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第158話:神狼の子の産声、再会の使者と国境への道
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アヤネが二人目の娘を無事に出産し、アキオの家が新たな喜びに包まれてから間もなくだった。今度は神狼の血を引くキナが、力強い陣痛と共に、三人目となる子供の出産を迎えたのだ。
「だ、だんなぁ…! 来るぞ…! 今度は、腹の中ででっけえ狼が駆け回ってるみてえだ…!」
キナは、額に玉のような汗を浮かべ、アキオの腕にしがみつきながらも、その瞳には母としての強い光と、アキオへの絶対的な信頼を宿していた。アキオは、アヤネの時と同様に、彼女の手を固く握り返し、その耳元で絶えず励ましの言葉を囁き続ける。産室には、マーサとシルヴィア、そして数名の産婆見習いの未亡人たちが、キナの野性的なまでの生命力に圧倒されつつも、的確な補助を行っていた。
その場には、シルヴィアの計らいで、再び凛の姿もあった。彼女は、アヤネの出産に立ち会った時よりも幾分か落ち着いた様子で、しかし獣人族の出産という、また異なる生命の神秘を目の当たりにし、息を詰めてその瞬間を見守っていた。キナの、野生動物を思わせる力強い息遣いと、それに呼応するアキオの献身的な支え。凛の心の中で、男性への恐怖とは別の、複雑な感情が少しずつ育っているのを感じていた。
そして、数時間の後。
「おぎゃああ! ヴォオオオオン!」(赤ん坊の産声に、微かに狼の遠吠えのような響きが混じる)
「おめでとうございます! キナ様、アキオ様! 今度も大変お元気な…神狼の血を色濃く受け継いだ、立派な男の子でございます!」
マーサが、生まれたばかりの赤ん坊を高々と抱き上げる。その子は、キナに似て浅黒い肌を持ち、生まれたばかりとは思えぬほどしっかりとした体躯で、その小さな手足には既に鋭い爪の兆しが見え、瞳には狼のような野性的な光が宿っていた。
「やった…やったぞ、だんな! また元気な男の子だ! これでリクとルナにも、また弟ができたな! アタシ、まだまだ産めるぞ!」
キナは、疲労困憊のはずなのに、底抜けの笑顔でアキオに抱きつき、そして我が子を力強く抱きしめた。アキオは、この小さな、しかし強大な生命力を持つ息子に「大地(だいち)」と名付けた。この豊かな大地にしっかりと根を張り、何者にも屈しない強く優しい男に育ってほしいという願いを込めて。アキオの子供はこれで十二人となり、町は立て続けの誕生の喜びに、まさに祝福の歌が響き渡るかのようだった。
大地くんの誕生から数日後、町が祝賀ムードに包まれる中、ヴァルト子爵領経由でエルドリア方面から緊急の使者が到着した。アキオが派遣した支援隊の一人が、クリストフ王子からの親書を携えて帰還したのだ。
親書には、アキオの町からの多大な支援に対する心からの感謝と共に、クリストフ王子が現在、解放したエルドリア領内の国境に近い砦町まで軍を進めており、そこでアキオ、セレスティーナ、レオノーラと直接会見し、今後のエルドリア再興について協議したいとの申し出が記されていた。その場所までは、アキオの町から馬車で約二日という、驚くほど近い距離だった。
「クリストフが…! 私たちに会いたいと…!」
セレスティーナは、震える手で親書を握りしめ、レオノーラと顔を見合わせた。その瞳には、ついに実弟と再会できるという喜びと、故国再興への新たな決意が燃え上がっていた。
アキオもまた、これがエルドリア問題にとって大きな前進であると確信し、即座にクリストフ王子の申し出を受けることを決断した。
「俺も行こう。セレスティーナ、レオノーラ、そして…」アキオは、傍らでその報告を静かに、しかし強い関心を持って聞いていた凛に視線を向けた。
