有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ

文字の大きさ
5 / 82
第一章:この指止まれ

有栖_1-2

しおりを挟む
 有栖と右京は、とある調査をしていたときに知り合った。『カラーズ』と呼ばれる違法ハーブを売買していたグループに彼は所属していたのだが、彼自身はそのことを知らずにいざというときの身代わり役としてメンバーに入れられていたのだ。
 結果的にそのことに気づいた有栖が右京を説得・協力することにより、上手く立ち回り、カラーズは逮捕された。右京はユースティティアに協力したこともあり、無実となった――というのが要約された経緯だ。
「お久しぶりです、有栖さん。立ち話だと疲れちゃうので……」
 そう言って互いに挨拶を交わすと、二人は同じテーブルに向かい合って座った。ランチが出てくるまでには少し時間があるので、彼女も同意した形だ。願わくば、話は雑談で、ランチが届くまでには終わって欲しいと思いながら。
「楓(かえで)ちゃんとは仲良くしてる?」
 会話の切り出しは共通の知人に限る。楓、というのは一色 楓(いっしき かえで)――彼女は有栖の上司である一色 誠の娘である。右京と楓は交際しているのだが、そのことが親公認なのかは有栖は知らないし、踏み込むつもりもない。
「その楓について相談なんですけど……」
 右京の口調が少し重い。それを感じて、有栖はこの話が雑談であることを諦める。居住まいを正すと、彼女は優しく聞いた。
「楓ちゃんがどうかしたの?」
「楓は……もしかしたら学校でイジメられているかもしれません」
「楓ちゃんが?」
 右京から発せられた衝撃的な単語と、楓という人物が結びつかない、というのが有栖の正直な感想だった。
 イジメの対象となるきっかけは多種多様で誰しもがターゲットになる可能性を孕んでいることを有栖も理解している。しかし、それでもターゲットなる人物の共通点として加害者側へ反撃できないような臆病な性格であることが多い。しかし、楓はそれに該当しない。
 楓、という人物は正義感が強く、コミュニケーション能力も高く、賢い。それを気にくわない人もいるだろうが、敵に回したくは無いだろうし、彼女自身も何か被害を被ってそのまま泣き寝入りするとは思えない、というのが有栖の楓に対する印象だった。
「想像できないのは解りますけど」
 有栖が見せる不可解を表現する表情を見て、右京は苦笑いだ。
「そう思った理由は?」
「学校帰りに会うと、薄いですけど、アザや傷。カバンがボロボロだったことが最近ありまして、聞いても誤魔化されて……有栖さん、助けてくれませんか?」
 真っ直ぐな右京の言葉に、表情には出さないが有栖は困っていた。
 右京は純粋で素直な男だ。それ故に、楓を心配する気持ちも嘘ではないのだろう。そして、彼にとって有栖は信頼できる大人なのだ。ユースティティアだから、ではなく、一人の人間として。
 なので、助けたい、という気持ちも当然あるが問題は――これが『イジメ』ということだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『千両役者のワンカラ―』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ最終話 積み上げてきた時間 信じて歩んできた道 振り返ればそこにある過去 たどり着いた現在 そして――未来へ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

処理中です...