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6 頂点に立つ男
第六話
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警察が到着し、学園の職員も集り、事件は大きなものとなった。当事者のひとりである聖利は検査のために病院に向かわされた。何もされていないと報告したが、転化オメガの症例自体が珍しいので、体調等に異変が出ないか調べたほうがいいというのが学園側の意見だ。來は絶対について行くと言って聞かず、同行となった。
かかりつけとなっているバース性科のある病院に入り、検査をひと通り終えると明け方である。
ふたりはあてがわれた個室でようやくひと息ついた。聖利は経過観察で明日まで入院となり、その間に警察の事情聴取も入るそうだ。
「よくわかったな。五階の部屋にいたんだろ?」
ベッドのリクライニングを起こして、聖利は來に語りかける。押さえつけられできた擦過傷には絆創膏が貼られているが、それ以外は無傷と言ってもいいくらいだ。
「おまえの匂いは、どこにいてもわかる」
ベッド横のパイプ椅子に腰かけ、來はぼそっと答えた。
「それに、ちょうど部屋に戻った時間だったから」
「高坂寮長に聞いたぞ。おまえ、寮役員に入るんだろう? 寮長付きで。これからは学校脱出なんて周りに示しがつかなくなるからな」
「……だから、その件も含めて話してきたんだよ」
意味がわからず、聖利は首をかしげる。すると、來は視線をそらして嘆息した。観念したように言う。
「山を降りたとこにカフェバーがあんだよ。そこでバイトしてんだ」
「はぁ? 來がバイト!?」
原則、修豊真船はバイト禁止だ。というより、全寮制なのでバイトできる環境にない。そして、大企業の御曹司がなぜバイトなどしていたというのだろうか。
驚く聖利に、來が不機嫌そうに答える。
「中等部のときは、面白くねえから学校出てうろついてたんだけど、そのカフェバーのオーナーに拾ってもらって。金貯めたいって思うようになったから、中三からこっそり働かせてもらってた」
バイトとは予想外だ。なるほど、平日の夜はもちろん、土日も部屋にいないわけだ。
「金貯めるっていう目標は急がなくてもよくなったし、高坂寮長たちがうるせーから寮役員もやってやる。カフェバーのオーナーにバイトを土日だけにしたいって言ってきたんだよ。まあ、元からガキ扱いされててたいした戦力とも思われてねぇから、ふたつ返事でOKされたけど」
「ねえ、來。なんでお金を貯めようと思ったんだ? おまえの家柄なら不自由しないだろ?」
來はしばらく黙っていたが、やがて小さな声が返ってきた。
「親元を出なきゃならない日がくるかもしれないから、自活できるように。……俺がずっと好きだったヤツは、……親には反対される相手で。そいつは俺のこと好きじゃないかもしれないけど、もし……こっちを見てくれるなら……準備だけでもって」
來が頬を赤らめ唇を噛みしめるのが見えた。それが誰だか、今ならもうわかる。聖利は涙をこらえ、言った。
「僕にも好きな人がいる。中等部一年からずっと好きだった。僕の身体は彼のためにオメガになったらしい。彼の近くで過ごす毎日が、オメガに転化するトリガーだった。そう、医師に言われたよ」
來が顔をあげた。これで伝わってしまうだろう。それでいい。來にこの気持ちを伝えたい。
「僕は傲慢にも選んだんだ。番にしたいたったひとりのアルファを。抑制剤じゃ消せない香りで彼を誘惑し、彼を手に入れるために」
「聖利……おまえ」
「僕はおまえだけのオメガなんだ、來」
來は何か言おうとしたようだった。しかし、唇が空振りする。そして次の瞬間、來の力強い腕が聖利の身体を抱き寄せた。
「好きだ、聖利。ずっと、ずっとおまえだけが好きだった。アルファもオメガも関係なく、おまえだけが」
「僕も來が好き。大好きだよ。強くて美しいおまえに、どうしようもなく惹かれてた」
互いの身体を惹き寄せ合い、きつくしがみつき、思いのたけをぶつけ合う。やっと言えた。叶えるはずではなかった恋は、絶対に手放せない想いになっていた。來との未来を望みたい。選び取りたい。
「おまえのためにオメガになったんだ。重たい男だろう?」
聖利は涙の滲んだ瞳を細めて笑う。
「ずっと一緒にいてくれるか? 來」
「当たり前だ。おまえは俺が幸せにする。死ぬまで俺の傍にいろ」
重ねた唇は、どんな蜜より甘い。待ちわびた最愛の熱に心も身体もとろけていく。
このまま身体を重ねてしまいたい衝動を、ふたりは必死に抑えなければならなかった。
