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第140話:エルドリアの窮状と聖樹の秘薬、獣人の願い
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アキオの町が穏やかな日常を送る中、ある日、商人ヨハンが手配したという緊急の使者が、息を切らせて中央館に駆け込んできた。その顔には、疲労と焦りの色が濃く浮かんでいる。
「アキオ様! セレスティーナ様! ヨハン様からの緊急のご連絡です!」
使者は、アキオ、セレスティーナ、レオノーラ、そしてシルヴィアとアウロラが待つ部屋に通されると、一息つく間もなく報告を始めた。
「エルドリアの抵抗勢力『暁の鷲』は、帝国軍の撤退に伴い、確かに勢力を拡大し、民の支持も得ております! クリストフ王子もご無事であり、その指導力は素晴らしいものがございます! しかし…!」
そこまで一気に語ると、使者は苦渋の表情を浮かべた。
「しかし、長年の圧政と度重なる戦闘により、負傷者が後を絶たず…薬草はもとより、基本的な医療物資、そして何よりも負傷者を癒やすための『回復手段』が完全に枯渇しております! 多くの兵士や民が、助かるはずの命を落としかねない、切迫した状況にある、とヨハン様は…!」
その報告に、セレスティーナは顔面蒼白となり、レオノーラもまた唇を固く噛み締めた。故国の民が、勝利の目前で命を散らそうとしている。それは、二人にとって耐え難い苦痛だった。
「なんということだ…」アキオは呻くように言った。町の平和な日常とはあまりにもかけ離れた、厳しい現実。
すぐにアキオは、シルヴィアとアウロラを伴い、別室で緊急の話し合いを持った。
「シルヴィア、アウロラ、聞いた通りだ。エルドリアは危機的な状況にある。俺たちに何かできることはないだろうか」
シルヴィアは静かに頷いた。「私たちが持つ薬草の知識や、調合した薬だけでは、おそらく焼け石に水でしょう。ですが…アキオ様、生命樹の実ならば…」
アウロラもまた、真剣な眼差しでアキオを見つめた。「生命樹の実は、アキオの『生命の祝福』の力が加わることで、さらにその治癒力を増す。じゃが、実をそのまま送るだけでは、多くの者を救うには効率が悪いやもしれぬ」
三人は、短時間で集中的に話し合った。そして、アキオは一つの決断を下す。
「よし、生命樹の実を加工しよう。シルヴィア、ミコ、そしてアウロラの知恵も借りて、最も効果が高く、そして多くの人々に行き渡るような形…例えば、濃縮したエキスや、塗り薬、あるいは保存の利く丸薬のようなものにできないだろうか。ドルガン親方にも協力してもらって、特別な道具が必要なら作ってもらおう」
それは、アキオの町が持つ最大の秘薬とも言える生命樹の実を、外部の危機を救うために本格的に活用するという、大きな決断だった。
その決定を知ったセレスティーナとレオノーラは、アキオに深い感謝の言葉を述べると共に、改めて強い決意をその瞳に宿した。
「アキオ様…その秘薬を、どうか、わたくしたちにエルドリアへ届けさせてはいただけないでしょうか…!」セレスティーナが、震える声で懇願する。
レオノーラも続いた。「わたくしも、セレスティーナ様と共に参ります。故国の民を、そして王子をお救いするためならば、この命、惜しくはありません!」
しかし、彼女たちはそれぞれ、エドワードとライナスという、まだ首も据わらぬ乳飲み子を抱える母親でもある。その現実は、あまりにも重い。
アキオは、二人の痛切な願いを理解しつつも、即答はできなかった。「君たちの気持ちは痛いほど分かる。だが、今の君たちには、守るべき幼い命がある。そして、エルドリアへの道はあまりにも危険だ。どうするべきか…少し、時間をくれないか」
セレスティーナとレオノーラは、アキオの言葉に静かに頷くしかなかった。その胸には、故国への想いと、母としての責任が激しく交錯していた。
