20 / 387
第20話:森を駆ける木の車輪と新たな道
しおりを挟む
レンガ作りが一段落し、小屋の周りには赤茶色のレンгаが整然と積み上げられていた。それは彼らの努力の結晶であり、今後の生活を豊かにする礎となるはずだった。しかし、アキオの頭には新たな課題が浮かんでいた。これらのレンガを、あるいは大量の薪や粘土を、必要な場所まで効率よく運ぶ手段がないのだ。 「これだけの量を、毎日手で運ぶのは骨が折れるし、時間もかかりすぎる……」 アキオは腕を組み、積み上げられたレンガの山を見つめながら呟いた。その言葉に、シルヴィアも静かに頷く。 「確かに、人力だけでは限界があるな。森での暮らしは、常に効率との戦いだ」 「そこでだ」アキオは顔を上げ、家族を見回した。「荷物を楽に運ぶための『車』を作ろうと思うんだ。二つの車輪がついた、手で引くタイプの荷車だ」 アキオが地面に木の枝で簡単なリヤカーの絵を描いてみせると、子供たちは目を輝かせた。 「車!? 馬が引くやつみたいな?」ケンタが興奮気味に尋ねる。 「いや、もっと簡単なものだ。俺たちが手で引くんだが、それでも今の何倍も楽に、たくさんの荷物を運べるようになるはずだ」
リヤカー製作の最大の難関は、言うまでもなく「車輪」と「車軸」だった。鉄という便利な素材がないこの世界で、全てを木材で作らなければならない。強度、真円度、そして回転のスムーズさ。どれも高度な技術と適切な材料が求められる。 「車輪に適した木材か……」シルヴィアは少し考え込んだ後、ポンと手を打った。「エルフの古い伝承に、『月の木』と呼ばれるものがある。夜、月光を浴びて白銀に輝くと言われるほど硬く、そして不思議と円形に加工しやすい性質を持つという。この森のどこかにあるやもしれぬ」 さらに彼女は、「車軸の摩擦を減らすには、特定の樹木から採れる粘り気のある樹脂が有効だ。それは私も見分けがつく」と付け加えた。 「月の木と特別な樹脂か……! それがあれば、頑丈で滑らかな車輪が作れるかもしれないな!」アキオの顔がぱっと明るくなる。
数日後、アキオとシルヴィア、そして今回も同行を強く志願したアルトの三人は、「月の木」と樹脂を求めて、再び森の探索に出かけた。シルヴィアの古い記憶と、エルフならではの森の気配を読む力によって、彼らは数日間の探索の末、月光の下でほのかに白く輝くという、非常に硬質で木目の詰まった大木――「月の木」と思われる木と、粘性の高い透明な樹脂を分泌する植物を発見することができた。 持ち帰った「月の木」の太い幹を前に、アキオの職人魂が燃え上がった。斧で大まかな形を切り出し、鋸で慎重に輪切りにし、ノミと石のヤスリを駆使して、二つの頑丈な木製車輪を少しずつ、しかし確実に削り出していく。真円に近づけるため、アキオは即席の回転台を作り、車輪を回しながら丹念に形を整えた。その集中力と手際の良さは、シルヴィアやアルトをただただ感嘆させるばかりだった。 車軸も同様に硬い「月の木」から作り出し、車輪との接合部分を何度も調整する。そして、シルヴィアが集めてきた特別な樹脂を車軸と車輪の軸穴に丁寧に塗り込むと、驚くほど滑らかに車輪が回転するようになった。
車輪と車軸の目処がつくと、次は荷台部分の製作だ。これまでの木工技術の集大成ともいえる作業で、アキオは丈夫な底板と、荷物がこぼれ落ちないように三方を囲む板壁、そして引きやすいように角度をつけた一本の長い引き手を組み上げていく。子供たちも、やすりがけを手伝ったり、アキオが指示する木材を運んだりと、家族総出での作業となった。アヤネは、作業する男たちのために、冷たい湧き水と木の実のクッキーを差し入れ、皆の労をねぎらった。
