五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第295話:才媛の願望、そして「お嫁さん」の夢

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 王家との会談まで、残された日々は、あとわずか。アキオは、その貴重な時間を、妻たち一人一人と、改めて深く向き合うために使っていた。シルヴィア、アウロラ、アヤネ、キナ、レオノーラ、そして凛。それぞれの妻との絆を再確認したアキオが、最後に、その一日を捧げることを決めたのは、彼の第六夫人となったばかりの、才媛クラウディアだった。

 アキオにとって、彼女は、特別な存在だった。彼が、この世界で初めて、庇護すべき対象としてではなく、一人の成熟した「大人」として、そして対等な「同僚」として出会った、唯一の女性。その知的な会話は心地よく、その快活な笑顔は、彼の心を、いつも明るく照らしてくれた。

 その日、アキオは、クラウディアを連れて、町の散策に出た。
「クラウディア殿。君は、本当は何がしたかったんだ? 教師になることだけが、君の夢だったのか?」
 アキオは、彼女に、優しく、そして真剣に問いかける。「どんなものが好みで、どんな時に、心が安らぐ?」と。
 しかし、クラウディアは、その問いに、うまく答えることができなかった。平民出身の彼女にとって、人生とは、自らの才能だけを武器に、常に「正解」を選び、道を切り拓いていくことの連続だった。アカデミーでは、誰よりも勉学に励み、教師となってからは、生徒たちの未来のために、その全てを捧げてきた。自らの「好み」や「本当にしたかったこと」を、ゆっくりと考える余裕など、これまで一度もなかったのだ。
「申し訳ございません、アキオ様。わたくしには、そのようなものは、特に…。皆さまのお役に立てること、それが、わたくしの喜びですので」
 彼女は、そう言って、少しだけ、寂しそうに微笑むだけだった。アキオは、その完璧な笑顔の裏に、彼女が心の奥底に封印してきた、本当の願いがあることを、感じ取っていた。

 その夜、新・中央館の、クラウディアの私室。
 二人は、その日の出来事を語り合いながら、自然な流れで、その身体を重ねた。アキオは、彼女のその知的な部分も、そして、時折見せる、不器用で人間らしい部分も、全てを愛おしく思い、その身体を深く、そして優しく求めた。
 そして、愛し合い、クラウディアが、その理性の鎧を脱ぎ捨て、一人の女性として、最も無防備に、そして幸せの絶頂に興奮している、その瞬間。アキオは、彼女の耳元で、もう一度、優しく囁いた。
「クラウディア…本当の、君の夢を、俺だけに、教えてくれないか…」

 その、全てを受け入れてくれる、夫の温かい声。そして、快楽に蕩けた、無防備な心。クラウディアは、ついに、その心の奥底に、何十年も封印してきた、誰にも言えなかった、あまりにも「くだらない」と、自分自身でさえ思っていた、本当の願いを、涙ながらに告白した。

 彼女の秘めた願望。それは、【剣士】でも、【お姫様】でもなかった。
 ただ、【普通の、お嫁さん】になることだった。
「…わたくし…ずっと、夢だったのです…」
 彼女の声は、涙で震えていた。
「愛する旦那様が、お仕事から、くたくたに疲れて帰ってきたら、『お帰りなさい』って、玄関で出迎えて…。そして、とびっきりの笑顔で、こう、聞いてみたかったのです…」
 彼女は、顔を真っ赤にしながら、その、いじらしいまでの台詞を、口にした。

「『お食事にする? お風呂にする? それとも…わ・た・し…?』…って」

「…馬鹿げておりますでしょう? こんな、物語の中だけの、陳腐な台詞…。ですが、わたくしは、ずっと、ずっと、それに、憧れて…」
 帝国一の才媛とまで言われた彼女が、心の奥底で抱き続けていたのは、そんな、どこにでもいる、ごく普通の女の子が夢見る、素朴で、そして、どうしようもないほど、可愛らしい幸せの形だったのだ。

 アキオは、彼女のその告白に、笑うどころか、どうしようもないほどの愛おしさで、胸が一杯になった。彼は、涙を流すクラウディアを、強く抱きしめると、一度、ベッドから離れ、部屋の扉の外へと出て行った。
 そして、数秒後、改めて、扉をノックする。
 クラウディアが、涙を拭いながら、何事かと扉を開けると、そこには、少し疲れたような、仕事帰りの「夫」の顔をしたアキオが立っていた。
「ただいま、クラウディア。…今日も、疲れたよ」

 クラウディアは、アキオのその意図を理解し、一瞬、驚きに目を見開いたが、やがて、これ以上ないほどの、最高の笑顔を浮かべた。そして、彼女が、人生で、ずっと言ってみたかった、あの台詞を、ありったけの愛情を込めて、夫に告げる。
「おかえりなさい、あなた。…お食事にする? お風呂にする? それとも…わ・た・し…?」

「もちろん、お前に決まってるだろう」
 アキオは、そう言って、最高の「お嫁さん」を、再び、その腕の中に、力強く抱きしめるのだった。
 その夜、二人は、夫と、そして夢が叶ったばかりの、世界で一番幸せな「お嫁さん」として、最高の、そして、忘れられない、二度目の初夜を、過ごした。
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