「凛殿、君もこの旅に同行してくれないか。君の知識と冷静な判断力は、きっとこの会見で役に立つはずだ。私の秘書として、この重要な交渉に立ち会ってほしい」
凛は、アキオのその言葉に一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに姿勢を正した。彼女の胸中では、男性、特に力を持つ為政者への根深い警戒心と、アキオという存在への僅かながら芽生え始めた信頼、そして自らの才覚を国家レベルの場で活かしたいという知識人としての渇望が激しく交錯していた。
「…アキオ様が、そうお望みとあらば。未熟者ではございますが、秘書として当然の務め、お供させていただきます。アキオ様とご一緒ならば…たとえまだ、少し震えが止まらなくとも…きっと、大丈夫です」
彼女の声はまだ微かに震えていたが、その瞳には確かな意志の光と、アキオへの信頼、そして自らの使命への自覚が宿っていた。アキオの町での数々の経験、特に生命の誕生という奇跡と、アキオの家族愛を目の当たりにしたことで、彼女の心の氷壁はまた少し、溶け始めていたのだ。
さらに、セレスティーナとレオノーラの身の回りの世話と、道中の様々なサポートのために、産婆見習いの未亡人たちの中から、特にしっかり者で、かつ体力もある女性が数名、誇らしげに同行を申し出た。
出発を翌日に控えた夜。アキオは、明日からの重要な旅を前に、セレスティーナとレオノーラの心を最大限に満たし、そして彼女たちとの絆を再確認するため、生命樹の下の「愛の祭壇」へと二人を誘った。
その神聖な場所には、アキオの計らいで、旅に同行する未亡人たちと、そして凛も招かれていた。彼女たちは、これから行われるであろうアキオと二人の王女の神聖な祝福の儀式を、少し離れた場所から静かに見守ることになる。シルヴィアやアウロラは、この特別な夜のために、生命樹の力をさらに高め、場を清め、そして彼女たちの祈りを込めていた。
月光と生命樹の淡い七色の光が幻想的に交錯する中、アキオは祭壇の中心に立ち、セレスティーナとレオノーラをその両脇へと導いた。
それは、単なる激励ではない。エルドリアの未来をその双肩に背負う王女たちの魂を鼓舞し、アキオ自身の「生命の祝福」の力を彼女たちの奥深くまで注ぎ込み、そして互いの存在と揺るぎない愛を、これ以上ないほど確かめ合うための、神聖な儀式だった。
「セレスティーナ…レオノーラ…」
アキオは二人の手をそれぞれ取ると、自らの額にそっと当てた。黄金色の温かい光が、アキオから二人へと、魂を直接伝うように流れ込んでいく。
「アキオ様…」「アキオ殿…」
二人の王女の声は、歓喜と、そしてこれから始まる使命への覚悟に満ちていた。彼女たちの全身が淡い光に包まれ、その瞳には迷いのない強い光が宿る。
その圧倒的で神聖なまでの光景を目の当たりにしていた未亡人たちは、皆、言葉を失い、ただ息をのんでいた。アキオの町で噂には聞いていた、アキオ様と奥方様方の間の、常識を超えた特別な絆と、生命力に満ち溢れた神聖な祝福の儀式。それが今、目の前で繰り広げられている。彼女たちはその光景に、ただただ畏敬の念を抱いていた。「いつか、自分にもあのような祝福の日が訪れるのだろうか…」そんな切なくも強い願いが、彼女たちの胸を焦がした。
凛もまた、その光景を複雑な表情で見つめていた。それは、彼女が知る貴族たちの間の打算的で冷たい閨事とは全く異なる、むき出しの愛と生命、そして魂の交歓。その力強さと神聖さ、そして何よりもアキオと王女たちの間の絶対的な信頼関係に圧倒されつつも、心のどこかで、理解を超えた何かに対する畏怖と、そしてほんの僅かな、しかし否定しきれない羨望を感じていた。この男ならば、もしかしたら…そんな思いが、彼女の胸を微かに掠めた。
翌朝、夜明けの清浄な光の中、アキオ、セレスティーナ、レオノーラ、凛、そして数名の未亡人たちを乗せた改良型の馬車は、多くの町民たちの温かいエールと祈りに見送られ、クリストフ王子が待つエルドリア国境近くの砦町へと、静かに出発した。
アキオの町の聖域から、エルドリア再興への確かな一歩が、そして凛の心の再生への小さな一歩が、今、力強く踏み出されようとしていた。
「だ、だんなぁ…! 来るぞ…! 今度は、腹の中ででっけえ狼が駆け回ってるみてえだ…!」
キナは、額に玉のような汗を浮かべ、アキオの腕にしがみつきながらも、その瞳には母としての強い光と、アキオへの絶対的な信頼を宿していた。アキオは、アヤネの時と同様に、彼女の手を固く握り返し、その耳元で絶えず励ましの言葉を囁き続ける。産室には、マーサとシルヴィア、そして数名の産婆見習いの未亡人たちが、キナの野性的なまでの生命力に圧倒されつつも、的確な補助を行っていた。
その場には、シルヴィアの計らいで、再び凛の姿もあった。彼女は、アヤネの出産に立ち会った時よりも幾分か落ち着いた様子で、しかし獣人族の出産という、また異なる生命の神秘を目の当たりにし、息を詰めてその瞬間を見守っていた。キナの、野生動物を思わせる力強い息遣いと、それに呼応するアキオの献身的な支え。凛の心の中で、男性への恐怖とは別の、複雑な感情が少しずつ育っているのを感じていた。
そして、数時間の後。
「おぎゃああ! ヴォオオオオン!」(赤ん坊の産声に、微かに狼の遠吠えのような響きが混じる)
「おめでとうございます! キナ様、アキオ様! 今度も大変お元気な…神狼の血を色濃く受け継いだ、立派な男の子でございます!」
マーサが、生まれたばかりの赤ん坊を高々と抱き上げる。その子は、キナに似て浅黒い肌を持ち、生まれたばかりとは思えぬほどしっかりとした体躯で、その小さな手足には既に鋭い爪の兆しが見え、瞳には狼のような野性的な光が宿っていた。
「やった…やったぞ、だんな! また元気な男の子だ! これでリクとルナにも、また弟ができたな! アタシ、まだまだ産めるぞ!」
キナは、疲労困憊のはずなのに、底抜けの笑顔でアキオに抱きつき、そして我が子を力強く抱きしめた。アキオは、この小さな、しかし強大な生命力を持つ息子に「大地(だいち)」と名付けた。この豊かな大地にしっかりと根を張り、何者にも屈しない強く優しい男に育ってほしいという願いを込めて。アキオの子供はこれで十二人となり、町は立て続けの誕生の喜びに、まさに祝福の歌が響き渡るかのようだった。
大地くんの誕生から数日後、町が祝賀ムードに包まれる中、ヴァルト子爵領経由でエルドリア方面から緊急の使者が到着した。アキオが派遣した支援隊の一人が、クリストフ王子からの親書を携えて帰還したのだ。
親書には、アキオの町からの多大な支援に対する心からの感謝と共に、クリストフ王子が現在、解放したエルドリア領内の国境に近い砦町まで軍を進めており、そこでアキオ、セレスティーナ、レオノーラと直接会見し、今後のエルドリア再興について協議したいとの申し出が記されていた。その場所までは、アキオの町から馬車で約二日という、驚くほど近い距離だった。
「クリストフが…! 私たちに会いたいと…!」
セレスティーナは、震える手で親書を握りしめ、レオノーラと顔を見合わせた。その瞳には、ついに実弟と再会できるという喜びと、故国再興への新たな決意が燃え上がっていた。
アキオもまた、これがエルドリア問題にとって大きな前進であると確信し、即座にクリストフ王子の申し出を受けることを決断した。
「俺も行こう。セレスティーナ、レオノーラ、そして…」アキオは、傍らでその報告を静かに、しかし強い関心を持って聞いていた凛に視線を向けた。
「凛殿、君もこの旅に同行してくれないか。君の知識と冷静な判断力は、きっとこの会見で役に立つはずだ。私の秘書として、この重要な交渉に立ち会ってほしい」
凛は、アキオのその言葉に一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに姿勢を正した。彼女の胸中では、男性、特に力を持つ為政者への根深い警戒心と、アキオという存在への僅かながら芽生え始めた信頼、そして自らの才覚を国家レベルの場で活かしたいという知識人としての渇望が激しく交錯していた。
「…アキオ様が、そうお望みとあらば。未熟者ではございますが、秘書として当然の務め、お供させていただきます。アキオ様とご一緒ならば…たとえまだ、少し震えが止まらなくとも…きっと、大丈夫です」
彼女の声はまだ微かに震えていたが、その瞳には確かな意志の光と、アキオへの信頼、そして自らの使命への自覚が宿っていた。アキオの町での数々の経験、特に生命の誕生という奇跡と、アキオの家族愛を目の当たりにしたことで、彼女の心の氷壁はまた少し、溶け始めていたのだ。
さらに、セレスティーナとレオノーラの身の回りの世話と、道中の様々なサポートのために、産婆見習いの未亡人たちの中から、特にしっかり者で、かつ体力もある女性が数名、誇らしげに同行を申し出た。
出発を翌日に控えた夜。アキオは、明日からの重要な旅を前に、セレスティーナとレオノーラの心を最大限に満たし、そして彼女たちとの絆を再確認するため、生命樹の下の「愛の祭壇」へと二人を誘った。
その神聖な場所には、アキオの計らいで、旅に同行する未亡人たちと、そして凛も招かれていた。彼女たちは、これから行われるであろうアキオと二人の王女の神聖な祝福の儀式を、少し離れた場所から静かに見守ることになる。シルヴィアやアウロラは、この特別な夜のために、生命樹の力をさらに高め、場を清め、そして彼女たちの祈りを込めていた。
月光と生命樹の淡い七色の光が幻想的に交錯する中、アキオは祭壇の中心に立ち、セレスティーナとレオノーラをその両脇へと導いた。
それは、単なる激励ではない。エルドリアの未来をその双肩に背負う王女たちの魂を鼓舞し、アキオ自身の「生命の祝福」の力を彼女たちの奥深くまで注ぎ込み、そして互いの存在と揺るぎない愛を、これ以上ないほど確かめ合うための、神聖な儀式だった。
「セレスティーナ…レオノーラ…」
アキオは二人の手をそれぞれ取ると、自らの額にそっと当てた。黄金色の温かい光が、アキオから二人へと、魂を直接伝うように流れ込んでいく。
「アキオ様…」「アキオ殿…」
二人の王女の声は、歓喜と、そしてこれから始まる使命への覚悟に満ちていた。彼女たちの全身が淡い光に包まれ、その瞳には迷いのない強い光が宿る。
その圧倒的で神聖なまでの光景を目の当たりにしていた未亡人たちは、皆、言葉を失い、ただ息をのんでいた。アキオの町で噂には聞いていた、アキオ様と奥方様方の間の、常識を超えた特別な絆と、生命力に満ち溢れた神聖な祝福の儀式。それが今、目の前で繰り広げられている。彼女たちはその光景に、ただただ畏敬の念を抱いていた。「いつか、自分にもあのような祝福の日が訪れるのだろうか…」そんな切なくも強い願いが、彼女たちの胸を焦がした。
凛もまた、その光景を複雑な表情で見つめていた。それは、彼女が知る貴族たちの間の打算的で冷たい閨事とは全く異なる、むき出しの愛と生命、そして魂の交歓。その力強さと神聖さ、そして何よりもアキオと王女たちの間の絶対的な信頼関係に圧倒されつつも、心のどこかで、理解を超えた何かに対する畏怖と、そしてほんの僅かな、しかし否定しきれない羨望を感じていた。この男ならば、もしかしたら…そんな思いが、彼女の胸を微かに掠めた。
翌朝、夜明けの清浄な光の中、アキオ、セレスティーナ、レオノーラ、凛、そして数名の未亡人たちを乗せた改良型の馬車は、多くの町民たちの温かいエールと祈りに見送られ、クリストフ王子が待つエルドリア国境近くの砦町へと、静かに出発した。
アキオの町の聖域から、エルドリア再興への確かな一歩が、そして凛の心の再生への小さな一歩が、今、力強く踏み出されようとしていた。
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