旅の紀行記怪談

Eisei 5

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第3章 紀行記怪談『姫路城・山鳥毛の太刀』

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 これは、兵庫県の姫路城を訪れた時のお話です。
 先に、岡山県の備前長船刀剣博物館を訪れた話を書いてあります。
 少し前の、お盆の時期のことでした。



 備前長船刀剣博物館の駐車場に車を停める。予約した入館時間には、まだ少し間があった。

 長船ふれあい物産館では、さまざまな日本刀関連のグッズが売られ、隣のイベントコーナーでは、『刀剣乱舞』とのコラボ企画も実施されていた。
 物産館を抜け中庭に入る。隣接する備前おさふね刀剣の里には、日本刀作成の7つの工程を演示する建物が並んでいた。
 刀鍛冶かたなかじ研師とぎし白銀師しろがねし金工師きんこうし鞘師さやし柄巻師つかまきし、そして塗師ぬしの各ブース。ガラス窓の向こうで、職人さんたちが、黙々と作業を続けている。

 博物館の建物へと入る。
 一階、そして二階へと、刀剣が展示された部屋を回る。照明の光に、鋭利な光を鈍く放つ、数多の日本刀が並ぶ。
 研ぎ澄まされたはがねの地肌に、白く様々な刃文が浮かんで見える。それらの刃文は、目線の位置を上下に変えるたび、その姿をおぼろげに変えた。


 錚々そうそうたる刀剣が居並ぶ二階の展示室の中央で、ガラスケースの真ん中に収まり、それは展示されていた。

 国宝『太刀 無名一文字たち むめいいちもんじ山鳥毛やまどりげ)』
 備前福岡一文字派 最盛期の最高傑作と称される、鎌倉時代中期に打たれた太刀。

 令和2年、瀬戸内市の所有となり、備前長船刀剣博物館で展示公開がされていた。当時の取得価格は、5億円とされる。戦国時代の名将「上杉謙信・景勝」の愛刀として有名な太刀でもあった。

 丁度、感染症対策の入場制限展示の中、展示ブースを見る時間はたっぷりとあった。
  
 ガラスケースを覗き込む。
 山鳥の毛のような刃文が、刀身に焼きも高く、白く浮かび上がっている。
 刀身の刃先に沿って目線を動かしていくと、ハバキ元に大きな刃こぼれがあるのが見てとれる。解説では、誉傷ほまれきずと言われ、昔、実戦で使用されたことのあかしだそう。
 国宝になるほどの太刀で打ち合うとは、今ではとても考えられない事なのだろうが、それだけこの太刀が、武器としての信頼も大きかったのか。命を託すに足るほどの。
 その激しく華麗な重花丁子乱れじゅうかちょうじみだれに焼かれた、乱れ刃の華やかな刃文がかもす霊験の力だけではなく。
 それは時代の価値観の違いなのか、それとも単なる偶発的な事故ゆえの出来事だったのか…。今となっては知りえない事ではあったが、歴史のロマンを感じさせてくれる ” 誉傷 ほまれ” でもあった。

 鎌倉中期に、ここ備前福岡の地で打たれ、歴史を彩るどれほどのそうそうたる武将たちがこの太刀を手にし、幾重もの歴史をつむいできたのだろう。そして幾人の武将たちが、夜陰のともしびにこの太刀をかざし、その姿をでて来たのか。
 改めて、里帰りを果たしたこの太刀の、内に秘める歴史の重さを感じた一瞬じかんだった。



 ( 展示される 『国宝 山鳥毛』 )


◇◆◇◆◇…


 「いちま~ぃ、 にま~ぃ、 さんま~ぃ、 よん … 」

 毎夜、お菊の井戸の前で、お菊さんは家宝の皿の数をかぞえる。
 「いちま~ぃ、 にま~ぃ、  … じゅうま~ぃ。  … じゅういちま~ぃ⁉」

 だがいつも、お皿の数はなぜか一枚

 「…また今夜も、一枚多い …… 」
 
 「うらめし、ゃ~ 」
 お菊さんは遠いまなざしを周囲に向けると、寂しそうにそう小さくつぶやく。
 やがてお菊さんの姿は闇と同化し、夜闇の中に溶け込むように消えていく。


◇◆◇◆◇…
 

 姫路市のビジネスホテルに宿泊した翌朝、私はホテルの契約コインパーキングから車を出した。
 いつものように右から車が来ていないことを確認し、駐車場から道路へと左折した。
 
