五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
116 / 387

第116話:男たちの誓い、それぞれの春

しおりを挟む
 アキオの妻たちが新たな覚醒を遂げ、アヤネの懐妊という大きな喜びにも包まれたアキオの町。季節は冬の深まりを見せ始めていたが、生命樹の恩恵か、あるいはアキオ自身の「生命の祝福」の力か、町全体が不思議な温もりと活力に満ちていた。そして、その活気を支えるのは、女たちだけではない。町の男たちもまた、それぞれの場所で、それぞれの想いを胸に、未来への礎を力強く築いていた。

 アキオは朝の見回りを兼ねて、アルトが指揮を執っている新しい共同浴場の拡張工事の様子を眺めていた。若いながらも的確な指示を飛ばし、職人たちと真剣に意見を交わすアルトの姿は、数年前の頼りなげな少年だった頃とは比べ物にならないほど頼もしい。
「アルト、順調そうだな」
「はい、アキオ様。皆の協力のおかげで、予定より早く進んでいます。貴族の方がいらっしゃるまでには、外観だけでも整えられそうです」
 アルトは額の汗を拭いながら、充実した表情で答えた。彼は最近、薬草師として忙しい日々を送るミコと、ささやかながらも二人だけの新しい家で暮らし始めていた。朝、ミコが用意してくれた薬湯を飲み、夜は彼女の淹れる薬草茶で一日の疲れを癒やす。そんな穏やかで満たされた生活が、アルトの仕事への情熱をさらに後押ししているようだった。アキオは、そんな二人の初々しい門出を、父親のような温かい目で見守っていた。

 そのアルトの傍らで、黙々と木材を運んでいたのはケンタだった。彼もまた、最近めっきり逞しくなり、力仕事では大人顔負けの働きを見せる。彼の視線の先には、時折、保育園の手伝いや薬草の仕分けをしているユメの姿があった。
 ケンタは、ユメが成人する日を指折り数えながら、二人の将来のために、自分に何ができるかを真剣に考えていた。最近では、仕事の合間を見つけては、アキオやアルトに家作りの基本を教わったり、ドルガンの工房で簡単な木工細工を習ったりしている。いつか、ユメのために、自分の手で温かい家庭を築きたい――その一途な想いが、彼の背中を力強く押していた。休憩時間に、ユメが差し入れてくれた水筒を受け取りながら、はにかむように視線を交わす二人の姿は、町に爽やかな風を運んでいる。

 一方、町の技術の心臓部であるドルガンの工房では、いつもと変わらぬ槌の音が響いていたが、そこに漂う空気は、どこか以前よりも温かく、そして柔らかいものに変わっていた。
 アキオが、貴族への献上品として考えている新しい合金の試作品について相談に訪れると、ドルガンはいつものようにぶっきらぼうな態度で応対したが、その傍らで甲斐甲斐しく働くヘルガの表情は、隠しきれないほどの幸福感に輝いていた。
「親方、最近なんだか機嫌が良いように見えるが、何か良いことでもあったのか?」
 アキオが冗談めかして尋ねると、ドルガンは大きな咳払いを一つし、そして、これ以上ないほど照れくさそうに、しかしその瞳には深い喜びを浮かべて、小さな声でアキオに打ち明けた。
「…アキオ殿だから言うが…その…ヘルガの腹に…わしの、子が出来たやもしれん…」
「なっ…! 親方、それは本当か!?」
 アキオの驚きの声に、ヘルガは顔を真っ赤にしながらも、幸せそうにこくりと頷いた。ドワーフの生態は詳しくないが、ドルガンの年齢を考えれば、まさに奇跡のような出来事だろう。だが、この生命力に満ちたアキオの町では、そんな奇跡もまた、日常の一コマなのかもしれない。アキオは、心の底から二人を祝福した。老いた鍛冶師に訪れた、遅すぎるほどの、しかし何物にも代えがたい「春」。その知らせは、アキオの心を温かいもので満たした。

 その日の夕刻。中央館の広間には、アキオ、アルト、ドルガン、そして町の主だった男性たちが集まっていた。数日後に迫った、近隣領主の来訪への最終的な打ち合わせのためだ。
「貴族の方がどのような意図で来られるにせよ、我々は我々のありのままの姿を見せ、誠意をもって応対する。それが基本だ」アキオの言葉に、皆が力強く頷く。
 アルトは町の案内役として、ドルガンは町の技術力を見せるための準備について、それぞれが意見を出し合う。元避難民のリーダー格だった男は、外部との交渉における注意点を語り、若い男たちは、町の警備や美化に一層力を入れることを誓った。
 そこには、立場の違いや年齢差を超えた、この「アキオの町」を愛し、守り、そしてさらに発展させていこうという、男たちの静かで、しかし確かな決意と結束があった。

 一日の終わりに、アキオは自室の窓から、静まり返った町並みを見下ろした。
 アルトとミコの新しい生活、ケンタのユメへの一途な想い、そしてドルガンとヘルガに訪れた奇跡。若い世代が力強く育ち、老いた者にも新たな喜びが生まれる。そんな当たり前のようで、しかし何よりも尊い日常が、この町には確かに息づいている。
(みんな、本当に頼もしくなった…この町は、きっと大丈夫だ)
 アキオは、胸に込み上げてくる温かいものを感じながら、数日後に訪れるであろう外部からの客人を、そしてこの町の輝かしい未来を、静かに、しかし確かな自信をもって見据えるのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...