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第2話:森の中の仮住まいと小さな希望
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夜明けの光が木々の隙間からまだらに差し込み、アキオはゆっくりと目を開けた。燃え残った焚き火が、白い灰の中でわずかに赤い熾きを覗かせている。その傍らでは、5人の子供たちが互いの存在を確かめるように身を寄せ合って眠っていた。一番年長のアヤネが小さなユメを無意識にかばうように腕を回し、アルトやケンタもアヤネの近くに、ミコはその間に挟まれるようにして、小さな寝息を立てている。その姿に、アキオは喉の奥が詰まるような思いと、腹の底から湧き上がるような強い決意を新たにした。
(何としても、こいつらが安心して眠れる場所を確保しねえと……)
子供たちが一人、また一人と目を覚まし始めると、アキオは昨夜分け与えたカロリーバーの残りを公平に分け、水筒の水を少しずつ飲ませた。それから、アヤネと、比較的落ち着いて見えるアルトに、これまでの経緯や周囲の状況について、できるだけ詳しく尋ねることにした。
「わたしたちの村は……ティリア村って言うんですけど、確か三日くらい前に、突然……武装した人たちが……」
アヤネが俯き、言葉を詰まらせながら話し出す。隣でアルトが引き継いだ。
「見たことない紋章の鎧を着てました。村の大人たちが応戦してる間に、教会の裏手から神父様が僕たち何人かを森へ逃がしてくれて……でも、すぐに道が分からなくなって、みんなとはぐれてしまって……」
彼らは数日間、森の中を当てもなく彷徨い、ろくなものを口にしていなかったらしい。親の安否も、他の村人の消息も分からない。その事実に、アキオはただ黙って頷くことしかできなかったが、今は彼らの不安を少しでも取り除くことが先決だった。
「そうか……大変だったな。よし、まずは食い物探しと、今日の雨風をしのげる場所を見つけるぞ」
アキオが努めて明るい声で言うと、子供たちの顔にわずかながら生気が戻ったように見えた。
ケンタが早速「僕、木の実とか探してくる!」と元気に駆けだそうとするのを、アキオは「待て待て、毒があるかもしれんから、見つけたら必ず俺に見せてからだぞ」と優しく制した。アキオ自身、若い頃に趣味でよく山菜採りやキノコ狩りに出かけていたため、多少の知識はある。この世界の植物が地球と同じとは限らないが、警戒するに越したことはない。
幸い、アキオの知る食用のベリーに似た赤い実や、アク抜きすれば食べられそうな太い根を持つ植物をいくつか見つけることができた。ケンタも得意げに数種類のキノコを持ってきたが、そのうちの一つはアキオの知る限り猛毒のドクツルタケに酷似していたため、「これは危ないから、元の場所に返しておこうな」と諭し、他のものも慎重に選別した。
食料の目処がほんの少しついたところで、次は寝床探しだ。アキオは、周囲を見渡し、少し小高くなった場所にある大きな岩陰を見つけた。背後は切り立った岩壁で、風上側には大きな樫の木が天然の盾のように生えている。ここなら風雨も多少はしのげるし、獣からも発見されにくいだろう。
「よし、今日はここに簡単な寝床を作るぞ!」
アキオはそう宣言し、昨日獣を追い払った木の枝や、周囲に落ちている比較的まっすぐで丈夫そうな枯れ枝、そしてしなやかな蔓を集め始めた。彼の頭の中には、昔、子供の頃に秘密基地を作った時の記憶や、現場で培った簡易的な小屋掛けの知識が浮かんでいる。
「アヤネとアルトは太めの枝を、ケンタは丈夫そうな蔓を集めてきてくれ。ミコとユメは、床に敷けそうな乾いた落ち葉や枯れ草を頼む」