 「      」

 四車線の道路を走る全ての車が、私に向け走り迫ってくる。
 眼前に迫る車が私に向け、鋭くパッシングの光を放つ。

 「 ‼ 、 ⁉ ⁉ ⁉ 」

 私は咄嗟とっさに、無意識に左にハンドルを切ると、脇道へと車を滑り込ませた。
 瞬時に、車の車列が私の後ろを猛スピードで走り去っていく。

 片道二車線道路だと思い込んでいた道は、四車線の一方通行路だった。
 「危な…。こんな立派な一通、初めて見たわ…」
 前日のもう遅い夕方、駐車場の位置を案内するナビに気を取られていた私は、その通りが片側二車線の交互通行路だと勝手に思い込んでいた。だから朝、こうしてをしでかしていたのだった。
 「姫路城の周り、何か一方通行多くない?」
 それが、素直な感想だった。


 世界遺産『姫路城ひめじじょう』。
 大手門から城を正面に見ながら、三の丸の広い芝生広場を横切る。
 菱の門をくぐると、右手に、三国堀と高い石垣、そして白壁の向こうに大天守が、小天守を従え聳え立っている。そこは、絶好の撮影ポイントだった。

 西の丸、二の丸を経て、大天守へ。
 大天守を上る急な階段は、無言で上へと続いている。
 途中三階では、城を支える二本の大柱(東・西大柱)が向き合い、デンと、見事に聳え立っていた。

 大天守最上階には小さいお社があって、姫路城の守り神『刑部神社おさかべじんじゃ』が祀られている。
 最上階の金網が張られた四方の窓からは、姫路市街を一望にすることができた。
 


 姫路城は、心霊スポットとしても有名だった。確か。
 そしてその歴史と、城が纏う優美さ故か、怪異の伝説も多く伝わる。

 私が子供の頃の心霊ブームの中でも、その優雅に積まれたどこかの石垣を背景に写真を撮ると、霊が写り込むとか…。


 有名な『お菊井戸』。ありました。二の丸の高い石垣の前に、石柱で囲まれて。
 辺りは真夏の青空の下、周囲をあっけらかんとした明るさが包んでいた。
 
 「はちま~ぃ、 きゅうま~ぃ。  … 」
 「 … 一枚足りない … 」でしたね。
 有名な、番町皿屋敷の怪談。お菊井戸としては、どうやらこちらが本家のよう。
 網で囲まれた井戸の底を、大勢の若い女性の観光客たちが覗き込んでいた。
 井戸の底はとても暗く、暗くて何も見えはしなかったのだが…。

 多分、この井戸の周りも、真夜中の黄泉よみの時間は世界くうきが変わるのだろう。すぐ手前には、多くの侍たちが切腹した腹切丸もあったから。
 毎夜、この井戸の前で、お菊さんは皿の数をかぞえ泣いているのか。

 「 ぅえ~ん … ぅえ~ …… 」
 静まり返った夜闇の中、聞こえて来るお菊さんのすすり泣く嗚咽おえつの泣き声…。

 うら若き女性の、すすり泣く嗚咽の声。私もかつて、別の所で聞いたことがあったのだが、それはもう身の毛がよだつ経験だった。いまだ思い出すだけで鳥肌が浮き立ち、身体がぶるっとするほどの。
 城の奥深くにあるこの場所も、深夜は誰もが入れる場所ではないのだろう。が、もしその嗚咽の声を聞いてしまったとしたら … その時は……。


 姫路城は、完成直後から傾き出し、歴代の城主らが対応に追われて来たとも言われる。
 築城時の土台の基礎固めに原因があったようで、明治期の改修を経て、昭和の大改修でやっと倒壊の恐れも無くなったとのこと。
 そして、城の建築を担った棟梁とうりょうは、その責任感から城の上から身投げをして亡くなったとも。
 
 他にも、うばが石や、宮本武蔵の天守閣に巣くう妖怪退治の物語りとか、姫路城に纏わる伝説には事を欠かない。
 中でも、大天守最上階に祀られる『刑部姫おさかべひめ』は、代々の城主が怖れた怪異としての存在だったようである。

 
 姫路城が、今にその壮厳な姿を残していること自体が、本当に数々の偶然の積み重なりによるとも聞く。

 だから、やはり姫路城には、これまでの歴史の中で積み重ねた風雪の数だけの怪異もまた、城の守り神としてかげの中に棲み付いているのかもしれない。



 ( 三国堀からの天守連 )

 (了)


 お読み頂き、ありがとうございました。

 姫路城。現存12天守の一つにして、世界遺産。高く聳え立つ白亜の立派なお城でした。
 また訪ねたいと思います。

 山鳥毛は、さすが国宝のお刀でした。感染症蔓延の最中でしたが、逆にじっくりと間近で鑑賞できたのは幸いでした。
 刀剣博物館も、刀剣の展示は素晴らしいものでした。
 日本刀好きの私としては、大満足です。
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