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第152話:聖域の決断と新たなる風
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エルドリアの街道の安全確保という吉報がもたらされ、またヴァルト子爵領から「産婆見習い」として十数名の未亡人たちがアキオの町に到着した。アキオは、彼女たちの真の願いを知り、内心複雑な思いを抱えつつも、温かく迎え入れた。
その数日後、アキオは中央館の広場で、ゲルトによって改めて紹介されることになった産婆見習いの一団と向き合っていた。彼女たちは、マーサの指導の下、既に町の生活に馴染み始めており、その真面目な働きぶりは皆の認めるところとなっている。アキオは一人一人に声をかけ、労いの言葉を述べた。未亡人たちは、アキオに対して町の長としての敬意を払いつつも、過度に卑屈になることもなく、ごく自然な態度で接している。それがアキオにとっては、かえって好ましいものだった。
一団の中には、ひときわ落ち着いた雰囲気を漂わせる女性がいた。年の頃は三十手前ほど、すらりと伸びた背筋に、知性を感じさせる涼やかな顔立ち。ゲルトが彼女をアキオに紹介した。
「アキオ様、こちらは凛(りん)様と仰います。子爵夫人のご親類にあたる方で、今回、皆のまとめ役を快く引き受けてくださいました。また、アキオ様の町の運営や、様々な事柄について学びたいと強く願っておられます」
凛と名乗った女性は、深々と頭を下げて挨拶したが、その黒曜石のような瞳は、アキオを真っ直ぐに見据え、何かを値踏みするかのような鋭い光を宿していた。彼女は、他の未亡人たちとは異なり、アキオとは意識的に距離を置いているように感じられる。シルヴィアやアウロラといった妻たちとは時折知的な会話を交わしているようだが、アキオに対しては依然として警戒心を解いていない。その聡明さと、謎めいた雰囲気は、アキオに強い印象を残した。
そしてその夜、エルドリアからの吉報を受け、セレスティーナとレオノーラの心は大きく揺れ動いていた。中央館ではアキオと全ての妻たちが集まり、今後の対応について話し合うための「妻会」が開かれた。
「エルドリアへ…クリストフの元へ、わたくしは行かなければなりません。たとえ一時でも、この目で故国の土を踏み、弟を助けたいのです」
セレスティーナが、震える声ながらも、しかし揺るぎない決意を込めて口火を切った。
「私もです、アキオ殿。セレスティーナ様をお守りし、そしてエルドリア再興のために、この剣を捧げる覚悟はできております。王子と抵抗勢力の皆さんに、アキオの町からの支援を直接届け、彼らを励ましたい」レオノーラもまた、力強く続いた。
アキオは、二人の強い意志を受け止め、静かに頷いた。
「分かった。君たちのその想い、そして決意は本物だ。俺も全力で支援する。だが、いくつか考えてほしいことがある。まず、君たちの子供たち…セレスティーナ、君にはステラとエドワードが、そしてレオノーラ、君にはエルザとライナスという、守るべき幼い命が二人ずついる。その子たちにとって、母親である君たちがどれほど大切な存在か…。そして、エルドリアへの道は、いくら安全になったとはいえ、まだ何があるか分からない。今回は、俺も町を離れるわけにはいかない。アウロラが出産したばかりで双子の育児も大変な時期だし、この町には他にも多くの赤ん坊たちや、シルヴィアをはじめ妊娠中の妻たちがいる。この状況で皆を置いていくことはできないんだ」
アキオは言葉を選びながら続けた。「だから、まずは、俺がクリストフ王子と抵抗勢力への親書と、さらなる支援物資をヴァルト子爵に託し、彼を通じて届けてもらうのはどうだろうか。そして、エルドリアの状況がもう少し落ち着き、君たちの子供たちももう少し大きくなってから、改めて君たちがエルドリアを訪問することを考えよう。それまでの間、この町からできる限りの支援を続ける。それでどうだろうか」
アキオの提案は、彼女たちの身の安全と子供たちのことを最大限に考慮しつつ、エルドリアへの支援も継続するというものだった。セレスティーナとレオノーラは、一瞬顔を見合わせ、そしてアキオの深い配慮に涙ぐみながらも、その提案を受け入れた。すぐにでも故郷へ駆けつけたい気持ちは山々だが、母親としての責任もまた、彼女たちにとって何よりも重いものだったのだ。アキオは、長距離の、そしてより安全な旅のために、ヴァルト子爵から贈られた馬車をベースに、特別な馬車を改良することも改めて約束した。
アキオの町は、聖域としての役割を、今、エルドリアという形で果たそうとしていた。そして、アキオの心には、新たにやってきた未亡人たちと、謎めいた女性、凛の存在が、新たな人間関係の始まりと、そしてまだ見ぬ未来への複雑な予感を投げかけていた。
