大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―

甘塩ます☆

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 プヨンの案内に従い、壁を突き進むユナ。
 二枚目の壁の質問は「愛する人の、最も愛するところはどこ?」であった。

「私はリサの強くて優しいところ……あ、二個になっちゃった! えーっと、いつも助けてくれるところが好き!」

「お嬢様! 私はお嬢様の……一つを選ぶなんて難しいです……。えっと、いつもお側に置いてくださるところです!」

 ユナとリサはキャッキャと手を繋いではしゃぐ。壁も囃し立てるようにクラッカーを鳴らし、祝福ムード一色だ。
 だが、エルは面白くない。またも二人の間に割って入った。

「僕がユナを好きなところは、この美しい瞳、滑らかな肌ざわりの頬、それに髪……」

「エル様、一つです!」

 いちいち触りながら説明しだすエルを、ユナは手で押し返す。すかさずリサがユナを引き離して自分の背後に隠すと、二人の間にバチバチと火花が散った。……それすらも、壁の演出として盛り立てられる始末だ。

「ユナさん、この壁抜けルートは安全なようで、精神的に最も危険なルートなんじゃないか?」

 教授の困ったような声に、ユナも頷く。

「そうですね……プヨン、別のルートはある?」

 プヨンは頷くように強く光ったが、同時に壁も怒ったように大きな音を立てた。一度質問を提示された以上、答えなければ攻撃に転じるらしい。

「ここだけ抜けちゃいましょう。エル様、とにかく一つだけ言ってください!」

 ユナに促され、エルは少し考えて叫んだ。

「ユナは宝石だ!」

「……それ、好きな『ところ』ですか?」

(私は宝石ではないのだけれど)とユナは心の中でツッコんだが、壁は了承したらしく「◎」を表示した。


「じゃあ僕だね。教授の好きなところか。……本当は僕と同い年で童顔なのに、周りから侮られるのが嫌で、毎日『老薬』を飲んで老けて見せているところが可愛いね」

「ヴィクトール! 余計なことまで言うな! 『可愛い』だけでいいだろう!」

「可愛いのは認めるんだ?」

「違う!!」

 教授は顔を真っ赤にして叫んだ。

「老薬……興味深いですね」

 ジロジロと観察を始めるユナに、教授はたじろぐ。初老に見える紳士の中身が、第一王子と同じ二十四歳の青年だと判明し、ユナの驚愕の声が響き渡った。

「二十四歳で教授なんて、天才なんですね!」

「……さあ、進もう! 壁ルートは精神攻撃が激しいね。もう勘弁してくれ!」

 教授は逃げるように歩を速めた。
 ユナがプヨンに「恋バナ・パス」を頼むと、一行は壁を避けて細い脇道へと導かれた。



 やがて、通路全体が幻想的な青白い光に包まれ始めた。感情に反応する『灯火の苔(ランプ・モス)』だ。

「わあ……綺麗。まるで星空の中を歩いているみたい」

 ユナが苔に触れると、彼女の純粋な喜びに応えるように、苔は温かな黄金色に輝いた。

「ユナ、やはり君は光そのものだね」

 エルが肩を抱き寄せ耳元で囁くが、彼の過剰な執着心に反応した苔は、毒々しい赤紫色にドロドロと明滅し始める。

「……エル様、苔が怖がっています。少し落ち着いてください」 

「えっ、あ、ああ。済まない」

 窘められたエルがシュンと肩を落とすのを、ヴィクトールは鼻で笑いながら、弟を慰めるように肩を叩く。
 それはそれで嬉しいエルは照れて頬を染めた。


 さらに進むと、プヨンが空洞の中央で止まった。そこにはクリスタルのように透き通った枝を持つ小樹があり、紫色の実が一つだけなっていた。  

「教授、あれは……!」

 ユナは感動で殆ど悲鳴のような声を上げてしまう。

「ああ、あれは『瞬刻の果実(エフェメラ・ベリー)』だね。十年に一度、数分間だけ実る伝説の魔力回復薬だ」

 ユナと教授の瞳が輝く。

「凄まじい魔力循環……綺麗ね。食べるのがもったいないわ」
  
 ずっと眺めていたいが、数分で落ちて潰れてしまう。その実の考慮も数分で消えてしまうため、持ち帰る事は出来ないのだ。

「この実は、食べた瞬間に『その時一番愛している人の唇』の味がすると言われている。噛むたびにその人の声が漏れるともね。興味深いでが、人前で食べるのは試練過ぎる実だよ」  

 その瞬間、王子二人の視線が鋭く交差した。

(ユナの唇の味、そして声が味わえるなんて……!)
(滅多に拝めない果物か。興味深いね)

 不穏な沈黙の中、ユナは実を冷静に観察して呟いた。

「この実は皮ごと食べた方が栄養吸収率が良いはずだわ。かぶりつくより、切り分けた方が汁が溢れなくて済むし……」

 ロマンチックな実の性質より効率を優先するユナ。背後ではリサが(お嬢様の唇の味、そして声を王子殿下にだけは味あわせたくない!)とナイフを構えている。

「今のところ、誰も魔力は減っていないし、これは貴重な果物だ。ユナさんの言う通り、皮のまま切り分けて、平等に五人で分けて食べようじゃないか」

 殺気立つ空気を、教授が冷静(かつ冷酷)な提案で一蹴した。
 教授も精神攻撃を受けるが、それでも一生に一度味わえるか分からない貴重な果物を食してみたいという、植物オタクの好奇心に負けてしまったのだ。
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