五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
19 / 387

第19話:赤土の煉瓦と鉄への眼差し

しおりを挟む
 初めての土器作りが成功し、アキオたちの小屋の食卓には、手作りの温かみのある皿や椀が日常的に並ぶようになった。木の器とは違う、ずっしりとした安定感と、熱いスープを入れても持ちやすい利便性は、ささやかながらも確かな生活の質の向上をもたらしていた。子供たちは、自分が作った器を自慢げに使い、食事の時間が一層楽しいものになっている。

「土器がこれだけ使えるとなると、次はあれだな……」 ある日、アキオは小屋の壁を眺めながら呟いた。その視線の先には、まだ木の皮や粘土で応急処置的に塞がれた隙間がいくつか残っている。 「レンガ、ですか?」 アキオの考えを察したように、アヤネが尋ねた。 「ああ。あの粘土なら、きっと丈夫なレンガが焼けるはずだ。レンガがあれば、この小屋の壁をもっとしっかり補強できるし、床も整備できる。それに、いずれはもっと大きな建物……例えば、ちゃんとした貯蔵庫や作業小屋も建てられるかもしれない」 アキオの言葉に、シルヴィアも静かに頷いた。「エルフの古い建造物にも、焼き固めた土のブロックが使われていたという記録がある。耐久性も高く、火にも強い。理に適った選択だろう」 その言葉は、アキオの計画に力強い後押しを与えてくれた。

 レンガ作りは、土器作りよりも大規模な作業となった。まずは、アキオが木材を加工して、同じ大きさの直方体を作るための型枠をいくつも製作する。そして、子供たちも総出で、先日見つけた沢から大量の粘土を運び、水と混ぜてよく練り上げる。シルヴィアは、粘土に混ぜ込む砂や細かく砕いた枯れ草の割合について、「こうすることで、乾燥時のひび割れを防ぎ、焼いた時の強度も増す」と、エルフの古い知恵を授けてくれた。 型枠に粘土を詰めて成形し、それを一つ一つ丁寧に日陰で乾燥させる。単純な作業だが、数が多いため根気が必要だった。それでも、子供たちは自分たちの家がより頑丈になることを想像し、文句も言わずに手伝った。

 数週間後、数百個の乾燥レンガが用意できた。アキオは、土器を焼いた場所をさらに拡張し、より多くのレンガを一度に焼けるように、即席の窯を改良した。薪も大量に必要となるため、アルトとケンタは毎日森へ薪拾いに出かけるのが日課となった。 そして、いよいよレンガ焼きの日。窯に火が入れられ、数日間にわたって赤々と燃え続けた。温度管理は土器以上に難しく、アキオとシルヴィアはほとんど寝ずの番で火の面倒を見た。

 長い焼成時間が終わり、窯が冷えるのを待って、緊張の瞬間が訪れた。 中から取り出されたレンガは、土器と同じように煤で黒ずんでいるものや、多少の歪み、そして焼成中に割れてしまったものも少なくなかった。しかし、その中には、手に持つとずっしりと重く、叩くと硬質な音を立てる、見事な赤茶色のレンガが確かに数多く含まれていた。 「やったぞ! これなら使える!」 アキオが、形の良いレンガを一つ手に取り高々と掲げると、見守っていた子供たちから大きな歓声が上がった。シルヴィアも、そのレンガを手に取り、指で弾いて音を確かめると、「……悪くない。これならば、風雨にも十分に耐えるだろう」と、満足げな表情を浮かべた。

 早速、完成したレンガを使って、小屋の床の一部をレンガ敷きにしてみた。土のままだった床に比べ、格段に歩きやすく、掃除もしやすい。雨の日の泥濘からも解放されるだろう。次に、風当たりの強い壁の一部をレンガで補強すると、小屋の中の保温性も目に見えて向上した。 「すごいよ、アキオさん! これで冬ももっと暖かくなるね!」 アヤネが嬉しそうに言う。自分たちの手で、住処がより快適に、より安全になっていく。その達成感は、何物にも代えがたい喜びだった。

 レンガ作りの成功に大きな手応えを感じたアキオの視線は、自然と、小屋の隅に置かれた赤黒い石――鉄鉱石と思われる塊へと注がれていた。土器ができ、レンガができた。次は、この石から金属を取り出すこと。それは、これまでの作業とは比較にならないほど困難な挑戦になるだろう。 「この石から鉄(くろがね)を取り出すには、並大抵の火では無理だろうな。特別な炉と、大量の良質な炭、そして風を送り込む仕組みが必要になるはずだ」 シルヴィアが、アキオの考えを見透かしたように言う。彼女の言葉は、挑戦の厳しさを示唆していたが、その瞳には、アキオと共に新たな困難に立ち向かうことへの静かな闘志のようなものが宿っていた。 鉄器がもし使えるようになれば、農具も、刃物も、建築も、この世界の生活は文字通り劇的に変わるだろう。それはまだ遠い道のりの始まりに過ぎない。だが、アキオの心には、確かな希望の灯が、より一層強く燃え始めていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...