち着いて」

 教授の声に、ユナが優しく宥めると、ゴーレムは毒気を抜かれたように大人しく座り込んだ。

 五人は手分けして、巨大な守護者の体に絡みついた忌々しい蔦を、丁寧に取り除いていくのだった。
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