そして数日後、ついにアキオたちにとって初めての「車両」である木製のリヤカーが完成した。二つの力強い車輪、頑丈な荷台、そして滑らかな引き手。それは、原始的ながらも、彼らの知恵と技術の結晶だった。 「できた……! とうとう完成だ!」 アキオが声を上げると、子供たちから大きな歓声が上がった。シルヴィアも、そのリヤカーを感慨深げに見つめ、「……見事な出来栄えだ、アキオ。これならば、森の道でも十分に役立つだろう」と称賛の言葉を惜しまなかった。 早速、試しに積み上げられていたレンガをいくつか荷台に乗せ、アキオが引き手を握ってゆっくりと引いてみる。最初は少しぎこちなかったが、車輪はきしみ音一つ立てずに滑らかに回転し、人力で一つ一つ運んでいた時とは比べ物にならないほど楽に、そして多くのレンガを一度に運ぶことができた。 「すごい! アキオさん、僕にも引かせて!」ケンタが目を輝かせ、アルトも興奮した面持ちでリヤカーの周りをうろちょろしている。ユメとミコは、空になったリヤカーにちょこんと乗り込み、「わーい、お舟みたい!」と大はしゃぎだ。
初めての「車両」であるリヤカーの完成は、アキオたちの生活に革命的な変化をもたらすだろう。粘土や薪、畑の収穫物の運搬効率は飛躍的に向上し、今後の建築作業や、もしかしたらより遠くへの探索にも大きな力を発揮するに違いない。 この成功は、アキオにさらなる自信と、未来への大きな希望を与えた。彼は、完成したリヤカーを頼もしげに眺めながら、次なる目標に静かに思いを馳せる。まずは、このリヤカーを使って、新しい竈や、アヤネがずっと欲しがっていたパン焼き窯の建設を始めようか。そしてその先には、あの赤黒い石への挑戦――製鉄という、さらに大きな夢が待っている。 夏の太陽が、森の木々の間から力強く降り注ぎ、彼らの新たな一歩を祝福しているかのようだった。
リヤカー製作の最大の難関は、言うまでもなく「車輪」と「車軸」だった。鉄という便利な素材がないこの世界で、全てを木材で作らなければならない。強度、真円度、そして回転のスムーズさ。どれも高度な技術と適切な材料が求められる。 「車輪に適した木材か……」シルヴィアは少し考え込んだ後、ポンと手を打った。「エルフの古い伝承に、『月の木』と呼ばれるものがある。夜、月光を浴びて白銀に輝くと言われるほど硬く、そして不思議と円形に加工しやすい性質を持つという。この森のどこかにあるやもしれぬ」 さらに彼女は、「車軸の摩擦を減らすには、特定の樹木から採れる粘り気のある樹脂が有効だ。それは私も見分けがつく」と付け加えた。 「月の木と特別な樹脂か……! それがあれば、頑丈で滑らかな車輪が作れるかもしれないな!」アキオの顔がぱっと明るくなる。
数日後、アキオとシルヴィア、そして今回も同行を強く志願したアルトの三人は、「月の木」と樹脂を求めて、再び森の探索に出かけた。シルヴィアの古い記憶と、エルフならではの森の気配を読む力によって、彼らは数日間の探索の末、月光の下でほのかに白く輝くという、非常に硬質で木目の詰まった大木――「月の木」と思われる木と、粘性の高い透明な樹脂を分泌する植物を発見することができた。 持ち帰った「月の木」の太い幹を前に、アキオの職人魂が燃え上がった。斧で大まかな形を切り出し、鋸で慎重に輪切りにし、ノミと石のヤスリを駆使して、二つの頑丈な木製車輪を少しずつ、しかし確実に削り出していく。真円に近づけるため、アキオは即席の回転台を作り、車輪を回しながら丹念に形を整えた。その集中力と手際の良さは、シルヴィアやアルトをただただ感嘆させるばかりだった。 車軸も同様に硬い「月の木」から作り出し、車輪との接合部分を何度も調整する。そして、シルヴィアが集めてきた特別な樹脂を車軸と車輪の軸穴に丁寧に塗り込むと、驚くほど滑らかに車輪が回転するようになった。
車輪と車軸の目処がつくと、次は荷台部分の製作だ。これまでの木工技術の集大成ともいえる作業で、アキオは丈夫な底板と、荷物がこぼれ落ちないように三方を囲む板壁、そして引きやすいように角度をつけた一本の長い引き手を組み上げていく。子供たちも、やすりがけを手伝ったり、アキオが指示する木材を運んだりと、家族総出での作業となった。アヤネは、作業する男たちのために、冷たい湧き水と木の実のクッキーを差し入れ、皆の労をねぎらった。
