タコのグルメ日記

百合之花

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Ⅱ章 ミドガルズの街

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「・・・一応言って置くけど、僕は何もするつもりは無いよ?」
「・・・ひぃっ!?」

ちょっと近づいて話すにちょうど良い距離感を取ろうとしただけでごらんのありさま。
ずざざーっと一気に後退するロールちゃん。
これはまずいぞ。
何がまずいってこの状況でお礼をせびれば脅して取るのと然程変わらないんじゃないだろうか?
人の死体を背に「ねぇねぇ、助けてあげたけどどれくらいのお礼をしてくれるの?ねぇどのくらい?命の恩人なんだからたんまりもらえるよねぇ?ねぇねぇ?」なんてとてもじゃないがいえない。
僕がそんな場面に出会ったら有り金全部渡すだろう。
というか、いい加減こっちの言葉に耳を向けて欲しいのだが・・・どうも通じてないみたいである。

ポシェットから羊皮紙を取り出して、それにあらかじめ買っておいた筆と吐き出して貯めておいた墨ビンを使って絵を描いていく。
文字は知らないので、絵でコミュニケーションを図るのだ。

「・・・え?」
「・・・。」

しゅるしゅると筆の鳴る音だけが響く。
1分ほどかけたところで羊皮紙を見せる。
その羊皮紙には僕と思わしき人が、悪漢を蹴り飛ばす絵。
それに矢印でロールちゃんらしき人を助けてる絵を示す。

「えーっと・・・?」

ロールちゃんは戸惑っているようだ。

「わ、私を助けてくれた・・・んですか?」
「そう。」

うなずく。
一応返事もしたがやはり首を傾げるだけだ。
どうも彼女に魔力が無い、もしくは少ないようである。
言葉が通じないとは不便だが、不便ながらもコミュニケーションツールがあるのだからよしとしよう。

またもやしゅるしゅると筆で書き始める。
テンポが悪いのは勘弁してもらいたい。

「えっと・・・言葉が分からないんですか?」
「・・・。」

首を縦に振る。
そして話を聞く分には理解出来るけれど、話せないことを旨とする絵を描いて見せた。

「?」

当然首をかしげる彼女。
何せ、言葉が理解できるのに、理解できるはずの言葉をなぜ喋れないかが分からない。
声が出ないわけでないことは理解しているのだが。
さて、誤解が解けたところでお金をせびろう、と思ったのだが・・・絵でお金をせびるのって難しいんじゃないだろうか?

いや、別に意図を伝えるのが難しいというわけではない。
ただ押し付けがましくなく、さりげない感じに、謙虚なのりで、いわば「押すなと言ったら押せ」的なノリで一応、遠慮しつつもそれなりの礼をいただきたいと思うのだ。

元日本人としての、先進国出身の人間としてのプライドがこう、ね?
いや、そんなプライド犬にでも食わせておけばいいし、言うほどでもないのだがとにかく直球で「助けたから金くれよ」というのは非常にやりづらい。
しかも誤解が解けたといえど、このタイミングで礼をせびれば解いた誤解が再発する可能性もある。

いまだ背後に変質者の無残な死体があるのだからして。
下手をすればこの街で活動することが難しくなるかもしれない。
さっきまでならば悪漢を倒した正義の味方として。
誤解を受けるとお金を脅し取った悪漢の一人として。
まぁ誤解を受けるのを覚悟でお金をせびるのもまたアリといえばアリなのだが、社会的な強い影響を持つ貴族令嬢からそんな誤解を受けた場合、厄介なことになるに決まっている。

ではどうするか?

結局のところ、ただ働きといったところか。
悪銭身につかず、というやつかもしれない。人間、いや、蛸だが、蛸でも地道にお金を稼ぐのがいいんだよ?ということだろう。
いや、正確にはロールちゃんを悪漢から助けたという正義の味方という風評を広めることが出来たわけなので一切合財が無駄になったというほどでもない。けれど、タコにそんな名声は不必要だ。
いや、貴族間で僕のこの話を広めてくれれば・・・いい仕事をまわしてくれたりロールちゃんの両親が改めて大金の御礼をしてくれるかもしれない。
よし。あ、だめだ。
すぐに広まるわけじゃないし、いまやなんだかんだで結構お金がたまっている。
正直、広まって、お礼をもらえるころにはお金は必要なくなっていることだろう。逆に余計な貴族のつながりが出来て面倒そうだ。

