転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる

さち喜

文字の大きさ
32 / 54
5 まだ俺のもの

第一話

しおりを挟む


「こんなものかな」

 荷物を所定の位置にしまい、ふうと息をついた。五月下旬、聖利は五階の自室から二階の空き部屋に一時的に移動した。
 寮長の高坂に頼み、來との同室を解消したのだ。

「まあ、“一時的”だけど」

 聖利は高坂に『新しい抑制剤を試す期間に入るので、一時的にひとり部屋に移りたい』と説明した。けして來との関係には言及せずに、『今はアルファでもベータでも同室はいない方がいい』という言い方をした。
 当初から聖利の境遇に理解を示してくれている高坂は、シャワーで使っていた二階の空き部屋をそのまま一時的な聖利の居室としてくれた。『俺たちも同じ階だから、何かあったらすぐに呼べばいい』と。三年生は全員が個室なので、二階と三階は彼らのスペースだ。
 ひとまず、これで來と離れることができた。
 そのことについては安堵しかない。あのまま一緒にいるべきではなかった。來を求める気持ちを抑えられなくなる。ヒートが起こったとき、本当に軽い症状で済むかも自信がない。感情のままオメガの引力で誘ってしまえば、來とてわからない。
 來は聖利に好意はない。ライバルとしての友情はあるようだが、番になってもいいなどと言うのは責任感からだろう。それは恋愛感情ではない。
 不幸な事故は起こしてはいけない。いくら聖利がまだ正式な番ができない状態だからといって、一度でも関係を結んでしまえば來はいっそう責任を感じるだろう。そういう男だ。そんな優しいところを好きになったのだ。

「これでいい」

 來がなぜ、ことさら聖利のフェロモンに反応してしまうかはわからない。やはり一度抑制剤の見直しはすべきかもしれない。次のヒートの予定はまだ先だが、病院のバース性科に予約を取っておこうと考えた。
 ふと、部屋を見渡す。先日、來に触れられたのはこの部屋のシャワールームだった。あのまま來と繋がってしまえたら、どれほど幸福だっただろう。來の名を呼び、はしたなく喘ぎ、好きだと言ってしまえたらよかった。自分にはそんな資格はないというのに。


 翌日から極力來に会わないように苦心する生活が始まった。ランニングの時間を早め、朝食も早めに取る。クラスでは視線を合わさないようにし、常に知樹や他の友人たちとつるみ、來が近寄りづらいようにした。放課後は早々に生徒会に赴き、仕事をする。
 來は寮の食事には半分くらい顔を出さない。そうなると授業以外で來と遭遇しない日は増えた。
 來も進んで聖利に話しかけようとはしていない様子だ。たまにこちらを見ている視線は感じないでもない。しかし聖利はすぐに打ち消す。きっと自意識過剰なのだ。
 実行してみれば、來と話さないのは簡単だ。こうやって生活していこう。來と離れて生きていこう。卒業まで関わらないように。
 そうだ。医師に診断書を頼めばいい。今後もルームメイトはいない環境が望ましいと証言してもらおう。ズルいかもしれないが、そうすれば來と正式に同室解消だ。
 聖利は密かに心を決め、早速病院に予約を入れた。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

義弟になるか義兄になるか争ってるうちに、僕は××を失いました。

BL
父親の再婚によって犬猿の仲にある同級生・友哉と図らずとも義兄弟になってしまって………。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。 昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。 タイトルを変えてみました。

【完結】ずっと一緒にいたいから

隅枝 輝羽
BL
榛名はあまり目立ったところはないものの、真面目な縁の下の力持ちとして仕事に貢献していた。そんな榛名の人に言えないお楽しみは、お気に入りのおもちゃで後ろをいじること。社員旅行の前日もア○ニーですっきりさせて、気の進まないまま旅行に出発したのだが……。 J庭57のために書き下ろしたお話。 同人誌は両視点両A面だったのだけど、どこまで載せようか。全部載せることにしましたー!

俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!

BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!

双子の兄になりすまし単位を取れと言われたが、おいおい何したらこんなに嫌われんの?

いちみやりょう
BL
長男教の両親のもとに双子の弟として生まれた柊木 紫(ひいらぎ むらさき)。 遊び呆けて単位もテストも成績も最悪な双子の兄、柊木 誠(ひいらぎ まこと)の代わりに男子校で学園生活を送ることに。 けれど、誠は逆に才能なんじゃないかというくらい学校一の嫌われ者だった。 ※主人公は受けです。 ※主人公は品行方正ではないです。 ※R -18は保険です。 感想やエール本当にありがとうございます🙇

処理中です...