平和な日常は終わりを告げた――体格に恵まれぬ三十路の兵士が手にしたのは、触れた能力を己の力に変える『天賦転換』絶望から始まる遅咲きの英雄譚

よっしぃ

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序章 レクス・ヴィルケスの生い立ち

第7話 決死の防衛線と、現る帝国の刃

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 砦の巨大な城門から、僕たち『後方支援部隊』だった者たちが吐き出されていく。全員、手に盾を持ち、国境へ向け、決死の防御陣を構築するためだ。
 兵士となったものの、僕は人生で一度たりとも戦闘をしたことが無い。訓練で人と対峙したことすらおろか、賊討伐の経験も皆無。これまでは支援物資運びか、便利屋、そして治療兵。そんな僕が、今、戦場の最前線になりうる場所に、鈍く光る盾を構えて立っている。

 手にした盾は、親方から貰ったミスリル製だ。驚くほど軽い。だが、その軽さが、これから僕たちが背負うであろう『死』の重さと奇妙に対比しているように感じられた。恐らく、ここで自分は死ぬだろう。そんな予感があるのに、不思議と心は落ち着いていた。足掻いたところで今の状況が改善するはずもないし、無かったことにはならない。ならば、受け入れるしかない、とでも思ったのだろうか。静かに、迫る運命を見据える。

 僕たちアルベルテュス軍は、砦を正面から攻めてくる帝国軍に対し、あえて外で迎え撃つ布陣を敷いた。本来なら籠城すべき状況だが、これは後続の援軍が到着するまでの時間稼ぎ――僕たちの命を、血塗られた『時間』に換えるための布陣だ。
 布陣は三段構えだ。最前列に、僕たちのような盾を持つ兵士で壁を築く。血を失いすぎて前線に戻れなくなった負傷兵は、ここに立てない。彼らは砦の城壁の上で弓を持つ。人数合わせにしかならないだろうが、彼らにできるのはそれだけだ。その盾の壁の隙間や後方から、魔法部隊が攻撃を仕掛ける。そして最後に、砦に残った弓兵たちが帝国兵を射抜く。この三段全てを突破されると、いよいよ砦での迎撃となる。僕は剣しか攻撃手段がないため、盾を持つ役割を受け持った。生きるか死ぬか、今はただ、この盾の壁の一員として立ち尽くすのみだ。

 遥か前方、国境の地平線に、黒い点が現れ、みるみるうちに膨れ上がっていく。帝国兵達だ。砂埃を巻き上げながら、地鳴りのような足音と共に迫ってくる。万単位の兵士が前進する様は、それだけで圧倒的な威圧感があった。まるで生き物のように蠢く黒い波が、徐々に、確実に、僕たちの方へ向かってくる。

 やがて、あと少しで弓の射程距離、という段になり、帝国兵はその場で停止した。静寂が訪れる。そして、大軍の中から、たった一騎の騎馬武者が進み出てくる。全身から放たれる威圧感は凄まじく、ただそこにいるだけで周囲の空気が震えるようだ。彼の纏う空気、周囲の兵士たちの畏敬にも似た反応からして、間違いなく敵の最高指揮官、将軍クラスだ。彼はゆっくりと馬を進め、僕たちの防御陣の、矢が届くか届かないかの距離で止まった。

 再び、帝国兵達が前進を始めた。今度こそ、弓の射程内だ。ざわめきが一瞬止まり、緊張が最高潮に達する。
「構え!」
 こちらの指揮官が、砦の弓兵に命令を下す。城壁の上で、無数の弓が引き絞られる音が聞こえる。
「放て!」
 ——無数の矢が、雨のように一斉に帝国軍へと降り注ぐ。

 その時。

『おりゃああ!!!!』

 帝国兵の前、たった一人で立つ猛将が、砦まで響き渡る咆哮と共に剣を――いや、それは剣というにはあまりに巨大で、質量を持った『何か』のようだった――一閃した。
 それは、単なる剣の一振りではなかった。空気が裂け、空間そのものが歪むような凄まじい衝撃波が、地を這うように、僕たちの防御陣へ向かって飛来する。

 彼の必殺の剣技。後の世にまで語り継がれる、【裂空斬れっくうざん】である。

 それは、長年平和に慣れきっていた僕たち、アルベルテュス王国の兵士が初めて目の当たりにする、本物の『戦』の力だった。そして、その圧倒的な暴力は、僕たちが築いた決死の防御陣の、最前列――僕たちが立つ、この場所へ、寸分違わず向かってきていた。
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