五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
317 / 387

第317話:王たちの誓いと、姫君たちの選択

しおりを挟む
 アキオの手のひらから放たれる、生命そのものの神々しい光。
 常識を超えたその奇跡の光景を前に、メイプルウッド国王とエルドリア国王クリストフは、王であることさえも忘れ、ただ呆然と立ち尽くしていた。噂の聖剣など、この圧倒的な生命の奔流の前ではあまりにも些末な出来事に過ぎなかった。
 やがてアキオがそっとその光を収めると、部屋には再び静寂が戻った。だが、その空気は先ほどまでとは全く質が違っていた。二人の王のアキオを見る目には、もはや探るような色はない。そこにあるのは人知を超えた存在に対する純粋な畏敬の念だった。
「…今ご覧いただいたものが、俺の力の、そしてこの聖域の全ての『本質』です」
 アキオは静かに語り始めた。
「俺の力は、武器を強くするためや人を傷つけるためにあるんじゃありません。ただ、触れたものの生命力を高める。癒やし、育み、そして守るための力です。イザベラ様の瞳が光を取り戻したのも、彼女のその瞳の奥に残っていた僅かな生命の光を、俺の力とこの生命樹が増幅させた結果なのです」
 その説明は二人の王に全てを理解させた。
 アキオ・昭雄という男は、ただの特異な能力者ではない。彼自身が歩く生命の聖域なのだと。
「…信じられん…。いや、信じるしかないのか。この目で見てしまったのだから…」
 メイプルウッド国王が絞り出すように呟いた。
「義兄上…。貴方様は一体…」
 クリストフもまた言葉を失っていた。
 アキオはそんな二人に優しく微笑みかけた。
「俺はただのアキオです。家族を愛するただの男ですよ。…さて、俺の秘密はお話ししました。このとんでもない力をどう評価し、どう付き合っていくか。それをこれからお二方と誠心誠意、話し合いたい」
 その言葉に二人の王は、まるで夢から覚めたようにはっと顔を上げた。そして椅子から立ち上がると、アキオに対しこれまでで最も深い敬意を込めて頭を下げた。彼らの王としてのプライドは、今、この瞬間完全に砕け散り、そして新しい真の信頼関係へと再構築されたのだった。
 その、男たちが世界の根源に触れる緊迫した話し合いを行っていた、まさに同じ頃。
 新・中央館の陽光が降り注ぐ美しいサンルームでは、全く質の違うもう一つの重要な「会談」が開かれていた。
 メイプルウッド王妃ソフィアを、アキオの正妻シルヴィアと光妃アウロラの二人がもてなすお茶会。セレスティーナとレオノーラに案内されてこの場にやってきたソフィアは、そのあまりにも穏やかで優雅な空間に少しだけ戸惑っていた。
「まあ…素晴らしいお茶ですこと。香りがまるで生きているかのようですわ」
「ふふ、お口に合いましたようで何よりですわ、王妃陛下。そのお茶の葉も、この聖域の庭で生命樹の祝福を受けて育ったものなのです」
 シルヴィアが優雅に微笑む。彼女は決してアキオの力の「核心」には触れない。ただ、その力がもたらした素晴らしい「結果」だけを穏やかに語る。
「子供たちは皆、本当に元気でしてよ。この聖域に来てから大きな病気をした子は一人もおりませんの。イザベラ様もきっとすぐにお元気になられるでしょう」
 その言葉に、隣に座っていたアウロラが神々しい母のような微笑みを浮かべて頷いた。
「うむ。この土地は生命の喜びに満ちておるからのう。人も動物も草木も、皆が家族として互いを祝福し合っておる。イザベラもその大きな愛の輪に入っただけのことじゃ。案ずることは何もない」
 その、人ならざる存在感を放つアウロラの言葉。それはどんな政治的な外交辞令よりも強く、そして深く、ソフィアの母としての心を揺さぶった。
 力で支配するのではなく、愛で育む。
 ソフィアは、この聖域が自らの国とは全く違う理で動いていることを肌で感じ取っていた。そして同時に理解した。この場所は奪うべき場所ではない。共に手を取り合い、守り、未来へと繋いでいくべき聖地なのだと。
 女たちの静かなお茶会は、男たちの会談以上に確実な国家間の信頼を築き上げていた。
 そして、その日の午後。
 アキオはリリアーナとシャルロッテの二人を、巨大な生命樹の麓へと連れ出していた。
「お二人をお呼びしたのは他でもありません。お二人にこの聖域の本当の家族の一員になるか、どうかの選択をしていただくためです」
 アキオはそう言うと、生命樹の幹にそっと右手を触れた。すると、まるで木が応えるかのように、その枝からまばゆい光を放つ二つの美しい果実が、ゆっくりとアキオの手のひらへと降りてきた。
「これは生命樹の実。この聖域の力の、そして俺の魂の一部です」
 アキオは真剣な目で二人を見つめた。
「これを食べれば、お二人の魂はこの聖域と、そしてここにいる全ての家族と分かち難く結びつきます。もはやただの客人ではいられなくなる。その覚悟がおありですか?」
 それはプロポーズの言葉よりも重い問いかけだった。
 リリアーナは、自らの野心やプライドの全てが、この小さな果実の前では何とちっぽけなものかと感じていた。だが同時に、この果実を受け入れれば自分はもう二度と孤独ではなくなるという確信があった。
 シャルロッテは、これが自分がずっと求めていた本当の「所属」なのだと直感していた。公爵令嬢という立場ではない。この温かい家族の一員としてここに根を張り、生きていくという確かな未来。
 二人は顔を見合わせた。そして同時に深く頷いた。
「…いただきますわ」
「はい、いただきます!」
 二人はアキオの手から光る果実を受け取ると、意を決してそれを口にした。
 その瞬間。
 経験したことのない温かい光が全身を駆け巡った。魂が震えるほどの多幸感。そして脳裏に直接流れ込んでくる無数の温かい記憶。アキオの想い、妻たちの愛情、子供たちの笑い声、住民たちの感謝。その全てが自分のものであるかのように感じられる。
 リリアーナとシャルロッテは、そのあまりにも大きな愛に涙を流しながら、しかし人生で最も幸せな笑みを浮かべていた。
 この日、アキオの聖域に新しい二人の家族が正式に誕生した。
 彼女たちの本当の戦いは、ここから始まる。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...