やはり方針を変えて、しゅるしゅると筆でまたもや絵を書く。絵でいっぱいになったので一度、水ビンを使って一度洗い流した後、軽く水を切って書いた絵で今日出くわしたこのことを秘密にすること。
最悪、言ってもかまわないが人物像を僕のものとはまったく違う人間であるように話を盛ることを約束させた。
あ、でも、周りで伸びてる男達から話が広まるかもしれないが・・・その辺のチンピラの言葉を真に受ける貴族はいないでしょう。多分。
いざとなったら顔を変えてしまえばいい。というか、別に街に住み込むわけでもなし、然程大きな問題は無いな。

「えと、約束します。」
「これで十分かな。それじゃあね。」

最後にさよならを告げて帰ろうとしたところで、ロールちゃんが僕を引き止める。のであればまだ良かったのだが。

「貴様・・・危険だ。この場で殺す必要がある!!」

声のした方向を見ると先ほど槍を突いてきた男が立っていた。脂汗を掻いて、肩で息をしているが傷は癒えている様だ。どうしたのだろう?
回復呪文かな?ヒールとかファーストエイドとか、ホイミやキュアとかそんな感じの魔法があるのかもしれない。
僕は相変わらずエアスラッシュ以外使えないというのにうらやましい限りである。

「オオオオオオオッ!!」

男の体からほとばしる魔力的なもの。
それが男の持つ槍に集中する。
さっきの槍より立派なものだ。その辺の男のやつを拝借したのかもしれない。
正面から僕を殺すべく、携帯用ではないちゃんとした槍を使うことにしたのだろう。
そして光る槍から感じる力は先の比ではなかった。

「グーングニルっ!!」
「てい。」

ぺしんと間の抜けた音を発てて槍が落ちる。

「は?」

からんからんと槍の金属音とやけに間の抜けた男の声だけが響いた。

「私の戦闘力は53万ですよ?
さらには後、二回。
変身を残している。
この意味が分かりますね?」

いや、言ってる僕自身特に意味を持たせてるわけではないので、分かっていないのだけど。
細かいことは考えず、指を立てて、ゆっくりと染み渡るように言ってあげる。
ちなみに二回の変身とはゴブリン形態と蛸形態(オクトパスフォーム)のことである。
かの有名なコミックスのドラゴンボールに出る名悪役フリー○様的な変身を今度練習しておこう。
戦闘力(魔力)が一回の変身で何十倍にも膨れ上がるなんてことはないが、見た目がいかつくなるだけでなかなかどうして燃える展開だとは思わないか?
僕は思う。
というか、今出来るんじゃないだろうか?

いや、きっと出来てしまうな。
ゆえに今は取っておこう。
こういう奥の手―いや、別に奥の手とかじゃなくて見てくれが変わるだけなんだが―は追い詰められた時やここぞというときに使うのが、格好いいのだから。
いや、でも『冥土の土産です。私の本気を見せて差し上げましょう』とか言って今すぐ変身するのもいいかもしれない。

などと考えてると男はすたこらさっさと逃げていった。
え?

「・・・いや、そりゃ逃げるか。」

そらこんだけずっと考え込んでいたら逃げるに決まってる。
その場にいても殺されるだけなんだから。
いや、別に殺すつもりは無かったけどね。

とりあえず森に帰ったら練習しよう。
風を使った発声魔法の応用で『ゴゴゴゴゴッ』みたいな効果音も付けてみたい。
夢が広まくりんぐ。
ちょっとわくわくしてきた。
どんな変身にしようかな?
人型か・・・いっそのこと竜とか?
いや、でも質量が足りんな。
やっぱり人型だろう。もう少し体が大きい生物ならば怪物型で行ったというのに。
それこそフリーザ様を丸パクリでもいいかも。
個人的には完全体前の第三形態が大好きである。

「あ、あの・・・?大丈夫ですか?」
「ぐっ。」
「だ、大丈夫みたいですね・・・信じられないですけど。」

親指を立てて見せるとロールちゃんはちょっと信じられないものを見たような表情でこちらを見る。

「それじゃ今度こそさよなら。」

何か言いたそうにしていたが、特別話を聞こうともせずに僕は宿屋へ帰ったのであった。


☆ ☆ ☆

あれから数日。
ひたすら森の動物を狩って、それを研究者達に売り払うという依頼をこなしていくこと200000ルピーが溜まった。
これだけあれば羊皮紙はもちろん、建築用工具だって買える。
建築用工具である金具やカンナといったものを職人に都合してもらい、僕は久しぶりに森へと帰ったのであった。

あ、甘味切らしてたっけ。
いや、調理器具は買ったし、あの程度のものなら自分でも作れるか。

久々に会うグリューネ・ドドリアに手料理を振舞ってやろうと思いつつ。
僕ははじまりの森へと帰るのである。




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