エルドリアへの支援準備が急ピッチで進められる緊迫した日々の中、ある夜、アキオはキナの部屋を訪れていた。娘のルナは、母親の腕の中で健やかな寝息を立てている。
「だんな…エルドリアのこと、大変だな…」キナが、いつもの元気さは少し影を潜め、心配そうにアキオを見上げる。
「ああ…なんとかしてやりたいんだがな」
しばらくの沈黙の後、キナは不意に、真剣な眼差しでアキオに問いかけた。
「なあ、だんな。あたしたち獣人も…その、生命樹の実を食べたら…シルヴィア姉ちゃんやアウロラ様みたいに、もっとずっと長く、だんなやリクやルナ…これから生まれてくるかもしれねえ子供たちと一緒に、いられるようになるのか…?」
その問いは、キナの心の奥底からの、切実な願いだった。アキオやシルヴィア、アウロラといった、人間とは異なる寿命を持つ(あるいはそう見える)存在たちと共に生きる中で、彼女もまた、愛する者たちとの永遠に近い時間を無意識に願っていたのかもしれない。
アキオは、キナのその純粋な問いに、胸を締め付けられるような想いを感じた。
「キナ…生命樹の実が、獣人の寿命にどう影響するかは、俺にもまだ分からない。だが…君が、俺や子供たちと一日でも長く一緒にいたいと願ってくれるなら、俺も全力でその方法を探す。シルヴィアやアウロラにも相談して、きっと何か…」
アキオは、キナを力強く抱きしめた。その腕の中で、キナは安心したように小さく頷いた。
アキオの町は、外部の大きな危機に直面し、その聖域としての力を試されようとしていた。そして同時に、家族の絆や、それぞれの種族が抱える根源的な願いにも、真摯に向き合おうとしていた。
アヤネ、シルヴィア、アウロラ、そしてヘルガのお腹の子供たちもまた、この激動の中で、静かに、しかし力強く、その生命を育んでいる。ユメとケンタの新婚生活も、町の喧騒の中でささやかな幸せを紡いでいた。
ヴァルト子爵領からは、産婆研修団の代表が、近々アキオへの挨拶と研修終了の報告に訪れたいとの連絡も入っている。
アキオは、多くの課題と希望を抱えながら、この町と家族の未来のために、最善の道を模索し続けるのだった。
「アキオ様! セレスティーナ様! ヨハン様からの緊急のご連絡です!」
使者は、アキオ、セレスティーナ、レオノーラ、そしてシルヴィアとアウロラが待つ部屋に通されると、一息つく間もなく報告を始めた。
「エルドリアの抵抗勢力『暁の鷲』は、帝国軍の撤退に伴い、確かに勢力を拡大し、民の支持も得ております! クリストフ王子もご無事であり、その指導力は素晴らしいものがございます! しかし…!」
そこまで一気に語ると、使者は苦渋の表情を浮かべた。
「しかし、長年の圧政と度重なる戦闘により、負傷者が後を絶たず…薬草はもとより、基本的な医療物資、そして何よりも負傷者を癒やすための『回復手段』が完全に枯渇しております! 多くの兵士や民が、助かるはずの命を落としかねない、切迫した状況にある、とヨハン様は…!」
その報告に、セレスティーナは顔面蒼白となり、レオノーラもまた唇を固く噛み締めた。故国の民が、勝利の目前で命を散らそうとしている。それは、二人にとって耐え難い苦痛だった。
「なんということだ…」アキオは呻くように言った。町の平和な日常とはあまりにもかけ離れた、厳しい現実。
すぐにアキオは、シルヴィアとアウロラを伴い、別室で緊急の話し合いを持った。
「シルヴィア、アウロラ、聞いた通りだ。エルドリアは危機的な状況にある。俺たちに何かできることはないだろうか」
シルヴィアは静かに頷いた。「私たちが持つ薬草の知識や、調合した薬だけでは、おそらく焼け石に水でしょう。ですが…アキオ様、生命樹の実ならば…」
アウロラもまた、真剣な眼差しでアキオを見つめた。「生命樹の実は、アキオの『生命の祝福』の力が加わることで、さらにその治癒力を増す。じゃが、実をそのまま送るだけでは、多くの者を救うには効率が悪いやもしれぬ」
