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第19話:赤土の煉瓦と鉄への眼差し
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初めての土器作りが成功し、アキオたちの小屋の食卓には、手作りの温かみのある皿や椀が日常的に並ぶようになった。木の器とは違う、ずっしりとした安定感と、熱いスープを入れても持ちやすい利便性は、ささやかながらも確かな生活の質の向上をもたらしていた。子供たちは、自分が作った器を自慢げに使い、食事の時間が一層楽しいものになっている。
「土器がこれだけ使えるとなると、次はあれだな……」 ある日、アキオは小屋の壁を眺めながら呟いた。その視線の先には、まだ木の皮や粘土で応急処置的に塞がれた隙間がいくつか残っている。 「レンガ、ですか?」 アキオの考えを察したように、アヤネが尋ねた。 「ああ。あの粘土なら、きっと丈夫なレンガが焼けるはずだ。レンガがあれば、この小屋の壁をもっとしっかり補強できるし、床も整備できる。それに、いずれはもっと大きな建物……例えば、ちゃんとした貯蔵庫や作業小屋も建てられるかもしれない」 アキオの言葉に、シルヴィアも静かに頷いた。「エルフの古い建造物にも、焼き固めた土のブロックが使われていたという記録がある。耐久性も高く、火にも強い。理に適った選択だろう」 その言葉は、アキオの計画に力強い後押しを与えてくれた。
レンガ作りは、土器作りよりも大規模な作業となった。まずは、アキオが木材を加工して、同じ大きさの直方体を作るための型枠をいくつも製作する。そして、子供たちも総出で、先日見つけた沢から大量の粘土を運び、水と混ぜてよく練り上げる。シルヴィアは、粘土に混ぜ込む砂や細かく砕いた枯れ草の割合について、「こうすることで、乾燥時のひび割れを防ぎ、焼いた時の強度も増す」と、エルフの古い知恵を授けてくれた。 型枠に粘土を詰めて成形し、それを一つ一つ丁寧に日陰で乾燥させる。単純な作業だが、数が多いため根気が必要だった。それでも、子供たちは自分たちの家がより頑丈になることを想像し、文句も言わずに手伝った。
数週間後、数百個の乾燥レンガが用意できた。アキオは、土器を焼いた場所をさらに拡張し、より多くのレンガを一度に焼けるように、即席の窯を改良した。薪も大量に必要となるため、アルトとケンタは毎日森へ薪拾いに出かけるのが日課となった。 そして、いよいよレンガ焼きの日。窯に火が入れられ、数日間にわたって赤々と燃え続けた。温度管理は土器以上に難しく、アキオとシルヴィアはほとんど寝ずの番で火の面倒を見た。
長い焼成時間が終わり、窯が冷えるのを待って、緊張の瞬間が訪れた。 中から取り出されたレンガは、土器と同じように煤で黒ずんでいるものや、多少の歪み、そして焼成中に割れてしまったものも少なくなかった。しかし、その中には、手に持つとずっしりと重く、叩くと硬質な音を立てる、見事な赤茶色のレンガが確かに数多く含まれていた。 「やったぞ! これなら使える!」 アキオが、形の良いレンガを一つ手に取り高々と掲げると、見守っていた子供たちから大きな歓声が上がった。シルヴィアも、そのレンガを手に取り、指で弾いて音を確かめると、「……悪くない。これならば、風雨にも十分に耐えるだろう」と、満足げな表情を浮かべた。
早速、完成したレンガを使って、小屋の床の一部をレンガ敷きにしてみた。土のままだった床に比べ、格段に歩きやすく、掃除もしやすい。雨の日の泥濘からも解放されるだろう。次に、風当たりの強い壁の一部をレンガで補強すると、小屋の中の保温性も目に見えて向上した。 「すごいよ、アキオさん! これで冬ももっと暖かくなるね!」 アヤネが嬉しそうに言う。自分たちの手で、住処がより快適に、より安全になっていく。その達成感は、何物にも代えがたい喜びだった。