そして数日後、ついにアキオたちにとって初めての「車両」である木製のリヤカーが完成した。二つの力強い車輪、頑丈な荷台、そして滑らかな引き手。それは、原始的ながらも、彼らの知恵と技術の結晶だった。 「できた……! とうとう完成だ!」 アキオが声を上げると、子供たちから大きな歓声が上がった。シルヴィアも、そのリヤカーを感慨深げに見つめ、「……見事な出来栄えだ、アキオ。これならば、森の道でも十分に役立つだろう」と称賛の言葉を惜しまなかった。 早速、試しに積み上げられていたレンガをいくつか荷台に乗せ、アキオが引き手を握ってゆっくりと引いてみる。最初は少しぎこちなかったが、車輪はきしみ音一つ立てずに滑らかに回転し、人力で一つ一つ運んでいた時とは比べ物にならないほど楽に、そして多くのレンガを一度に運ぶことができた。 「すごい! アキオさん、僕にも引かせて!」ケンタが目を輝かせ、アルトも興奮した面持ちでリヤカーの周りをうろちょろしている。ユメとミコは、空になったリヤカーにちょこんと乗り込み、「わーい、お舟みたい!」と大はしゃぎだ。
初めての「車両」であるリヤカーの完成は、アキオたちの生活に革命的な変化をもたらすだろう。粘土や薪、畑の収穫物の運搬効率は飛躍的に向上し、今後の建築作業や、もしかしたらより遠くへの探索にも大きな力を発揮するに違いない。 この成功は、アキオにさらなる自信と、未来への大きな希望を与えた。彼は、完成したリヤカーを頼もしげに眺めながら、次なる目標に静かに思いを馳せる。まずは、このリヤカーを使って、新しい竈や、アヤネがずっと欲しがっていたパン焼き窯の建設を始めようか。そしてその先には、あの赤黒い石への挑戦――製鉄という、さらに大きな夢が待っている。 夏の太陽が、森の木々の間から力強く降り注ぎ、彼らの新たな一歩を祝福しているかのようだった。
392
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活
怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。
スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。
何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで
ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。
家族も、家も、居場所もない。
そんな俺を拾ってくれたのは、
優しいSランク冒険者のパーティだった。
「荷物持ちでもいい、仲間になれ」
その言葉を信じて、
俺は必死に、置いていかれないようについていった。
自分には何もできないと思っていた。
それでも、少しでも役に立ちたくて、
誰にも迷惑をかけないようにと、
夜な夜な一人でダンジョンに潜り、力を磨いた。
仲間を護れるなら…
そう思って使った支援魔法や探知魔法も、
気づかれないよう、そっと重ねていただけだった。
だけどある日、告げられた。
『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
それは、優しさからの判断だった。
俺も分かっていた。だから、何も言えなかった。
こうして俺は、静かにパーティを離れた。
これからは一人で、穏やかに生きていこう。
そう思っていたし、そのはずだった。
…だけど、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、
また少し、世界が騒がしくなってきたようです。
◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる