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第179話:荒くれ共、驚愕の歓迎と再生への問いかけ
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引き渡し当日、アキオの町の西の森の境界には、異様な光景が広がっていた。カイとアルトが率いる、町の屈強な男たちが、アキオ鋼の武具を手に整然と立ち並び、静かな、しかし確かな圧を放っている。だが、その後方、安全が確保された場所には、湯気を立てる大きな鍋がいくつも並び、香ばしい肉の焼ける匂いが漂っていた。さらにその奥には、簡易的ながらも清潔な湯船が設えられ、温泉の湯が満々と湛えられている。それは、これから罪人を引き渡される場とは思えぬ、力による規律と、不可解なまでの温かいもてなしが同居する、奇妙な舞台だった。 アキオは、シルヴィア、アウロラ、そして凛と共に、その準備が整ったのを見届けていた。
やがて、約束の時間。森の奥から、ヴァルト子爵領の兵士たちに護送された「荒くれ共」の一団が、姿を現した。その数、三十名。長く手入れされていない髪や髭、ボロボロの衣服、そして何よりも、その瞳には、他人を信用せず、常に裏切りと暴力の中で生きてきた者だけが持つ、鋭く荒んだ光が宿っていた。彼らは、アキオたちの一団を見ると、新たな牢獄か処刑場にでも連れてこられたのだと、警戒心を剥き出しにした。
子爵の兵士との引き渡しが終わり、三十人の荒くれ共が、アキオたちと対峙する。一触即発の緊張が場を支配した。その中で、アキオはカイとアルトの護衛だけを伴い、穏やかな表情で彼らの前に歩み出た。 「遠路はるばる、ご苦労だった」 その落ち着いた声に、荒くれ共のリーダー格と思しき、顔に深い傷跡のある男が、吐き捨てるように言った。 「てめえが、ここのボスか。さっさと始めやがれ。どうせ、俺たちをこき使うか、殺すか、そんなところだろう」 しかし、アキオの返答は、彼らの予想を完全に裏切るものだった。 「いや、まずは、その腹を満たし、長旅の疲れを癒やしてくれ。お前たちは、今日からこの町の客人だ。強制的に連れてこられた罪人としてではなく、俺が招いた客としてもてなそう」 「…何だと?」 アキオは、後方の炊き出しと温泉を指し示した。荒くれ共は、その光景に完全に面食らい、「何か裏があるに違いねえ」「毒でも盛られるんじゃねえか」と囁き合う。その疑念を、アキオは真っ向から肯定した。 「安心しろ。毒など入っていない。だが、お前たちの荒んだ心を少しでも癒やすため、シルヴィアが調合した、精神を落ち着かせる効果のある薬草が、少量だけ入っている。これは、俺たちからの最初の『治療』だ」 そのあまりに正直な告白に、荒くれ共はさらに混乱した。
「信じられないか? それも無理はないだろうな」 アキオはにっこりと笑うと、近くにいた町の者に命じた。 「――おい、食事をいくつか、ここに持ってきてくれ」 アキオの指示で、同じ鍋からよそわれたスープとパンが、いくつか彼の前に置かれる。 「さあ、好きなものを選べ。お前たちが選んだその食事を、俺が今、この場でお前たちと一緒に食ってやる。どれも同じ、心の薬入りだ」 傷の男が、疑いの眼差しで一番手前の盆を指差す。アキオは、ためらうことなくそれを手に取り、パンをスープに浸すと、ゆっくりと口に運び始めた。「うまいな」と一言呟いて。 指導者自らが、同じ食事を、それも相手に選ばせたものを口にする。その、一切の嘘偽りがないことを証明する行動。暴力と裏切りしか知らなかった彼らにとって、それは人生で一度も経験したことのない、衝撃的な光景だった。彼らの心の頑なな壁に、初めて微かな亀裂が入った。
食事と湯浴みを終え、彼らが焚き火の周りで一息ついた時。アキオは、再び彼らの前に立った。 「さて、腹は満たされ、体は温まったか」 アキオのその言葉に、荒くれ共は黙って彼を見つめ返す。その瞳からは、最初の頃の剥き出しの敵意が、少しだけ薄れているように見えた。 「お前たちの中には、この平和な町を見て、ここの女たちをどうこうしてやろうと考えた者もいるかもしれん」 図星を突かれた何人かが、びくりと肩を震わせる。 「だが、言っておく。この町では、それは決して通用しない。ここでは、女性は力で奪うものではなく、守り、尊重されるべき存在だ」 アキオは、一度言葉を切り、全員の顔を一人一人見渡しながら、続けた。 「もしお前たちが本気で、女性と付き合い、家族を持ち、人間らしい暮らしを取り戻したいと願うなら、話は別だ。だが、そのためには、まずお前たち自身が、女性から、一人の人間として、そして男として、求められる存在にならねばならない」 その言葉は、彼らがこれまで生きてきた世界の法則を、根底から覆すものだった。 「俺には、お前たちをそういう男にさせる準備がある。汗を流して働き、人の役に立つ喜びを知り、胸を張って生きる道を、この町は用意できる。やってみる覚悟はあるか?」 アキオは、力強く、そして静かに問いかけた。罰でも、情けでもない。「再生への挑戦」という、対等な問いかけ。 荒くれ共は、完全に沈黙した。彼らの心の中で、これまでの人生と、アキオが提示した信じがたい未来が、激しく天秤にかかっている。
長い、長い沈黙の後。 一人の、まだ若さの残る男が、震える足でおずおずと立ち上がり、そして、アキオに向かって、深々と頭を下げた。 「…俺に…やらせて、ください…!」 その声に呼応するように、もう一人、また一人と、立ち上がる者が出始めた。それは、彼らが「荒くれ共」から、「町の新しい仲間候補」へと生まれ変わる、最初の瞬間だった。
やがて、約束の時間。森の奥から、ヴァルト子爵領の兵士たちに護送された「荒くれ共」の一団が、姿を現した。その数、三十名。長く手入れされていない髪や髭、ボロボロの衣服、そして何よりも、その瞳には、他人を信用せず、常に裏切りと暴力の中で生きてきた者だけが持つ、鋭く荒んだ光が宿っていた。彼らは、アキオたちの一団を見ると、新たな牢獄か処刑場にでも連れてこられたのだと、警戒心を剥き出しにした。
子爵の兵士との引き渡しが終わり、三十人の荒くれ共が、アキオたちと対峙する。一触即発の緊張が場を支配した。その中で、アキオはカイとアルトの護衛だけを伴い、穏やかな表情で彼らの前に歩み出た。 「遠路はるばる、ご苦労だった」 その落ち着いた声に、荒くれ共のリーダー格と思しき、顔に深い傷跡のある男が、吐き捨てるように言った。 「てめえが、ここのボスか。さっさと始めやがれ。どうせ、俺たちをこき使うか、殺すか、そんなところだろう」 しかし、アキオの返答は、彼らの予想を完全に裏切るものだった。 「いや、まずは、その腹を満たし、長旅の疲れを癒やしてくれ。お前たちは、今日からこの町の客人だ。強制的に連れてこられた罪人としてではなく、俺が招いた客としてもてなそう」 「…何だと?」 アキオは、後方の炊き出しと温泉を指し示した。荒くれ共は、その光景に完全に面食らい、「何か裏があるに違いねえ」「毒でも盛られるんじゃねえか」と囁き合う。その疑念を、アキオは真っ向から肯定した。 「安心しろ。毒など入っていない。だが、お前たちの荒んだ心を少しでも癒やすため、シルヴィアが調合した、精神を落ち着かせる効果のある薬草が、少量だけ入っている。これは、俺たちからの最初の『治療』だ」 そのあまりに正直な告白に、荒くれ共はさらに混乱した。
「信じられないか? それも無理はないだろうな」 アキオはにっこりと笑うと、近くにいた町の者に命じた。 「――おい、食事をいくつか、ここに持ってきてくれ」 アキオの指示で、同じ鍋からよそわれたスープとパンが、いくつか彼の前に置かれる。 「さあ、好きなものを選べ。お前たちが選んだその食事を、俺が今、この場でお前たちと一緒に食ってやる。どれも同じ、心の薬入りだ」 傷の男が、疑いの眼差しで一番手前の盆を指差す。アキオは、ためらうことなくそれを手に取り、パンをスープに浸すと、ゆっくりと口に運び始めた。「うまいな」と一言呟いて。 指導者自らが、同じ食事を、それも相手に選ばせたものを口にする。その、一切の嘘偽りがないことを証明する行動。暴力と裏切りしか知らなかった彼らにとって、それは人生で一度も経験したことのない、衝撃的な光景だった。彼らの心の頑なな壁に、初めて微かな亀裂が入った。
食事と湯浴みを終え、彼らが焚き火の周りで一息ついた時。アキオは、再び彼らの前に立った。 「さて、腹は満たされ、体は温まったか」 アキオのその言葉に、荒くれ共は黙って彼を見つめ返す。その瞳からは、最初の頃の剥き出しの敵意が、少しだけ薄れているように見えた。 「お前たちの中には、この平和な町を見て、ここの女たちをどうこうしてやろうと考えた者もいるかもしれん」 図星を突かれた何人かが、びくりと肩を震わせる。 「だが、言っておく。この町では、それは決して通用しない。ここでは、女性は力で奪うものではなく、守り、尊重されるべき存在だ」 アキオは、一度言葉を切り、全員の顔を一人一人見渡しながら、続けた。 「もしお前たちが本気で、女性と付き合い、家族を持ち、人間らしい暮らしを取り戻したいと願うなら、話は別だ。だが、そのためには、まずお前たち自身が、女性から、一人の人間として、そして男として、求められる存在にならねばならない」 その言葉は、彼らがこれまで生きてきた世界の法則を、根底から覆すものだった。 「俺には、お前たちをそういう男にさせる準備がある。汗を流して働き、人の役に立つ喜びを知り、胸を張って生きる道を、この町は用意できる。やってみる覚悟はあるか?」 アキオは、力強く、そして静かに問いかけた。罰でも、情けでもない。「再生への挑戦」という、対等な問いかけ。 荒くれ共は、完全に沈黙した。彼らの心の中で、これまでの人生と、アキオが提示した信じがたい未来が、激しく天秤にかかっている。
長い、長い沈黙の後。 一人の、まだ若さの残る男が、震える足でおずおずと立ち上がり、そして、アキオに向かって、深々と頭を下げた。 「…俺に…やらせて、ください…!」 その声に呼応するように、もう一人、また一人と、立ち上がる者が出始めた。それは、彼らが「荒くれ共」から、「町の新しい仲間候補」へと生まれ変わる、最初の瞬間だった。
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