三人は、短時間で集中的に話し合った。そして、アキオは一つの決断を下す。
「よし、生命樹の実を加工しよう。シルヴィア、ミコ、そしてアウロラの知恵も借りて、最も効果が高く、そして多くの人々に行き渡るような形…例えば、濃縮したエキスや、塗り薬、あるいは保存の利く丸薬のようなものにできないだろうか。ドルガン親方にも協力してもらって、特別な道具が必要なら作ってもらおう」
それは、アキオの町が持つ最大の秘薬とも言える生命樹の実を、外部の危機を救うために本格的に活用するという、大きな決断だった。
その決定を知ったセレスティーナとレオノーラは、アキオに深い感謝の言葉を述べると共に、改めて強い決意をその瞳に宿した。
「アキオ様…その秘薬を、どうか、わたくしたちにエルドリアへ届けさせてはいただけないでしょうか…!」セレスティーナが、震える声で懇願する。
レオノーラも続いた。「わたくしも、セレスティーナ様と共に参ります。故国の民を、そして王子をお救いするためならば、この命、惜しくはありません!」
しかし、彼女たちはそれぞれ、エドワードとライナスという、まだ首も据わらぬ乳飲み子を抱える母親でもある。その現実は、あまりにも重い。
アキオは、二人の痛切な願いを理解しつつも、即答はできなかった。「君たちの気持ちは痛いほど分かる。だが、今の君たちには、守るべき幼い命がある。そして、エルドリアへの道はあまりにも危険だ。どうするべきか…少し、時間をくれないか」
セレスティーナとレオノーラは、アキオの言葉に静かに頷くしかなかった。その胸には、故国への想いと、母としての責任が激しく交錯していた。
エルドリアへの支援準備が急ピッチで進められる緊迫した日々の中、ある夜、アキオはキナの部屋を訪れていた。娘のルナは、母親の腕の中で健やかな寝息を立てている。
「だんな…エルドリアのこと、大変だな…」キナが、いつもの元気さは少し影を潜め、心配そうにアキオを見上げる。
「ああ…なんとかしてやりたいんだがな」
しばらくの沈黙の後、キナは不意に、真剣な眼差しでアキオに問いかけた。
「なあ、だんな。あたしたち獣人も…その、生命樹の実を食べたら…シルヴィア姉ちゃんやアウロラ様みたいに、もっとずっと長く、だんなやリクやルナ…これから生まれてくるかもしれねえ子供たちと一緒に、いられるようになるのか…?」
その問いは、キナの心の奥底からの、切実な願いだった。アキオやシルヴィア、アウロラといった、人間とは異なる寿命を持つ(あるいはそう見える)存在たちと共に生きる中で、彼女もまた、愛する者たちとの永遠に近い時間を無意識に願っていたのかもしれない。
アキオは、キナのその純粋な問いに、胸を締め付けられるような想いを感じた。
「キナ…生命樹の実が、獣人の寿命にどう影響するかは、俺にもまだ分からない。だが…君が、俺や子供たちと一日でも長く一緒にいたいと願ってくれるなら、俺も全力でその方法を探す。シルヴィアやアウロラにも相談して、きっと何か…」
アキオは、キナを力強く抱きしめた。その腕の中で、キナは安心したように小さく頷いた。
アキオの町は、外部の大きな危機に直面し、その聖域としての力を試されようとしていた。そして同時に、家族の絆や、それぞれの種族が抱える根源的な願いにも、真摯に向き合おうとしていた。
アヤネ、シルヴィア、アウロラ、そしてヘルガのお腹の子供たちもまた、この激動の中で、静かに、しかし力強く、その生命を育んでいる。ユメとケンタの新婚生活も、町の喧騒の中でささやかな幸せを紡いでいた。
ヴァルト子爵領からは、産婆研修団の代表が、近々アキオへの挨拶と研修終了の報告に訪れたいとの連絡も入っている。
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