レンガ作りの成功に大きな手応えを感じたアキオの視線は、自然と、小屋の隅に置かれた赤黒い石――鉄鉱石と思われる塊へと注がれていた。土器ができ、レンガができた。次は、この石から金属を取り出すこと。それは、これまでの作業とは比較にならないほど困難な挑戦になるだろう。 「この石から鉄(くろがね)を取り出すには、並大抵の火では無理だろうな。特別な炉と、大量の良質な炭、そして風を送り込む仕組みが必要になるはずだ」 シルヴィアが、アキオの考えを見透かしたように言う。彼女の言葉は、挑戦の厳しさを示唆していたが、その瞳には、アキオと共に新たな困難に立ち向かうことへの静かな闘志のようなものが宿っていた。 鉄器がもし使えるようになれば、農具も、刃物も、建築も、この世界の生活は文字通り劇的に変わるだろう。それはまだ遠い道のりの始まりに過ぎない。だが、アキオの心には、確かな希望の灯が、より一層強く燃え始めていた。
「土器がこれだけ使えるとなると、次はあれだな……」 ある日、アキオは小屋の壁を眺めながら呟いた。その視線の先には、まだ木の皮や粘土で応急処置的に塞がれた隙間がいくつか残っている。 「レンガ、ですか?」 アキオの考えを察したように、アヤネが尋ねた。 「ああ。あの粘土なら、きっと丈夫なレンガが焼けるはずだ。レンガがあれば、この小屋の壁をもっとしっかり補強できるし、床も整備できる。それに、いずれはもっと大きな建物……例えば、ちゃんとした貯蔵庫や作業小屋も建てられるかもしれない」 アキオの言葉に、シルヴィアも静かに頷いた。「エルフの古い建造物にも、焼き固めた土のブロックが使われていたという記録がある。耐久性も高く、火にも強い。理に適った選択だろう」 その言葉は、アキオの計画に力強い後押しを与えてくれた。
レンガ作りは、土器作りよりも大規模な作業となった。まずは、アキオが木材を加工して、同じ大きさの直方体を作るための型枠をいくつも製作する。そして、子供たちも総出で、先日見つけた沢から大量の粘土を運び、水と混ぜてよく練り上げる。シルヴィアは、粘土に混ぜ込む砂や細かく砕いた枯れ草の割合について、「こうすることで、乾燥時のひび割れを防ぎ、焼いた時の強度も増す」と、エルフの古い知恵を授けてくれた。 型枠に粘土を詰めて成形し、それを一つ一つ丁寧に日陰で乾燥させる。単純な作業だが、数が多いため根気が必要だった。それでも、子供たちは自分たちの家がより頑丈になることを想像し、文句も言わずに手伝った。
数週間後、数百個の乾燥レンガが用意できた。アキオは、土器を焼いた場所をさらに拡張し、より多くのレンガを一度に焼けるように、即席の窯を改良した。薪も大量に必要となるため、アルトとケンタは毎日森へ薪拾いに出かけるのが日課となった。 そして、いよいよレンガ焼きの日。窯に火が入れられ、数日間にわたって赤々と燃え続けた。温度管理は土器以上に難しく、アキオとシルヴィアはほとんど寝ずの番で火の面倒を見た。
長い焼成時間が終わり、窯が冷えるのを待って、緊張の瞬間が訪れた。 中から取り出されたレンガは、土器と同じように煤で黒ずんでいるものや、多少の歪み、そして焼成中に割れてしまったものも少なくなかった。しかし、その中には、手に持つとずっしりと重く、叩くと硬質な音を立てる、見事な赤茶色のレンガが確かに数多く含まれていた。 「やったぞ! これなら使える!」 アキオが、形の良いレンガを一つ手に取り高々と掲げると、見守っていた子供たちから大きな歓声が上がった。シルヴィアも、そのレンガを手に取り、指で弾いて音を確かめると、「……悪くない。これならば、風雨にも十分に耐えるだろう」と、満足げな表情を浮かべた。
早速、完成したレンガを使って、小屋の床の一部をレンガ敷きにしてみた。土のままだった床に比べ、格段に歩きやすく、掃除もしやすい。雨の日の泥濘からも解放されるだろう。次に、風当たりの強い壁の一部をレンガで補強すると、小屋の中の保温性も目に見えて向上した。 「すごいよ、アキオさん! これで冬ももっと暖かくなるね!」 アヤネが嬉しそうに言う。自分たちの手で、住処がより快適に、より安全になっていく。その達成感は、何物にも代えがたい喜びだった。
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