やがて梶医師が様子を窺いにきたタイミングで、來は名残惜しそうに帰っていった。
「お邪魔しちゃったかな?」
梶は相変わらず楽しそうな声で尋ねる。聖利は熱くなる頬に触れながら、「いえ」と短く応えた。幸福でどうにかなりそうな朝だった。
かかりつけとなっているバース性科のある病院に入り、検査をひと通り終えると明け方である。
ふたりはあてがわれた個室でようやくひと息ついた。聖利は経過観察で明日まで入院となり、その間に警察の事情聴取も入るそうだ。
「よくわかったな。五階の部屋にいたんだろ?」
ベッドのリクライニングを起こして、聖利は來に語りかける。押さえつけられできた擦過傷には絆創膏が貼られているが、それ以外は無傷と言ってもいいくらいだ。
「おまえの匂いは、どこにいてもわかる」
ベッド横のパイプ椅子に腰かけ、來はぼそっと答えた。
「それに、ちょうど部屋に戻った時間だったから」
「高坂寮長に聞いたぞ。おまえ、寮役員に入るんだろう? 寮長付きで。これからは学校脱出なんて周りに示しがつかなくなるからな」
「……だから、その件も含めて話してきたんだよ」
意味がわからず、聖利は首をかしげる。すると、來は視線をそらして嘆息した。観念したように言う。
「山を降りたとこにカフェバーがあんだよ。そこでバイトしてんだ」
「はぁ? 來がバイト!?」
原則、修豊真船はバイト禁止だ。というより、全寮制なのでバイトできる環境にない。そして、大企業の御曹司がなぜバイトなどしていたというのだろうか。
驚く聖利に、來が不機嫌そうに答える。
「中等部のときは、面白くねえから学校出てうろついてたんだけど、そのカフェバーのオーナーに拾ってもらって。金貯めたいって思うようになったから、中三からこっそり働かせてもらってた」
バイトとは予想外だ。なるほど、平日の夜はもちろん、土日も部屋にいないわけだ。
「金貯めるっていう目標は急がなくてもよくなったし、高坂寮長たちがうるせーから寮役員もやってやる。カフェバーのオーナーにバイトを土日だけにしたいって言ってきたんだよ。まあ、元からガキ扱いされててたいした戦力とも思われてねぇから、ふたつ返事でOKされたけど」
「ねえ、來。なんでお金を貯めようと思ったんだ? おまえの家柄なら不自由しないだろ?」
來はしばらく黙っていたが、やがて小さな声が返ってきた。
「親元を出なきゃならない日がくるかもしれないから、自活できるように。……俺がずっと好きだったヤツは、……親には反対される相手で。そいつは俺のこと好きじゃないかもしれないけど、もし……こっちを見てくれるなら……準備だけでもって」
來が頬を赤らめ唇を噛みしめるのが見えた。それが誰だか、今ならもうわかる。聖利は涙をこらえ、言った。
「僕にも好きな人がいる。中等部一年からずっと好きだった。僕の身体は彼のためにオメガになったらしい。彼の近くで過ごす毎日が、オメガに転化するトリガーだった。そう、医師に言われたよ」
來が顔をあげた。これで伝わってしまうだろう。それでいい。來にこの気持ちを伝えたい。
「僕は傲慢にも選んだんだ。番にしたいたったひとりのアルファを。抑制剤じゃ消せない香りで彼を誘惑し、彼を手に入れるために」
「聖利……おまえ」
「僕はおまえだけのオメガなんだ、來」
來は何か言おうとしたようだった。しかし、唇が空振りする。そして次の瞬間、來の力強い腕が聖利の身体を抱き寄せた。
「好きだ、聖利。ずっと、ずっとおまえだけが好きだった。アルファもオメガも関係なく、おまえだけが」
「僕も來が好き。大好きだよ。強くて美しいおまえに、どうしようもなく惹かれてた」
互いの身体を惹き寄せ合い、きつくしがみつき、思いのたけをぶつけ合う。やっと言えた。叶えるはずではなかった恋は、絶対に手放せない想いになっていた。來との未来を望みたい。選び取りたい。
「おまえのためにオメガになったんだ。重たい男だろう?」
聖利は涙の滲んだ瞳を細めて笑う。
「ずっと一緒にいてくれるか? 來」
「当たり前だ。おまえは俺が幸せにする。死ぬまで俺の傍にいろ」
重ねた唇は、どんな蜜より甘い。待ちわびた最愛の熱に心も身体もとろけていく。
このまま身体を重ねてしまいたい衝動を、ふたりは必死に抑えなければならなかった。
やがて梶医師が様子を窺いにきたタイミングで、來は名残惜しそうに帰っていった。
「お邪魔しちゃったかな?」
梶は相変わらず楽しそうな声で尋ねる。聖利は熱くなる頬に触れながら、「いえ」と短く応えた。幸福でどうにかなりそうな朝だった。
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