指示を出すと、子供たちは最初こそ戸惑っていたが、アキオがテキパキと枝を選別し、石斧代わりに手頃な平たい石で枝の端を整え始めるのを見て、少しずつ動き始めた。アキオは石を振るう際、無意識に「しっかり仕事してくれよ」と道具に語りかけるように力を込める。すると、いつもより石のエッジが長持ちするような、木の繊維が素直に断ち切れるような、そんな気がした。「……今日はやけに体の調子がいいな」アキオは小さく首を傾げた。
子供たちも、最初は恐る恐るだったが、アキオの真剣な眼差しと時折見せる優しい笑顔に励まされ、一生懸命に手伝った。アヤネとアルトはアキオが指示する太さの枝を運び、ケンタは面白がって蔓を体に巻き付けながら持ってくる。ミコとユメは、競うようにして色とりどりの落ち葉や柔らかそうな苔を集めてきた。
「アキオさん、この苔、ふわふわだよ!」
ミコが、まるでビロードのような手触りの鮮やかな緑色の苔を差し出す。
「おお、それはいいな。床に敷いたら気持ちよさそうだ」
アキオが褒めると、ミコとユメは顔を見合わせてはにかみ、また苔を探しに駆け出した。
夕暮れが迫る頃、ようやく骨組みに木の皮や大きな葉を重ね、蔓で縛り上げた、人が数人横になれる程度の簡素なシェルターが完成した。壁と呼べるほどのものはないが、少なくとも夜露や多少の雨風はしのげるだろう。ミコとユメが集めてきた苔や枯れ葉を厚めに敷き詰めると、思いのほか快適な空間になった。
「わぁ……おうちみたい……」
ユメが小さな声で呟き、ミコもこくりと満足げに頷く。その顔には、森に来てから初めて見るような、心からの安堵の色が浮かんでいた。
その夜、シェルターの中で小さな焚き火を囲み、焼いた木の実や根菜を分け合って食べた。量は決して多くはなかったが、自分たちで作った場所で食べる温かい食事は、子供たちの心を確実に解きほぐしていったようだった。
やがて一人、また一人と眠りにつく子供たちの寝顔を見守りながら、アキオは燃える火を見つめて静かに思った。
(まずは、当面の安全と寝床は確保できた。だが、これじゃ冬はもちろん、長雨だって越せやしない。もっとちゃんとした家が必要だ。そのためには、しっかりした道具も、材料も……ああ、やることは山積みだな)
それでも、子供たちの穏やかな寝息と、シェルターの壁越しに聞こえる森の静かな夜の音は、アキオの心に不思議なほどの温もりと、明日への活力を与えてくれるのだった。
(何としても、こいつらが安心して眠れる場所を確保しねえと……)
子供たちが一人、また一人と目を覚まし始めると、アキオは昨夜分け与えたカロリーバーの残りを公平に分け、水筒の水を少しずつ飲ませた。それから、アヤネと、比較的落ち着いて見えるアルトに、これまでの経緯や周囲の状況について、できるだけ詳しく尋ねることにした。
「わたしたちの村は……ティリア村って言うんですけど、確か三日くらい前に、突然……武装した人たちが……」
アヤネが俯き、言葉を詰まらせながら話し出す。隣でアルトが引き継いだ。
「見たことない紋章の鎧を着てました。村の大人たちが応戦してる間に、教会の裏手から神父様が僕たち何人かを森へ逃がしてくれて……でも、すぐに道が分からなくなって、みんなとはぐれてしまって……」
彼らは数日間、森の中を当てもなく彷徨い、ろくなものを口にしていなかったらしい。親の安否も、他の村人の消息も分からない。その事実に、アキオはただ黙って頷くことしかできなかったが、今は彼らの不安を少しでも取り除くことが先決だった。
「そうか……大変だったな。よし、まずは食い物探しと、今日の雨風をしのげる場所を見つけるぞ」
アキオが努めて明るい声で言うと、子供たちの顔にわずかながら生気が戻ったように見えた。
ケンタが早速「僕、木の実とか探してくる!」と元気に駆けだそうとするのを、アキオは「待て待て、毒があるかもしれんから、見つけたら必ず俺に見せてからだぞ」と優しく制した。アキオ自身、若い頃に趣味でよく山菜採りやキノコ狩りに出かけていたため、多少の知識はある。この世界の植物が地球と同じとは限らないが、警戒するに越したことはない。
幸い、アキオの知る食用のベリーに似た赤い実や、アク抜きすれば食べられそうな太い根を持つ植物をいくつか見つけることができた。ケンタも得意げに数種類のキノコを持ってきたが、そのうちの一つはアキオの知る限り猛毒のドクツルタケに酷似していたため、「これは危ないから、元の場所に返しておこうな」と諭し、他のものも慎重に選別した。
食料の目処がほんの少しついたところで、次は寝床探しだ。アキオは、周囲を見渡し、少し小高くなった場所にある大きな岩陰を見つけた。背後は切り立った岩壁で、風上側には大きな樫の木が天然の盾のように生えている。ここなら風雨も多少はしのげるし、獣からも発見されにくいだろう。
「よし、今日はここに簡単な寝床を作るぞ!」
アキオはそう宣言し、昨日獣を追い払った木の枝や、周囲に落ちている比較的まっすぐで丈夫そうな枯れ枝、そしてしなやかな蔓を集め始めた。彼の頭の中には、昔、子供の頃に秘密基地を作った時の記憶や、現場で培った簡易的な小屋掛けの知識が浮かんでいる。
「アヤネとアルトは太めの枝を、ケンタは丈夫そうな蔓を集めてきてくれ。ミコとユメは、床に敷けそうな乾いた落ち葉や枯れ草を頼む」
指示を出すと、子供たちは最初こそ戸惑っていたが、アキオがテキパキと枝を選別し、石斧代わりに手頃な平たい石で枝の端を整え始めるのを見て、少しずつ動き始めた。アキオは石を振るう際、無意識に「しっかり仕事してくれよ」と道具に語りかけるように力を込める。すると、いつもより石のエッジが長持ちするような、木の繊維が素直に断ち切れるような、そんな気がした。「……今日はやけに体の調子がいいな」アキオは小さく首を傾げた。
子供たちも、最初は恐る恐るだったが、アキオの真剣な眼差しと時折見せる優しい笑顔に励まされ、一生懸命に手伝った。アヤネとアルトはアキオが指示する太さの枝を運び、ケンタは面白がって蔓を体に巻き付けながら持ってくる。ミコとユメは、競うようにして色とりどりの落ち葉や柔らかそうな苔を集めてきた。
「アキオさん、この苔、ふわふわだよ!」
ミコが、まるでビロードのような手触りの鮮やかな緑色の苔を差し出す。
「おお、それはいいな。床に敷いたら気持ちよさそうだ」
アキオが褒めると、ミコとユメは顔を見合わせてはにかみ、また苔を探しに駆け出した。
夕暮れが迫る頃、ようやく骨組みに木の皮や大きな葉を重ね、蔓で縛り上げた、人が数人横になれる程度の簡素なシェルターが完成した。壁と呼べるほどのものはないが、少なくとも夜露や多少の雨風はしのげるだろう。ミコとユメが集めてきた苔や枯れ葉を厚めに敷き詰めると、思いのほか快適な空間になった。
「わぁ……おうちみたい……」
ユメが小さな声で呟き、ミコもこくりと満足げに頷く。その顔には、森に来てから初めて見るような、心からの安堵の色が浮かんでいた。
その夜、シェルターの中で小さな焚き火を囲み、焼いた木の実や根菜を分け合って食べた。量は決して多くはなかったが、自分たちで作った場所で食べる温かい食事は、子供たちの心を確実に解きほぐしていったようだった。
やがて一人、また一人と眠りにつく子供たちの寝顔を見守りながら、アキオは燃える火を見つめて静かに思った。
(まずは、当面の安全と寝床は確保できた。だが、これじゃ冬はもちろん、長雨だって越せやしない。もっとちゃんとした家が必要だ。そのためには、しっかりした道具も、材料も……ああ、やることは山積みだな)
それでも、子供たちの穏やかな寝息と、シェルターの壁越しに聞こえる森の静かな夜の音は、アキオの心に不思議なほどの温もりと、明日への活力を与えてくれるのだった。
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