転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる

さち喜

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番外編

僕たちの蜜月④

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 ふたりで両手いっぱいの荷物を下げて、マンションに帰宅した。熱い真夏に外を歩きまわり、全身汗びっしょりだ。

「來、僕の甘い匂い強くなってない?」

 荷物をしまいながら、聖利は尋ねる。予定的には今日からヒートのはずだ。しかし、聖利の身体に変調はない。
 汗をたくさんかいたし、フェロモンの匂いが出やすくなっていては困る。來に確認を頼もうと近づいてうなじを差し出すと、來が戯れにかぶっと噛みついた。

「いたっ」
「しょっぱい」
「当たり前だ!」

 怒る聖利に、來が笑って答える。

「正直に言えば、おまえの匂い、二日前くらいから徐々に強くなっていってる。でも、寮長や生徒会長みたいなアルファも気づいてないみたいだった。たぶんわかるのは俺だけだな」
「え、そうだったのか?」
「一応、この同棲はそのへんのレポートも必要なんだろ? 俺、真面目だから、観察してんだよ」

 うそぶく來に、聖利はひとり焦ってしまった。自分にはわからなくとも、來にはわかるのだ。

「僕自身は、ヒートがきてる感覚ないんだ」
「それでいーんじゃねーの? だって転化オメガは、抑制剤が効きやすくて無症状って言われてんだろ? 教科書通りじゃん」
「なんか逆に心配だよ。ヒートが来なくて、このまま中途半端なオメガで固定されちゃうのかって」

 どうせなら完全なオメガになりたい。そうすることで、來との未来を望みやすくなる。
 來が笑って、今度は唇にキスをくれる。

「そういうことなら安心しろ。おまえの中でヒートは起こってる。未来の番の俺にはわかる」
「來……」

 來の腕がするりと腰に巻きつく。そのまま引き寄せられ、キスが深くなる。
 ちゅぷちゅぷと音をたて、唇を味わうと、芯がじんと熱くなった。

「だ、駄目だ。まだ……」
「このままふたりでシャワー浴びて、する?」

 髪をかき分けられ頬を両手で包まれた。間近く見つめ合えば、來もまた欲情し始めているのがわかる。だからこそ、聖利はなけなしの理性で精一杯來の身体を押し返した。

「そういうのは夜だ!」
「ちぇ、せっかくふたりきりで昼夜問わずやり放題だと思ったのに」

 確かに寮と学生生活では、どうしても夜に忍ぶようにしか愛し合えない。狭くて同じベッドで寝ることもできないし、時間には限りがある。
 しかし、いざそんな環境が手に入ったからといって、獣のように求めあってはまずいような気がするのだ。互いの身体に溺れきって戻れなくなりそう。それほどに來とのセックスは幸福で心地良い。

「わかった。夜まで我慢する」

 來はふうと息をつき、紳士的に諦めてくれたようだ。買いもの荷物の整理に戻るため、身体を離す。それから思いだしたように言った。

「あ、ここ壁は厚いぞ。声はどれだけ出してくれてもいい」
「え……っ!?」
「寮だと声我慢しなきゃだろ? いつも俺がキスで塞いでやるもんな。……今夜はたっぷり聞かせてくれ」
「ばか。來のばか」

 聖利は真っ赤な顔を隠して、背を向けキッチンへ入っていった。

 夕食は本当に來が作ってくれた。
 包丁も、調理器具の扱いも手慣れたもので、聖利が手出しをする余裕はない。チキンのグリルとサラダ、ミネストローネという夕食は、お店で出てきそうなほど綺麗な仕上がりだった。

「いただきます」
「ああ、食べてみてくれ」

 ひと口スープを飲み、美味しくて目を見開く聖利。その顔で、來は満足そうに微笑んだ。

「店のメニューくらいしかレパートリーないけど、聖利と暮らすようになったら、もっと色々覚えるよ。飯は俺の係な」

 ルームシェアしながら大学に行こうという夢は、來の中でまだ生きているらしい。いや、それはすでに聖利の夢でもある。
 しかし、食事に関して任せっきりなのも癪だ。

「なあ、聖利、感想は?」
「美味しい。美味しいよ。でも悔しい」
「何が?」
「格好よくて、優しくて、料理までできるなんて、來ずるい」
「あと、セックスも上手くて?」
「からかうなよ。僕も絶対料理できるようになるからな」

 ムキになってしまう聖利に、來がテーブルの反対側から手を伸ばしてくる。頭をポンポンとあやすように叩かれた。

「いーじゃん。俺からしたら、聖利の方が格好いいんだよ。学年一の頭脳、世界一の美貌、逆境にも負けない不屈の精神と忍耐力」

 どうもからかっている口調じゃない。声も瞳の色も真摯だ。

「俺の恋人は誰よりも格好いい。俺はそんな聖利に相応しくなりたくて中学からずっとおまえを追いかけてるんだから。張り合ってくれたら嬉しいけど、これはおまえに任せるって頼ってくれたらもっと嬉しい」

 語尾が甘い。そんなふうに想ってくれていたという事実に胸が疼き、聖利はおずおずと頷いた。

「それじゃ、來に任せる。でも、僕も手伝えるようになりたいから、料理教えて」
「ん、オッケ。一緒にメシ作るのもいいな」

 來の作ってくれた食事はとても美味しい。だけど、気もそぞろになってしまうのは自分だけではないだろう。
 抱き合いたい。きっと、來もそう思ってる。
 時間が経つほどに、空気の密度があがっていくように感じる。むせかえるような欲望が、じりじりと自分と來を染めていく。
 不思議な感覚だ。追い詰められるような、急くような。それでいて、とろりとゆるやかな時間の流れに身を任せていたいような。
 軽い会話をしながら、たまに視線を合わせて食事をする。まるで前戯みたいに官能的な夕食だった。

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