五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
139 / 400

第139話:ハイエルフの慶び、シルヴィアの新たな生命

しおりを挟む
 アキオの町では、次々と誕生した新しい命の祝福ムードが続いていた。アサヒ、ルナ、エドワード、ライナスと、四人の乳飲み子の元気な声が中央館に響き渡り、アキオと妻たちは、その愛らしい姿に目を細める毎日だった。特に新米ママのアヤネは、アサヒの世話に奮闘しつつも、母としての喜びに満ち溢れていた。キナもまた、娘のルナを片時も離さず、そのパワフルな母性で愛情を注いでいる。セレスティーナとレオノーラも、それぞれの息子であるエドワードとライナスを慈しみ育てながら、エルドリアからの続報を待つ日々を送っていた。今の彼女たちにとって、子作りよりも、目の前の幼い命と、故郷の未来が最大の関心事であるのは明らかだった。

 そんな中、アキオ家の長姉であり、正妻であるシルヴィアの様子が、ここ数日少し優れないことにアキオは気づいていた。食が細くなり、時折ふっと顔をしかめたり、薬草の匂いに敏感になったりしている。
「シルヴィア、大丈夫か? 無理はするなよ」
 アキオが心配そうに声をかけると、シルヴィアは悪戯っぽく微笑み、そしてどこか誇らしげな表情で、そっとアキオの手を自身の下腹部に導いた。
「アキオ…どうやら、この私のお腹の中にも…また、新しい光が灯ってくれたようなのです」
 その言葉と、手に伝わる微かな、しかし確かな温もりと生命の波動に、アキオは息をのんだ。
「シルヴィア…! 本当か…!?」
「ええ。ハイエルフとして覚醒したこの身は、以前よりもずっと生命の力に満ちていますもの。そして何より…貴方との愛の結晶を、もう一度この腕に抱きたいと、強く願っておりましたから」
 シルヴィアの瞳は、深い愛情と喜びに潤んでいた。アルスに続く、二人目の子供。アキオにとっても、そしてシルヴィアにとっても、それは望外の喜びだった。アキオ家のベビーラッシュは、これで九人目の赤ん坊(アウロラとヘルガの胎内の子を含めれば)を迎えることになる。

 シルヴィアの懐妊は、すぐに家族中に知られ、中央館はまた一つ大きな祝福に包まれた。
「シルヴィア母様、おめでとうございます!」アヤネが心からの笑顔で駆け寄る。
「シルヴィア姉、やったじゃねえか! アルスの妹か弟か、楽しみだな!」キナが力強くシルヴィアの肩を叩く。
 セレスティーナとレオノーラも、「シルヴィア様、本当におめでとうございます。お身体、大切になさってくださいましね」と、それぞれの言葉で祝福を伝えた。
 光妃アウロラもまた、その神聖なオーラでシルヴィアを包み込むように微笑んだ。「シルヴィア、そなたの内に宿る新たな生命の輝き、まこと尊い。ハイエルフの母が育む命は、きっと素晴らしい力と叡智を秘めておるじゃろう」

 その夜、アキオはシルヴィアの部屋を訪れた。月の光が優しく差し込む部屋で、二人は静かに語り合う。
「本当に、驚いたよ、シルヴィア。まさか、こんなに早く…」
「ふふ、アキオ。貴方の『生命の祝福』の力と、ハイエルフとしての私の力が共鳴したのかもしれませんわね。そして…あの夜の、貴方の熱情も」
 シルヴィアは、アキオの胸にそっと顔をうずめた。彼女の身体からは、森の若葉のような清浄な香りと、そして母となる女性特有の甘い香りが漂ってくる。
「アルスも、きっと喜ぶでしょうね。弟か妹ができれば、あの子も良いお兄ちゃんになるわ」
「ああ、そうだな。この子は、アルスにとって初めてのきょうだいだ。男の子でも女の子でも、きっと素晴らしい子になるだろう」
(そして、シルヴィアの二人目の子は、女の子になるはずだ…)アキオは、胸の内でその確信に近い予感を噛み締めていた。それは、妻たちとの間に働く不思議な生命の法則のようなものへの、彼なりの理解だった。
 二人は、これから生まれてくる子供への期待と、アキオ家の賑やかな未来への想いを語り合い、そして、ハイエルフとして、母として、妻として、さらに輝きを増したシルヴィアの全てを、アキオは深い愛情で包み込んだ。それは、新しい命を祝福し、育むための、穏やかで、しかしどこまでも濃密な愛の交歓だった。

 町の片隅では、ドルガン親方が、日に日に大きくなるヘルガのお腹を嬉しそうに撫でている。ユメは、町の記録者として、これらの日々の出来事――新しい命の誕生、家族の愛、そして町に満ちる希望の光景――を、その瑞々しい感性で日記に綴り続けていた。ケンタは、そんなユメの傍らで、彼女の活動を温かく見守り、二人の未来への想いを新たにする。
 ヴァルト子爵領からは、産婆研修団の代表が、研修の成果と感謝を伝えるために、近々アキオの町を再訪したいとの連絡も入っていた。アルトとミコからの手紙も、彼らの順調な学びと成長を伝えてきている。
 エルドリアの情勢については、商人ヨハンからの続報が待たれるところだが、セレスティーナとレオノーラは、焦らず、しかし確かな希望を胸にその時を待っていた。

 アキオの町は、多くの新しい命と、深まる家族の絆、そして外部世界との穏やかな交流の中で、その輝きを静かに、しかし力強く増していくのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

家ごと異世界ライフ

もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。 家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!? 主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...