アヤネ(二人目)、キナ(三人目)、そしてシルヴィアのお腹の子供たちも順調に育ち、アウロラの双子の御子アキラとアケミは、その神秘的なオーラを日ごとに強く放ちながら、母アウロラと共に廃墟の再生という壮大な計画の始動を静かに待っているかのようだった。
その数日後、アキオは中央館の広場で、ゲルトによって改めて紹介されることになった産婆見習いの一団と向き合っていた。彼女たちは、マーサの指導の下、既に町の生活に馴染み始めており、その真面目な働きぶりは皆の認めるところとなっている。アキオは一人一人に声をかけ、労いの言葉を述べた。未亡人たちは、アキオに対して町の長としての敬意を払いつつも、過度に卑屈になることもなく、ごく自然な態度で接している。それがアキオにとっては、かえって好ましいものだった。
一団の中には、ひときわ落ち着いた雰囲気を漂わせる女性がいた。年の頃は三十手前ほど、すらりと伸びた背筋に、知性を感じさせる涼やかな顔立ち。ゲルトが彼女をアキオに紹介した。
「アキオ様、こちらは凛(りん)様と仰います。子爵夫人のご親類にあたる方で、今回、皆のまとめ役を快く引き受けてくださいました。また、アキオ様の町の運営や、様々な事柄について学びたいと強く願っておられます」
凛と名乗った女性は、深々と頭を下げて挨拶したが、その黒曜石のような瞳は、アキオを真っ直ぐに見据え、何かを値踏みするかのような鋭い光を宿していた。彼女は、他の未亡人たちとは異なり、アキオとは意識的に距離を置いているように感じられる。シルヴィアやアウロラといった妻たちとは時折知的な会話を交わしているようだが、アキオに対しては依然として警戒心を解いていない。その聡明さと、謎めいた雰囲気は、アキオに強い印象を残した。
そしてその夜、エルドリアからの吉報を受け、セレスティーナとレオノーラの心は大きく揺れ動いていた。中央館ではアキオと全ての妻たちが集まり、今後の対応について話し合うための「妻会」が開かれた。
「エルドリアへ…クリストフの元へ、わたくしは行かなければなりません。たとえ一時でも、この目で故国の土を踏み、弟を助けたいのです」
セレスティーナが、震える声ながらも、しかし揺るぎない決意を込めて口火を切った。
「私もです、アキオ殿。セレスティーナ様をお守りし、そしてエルドリア再興のために、この剣を捧げる覚悟はできております。王子と抵抗勢力の皆さんに、アキオの町からの支援を直接届け、彼らを励ましたい」レオノーラもまた、力強く続いた。
アキオは、二人の強い意志を受け止め、静かに頷いた。
「分かった。君たちのその想い、そして決意は本物だ。俺も全力で支援する。だが、いくつか考えてほしいことがある。まず、君たちの子供たち…セレスティーナ、君にはステラとエドワードが、そしてレオノーラ、君にはエルザとライナスという、守るべき幼い命が二人ずついる。その子たちにとって、母親である君たちがどれほど大切な存在か…。そして、エルドリアへの道は、いくら安全になったとはいえ、まだ何があるか分からない。今回は、俺も町を離れるわけにはいかない。アウロラが出産したばかりで双子の育児も大変な時期だし、この町には他にも多くの赤ん坊たちや、シルヴィアをはじめ妊娠中の妻たちがいる。この状況で皆を置いていくことはできないんだ」
アキオは言葉を選びながら続けた。「だから、まずは、俺がクリストフ王子と抵抗勢力への親書と、さらなる支援物資をヴァルト子爵に託し、彼を通じて届けてもらうのはどうだろうか。そして、エルドリアの状況がもう少し落ち着き、君たちの子供たちももう少し大きくなってから、改めて君たちがエルドリアを訪問することを考えよう。それまでの間、この町からできる限りの支援を続ける。それでどうだろうか」
アキオの提案は、彼女たちの身の安全と子供たちのことを最大限に考慮しつつ、エルドリアへの支援も継続するというものだった。セレスティーナとレオノーラは、一瞬顔を見合わせ、そしてアキオの深い配慮に涙ぐみながらも、その提案を受け入れた。すぐにでも故郷へ駆けつけたい気持ちは山々だが、母親としての責任もまた、彼女たちにとって何よりも重いものだったのだ。アキオは、長距離の、そしてより安全な旅のために、ヴァルト子爵から贈られた馬車をベースに、特別な馬車を改良することも改めて約束した。
アキオの町は、聖域としての役割を、今、エルドリアという形で果たそうとしていた。そして、アキオの心には、新たにやってきた未亡人たちと、謎めいた女性、凛の存在が、新たな人間関係の始まりと、そしてまだ見ぬ未来への複雑な予感を投げかけていた。
アヤネ(二人目)、キナ(三人目)、そしてシルヴィアのお腹の子供たちも順調に育ち、アウロラの双子の御子アキラとアケミは、その神秘的なオーラを日ごとに強く放ちながら、母アウロラと共に廃墟の再生という壮大な計画の始動を静かに待っているかのようだった。
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