タコのグルメ日記

百合之花

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Ⅱ章 ミドガルズの街

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さて。
森に帰れば早速荷物置きようの小屋を作らねばならない。
ついでに家を作ってゆっくり過ごすのも良い。
ダイグンタイアリの行軍ルートに注意するのみだ。
野菜でも育てて、それにつられた植食動物を僕が食うというのもいいな。
あ、それよりもネタとして変身を考えねば。
変身。
ロマンである。

「なんにしても、まずは小屋作りかな。」

この世界は幸い地震は無い。
タコ一匹が住む程度の家ならば犬小屋を大きくするイメージで作れば素人でもなんとかなるだろう。
風や雨も木々が生い茂るここではさほど考えなくていいし。
そんなわけで森に木材を作りに言ったのだが・・・

『ど、どうして!?
どうして私におみやげを何も買って来てくれなかったの!?』
「調査のときにあげたじゃない。」
『それはそれ!すっごく楽しみにしてたのにっ!!』
「悪かったってば。」
『なんのためにわざわざ言語変換の刷り込みをしてあげたというのっ!?
甘味を買って来るためでしょっ!?』
「初耳すぐる。」
『・・・死ねばいいのに。』
「・・・。」
『・・・恩を仇で返すとか最低ね。
しかも私の森を切り取ろうとしてるわけだし。』
「ちょっと木材を作るだけでしょ。
これもまた1つの弱肉強食です。ていうか仇ってなんだ。仇ってのは。聞き捨てならん。ちゃんとお土産だって買ってきたでしょ。」
『それがこの埴輪なの?』
「埴輪じゃない。ご当地マスコットのグルグガッハ君だ。」
『こんな腕だか足だかが沢山生えた気持ちの悪いマスコットを欲しがる人がいるのかしら?』
「失敬な。タコみたいで可愛いじゃないか」
『・・・本気?』
「まさか。お店の人にお土産で良いのは無いかと聞いたらこの埴輪が良いと言われたから、買ってきた。この辺はこういうセンスだな~と思ってたのだけど・・・ちがー」
『違うに決まってるでしょう?かつがれたのよ。貴方。』


グリューネが思いのほか文句を言ってきたのである。
しょうがないでしょうに。
滞在期間が伸びたのでその間に腐るだろうと食べてしまったのだ。
でも、ただ甘いだけのもの。
ケーキやアメとかなら分かるが、そんなもので大騒ぎするものでもないだろう。
と決めつけたのが失敗だった。

『もう二度と何もしてあげないわよっ!!このタコやろうぉっ!!』

そう吐いて捨てて、彼女は森の奥へ消えた。
いまさらだけど彼女って一体この森の何なんだろうか?

「・・・どうでもいいか。今の僕には家作りにしか興味が無いっ!」

ちなみに森に帰ってからはずっとタコのままである。
いやはや肩が凝ってしかたのない社会見学だったぜ。

手ごろな木を一本折る。
そして街で買ってきたごついナイフで整形していく。いやはやエアスラッシュを使わないだけでここまで楽に色々準備できるとはありがたすぎる。
あれはほんと細かいことに向いてないからね。
そして人間ならば重労働でも、ガチムチのタコにはただの手作業。
どんどん木材を作っていく。
確か、木材は乾燥させて虫除けの液に浸したりとかなんか加工されてた気がするが、そんな知識も物も無いので適当である。
腐食したり、折れたりしたらまた家を作り直せばいいのだ。
日曜大工がちょっと大げさになった程度なのだから。

ちなみに作る場所は点々としてる泉の中でも小動物が多くくる場所。
比較的浅い場所で、人が来るかもしれないが、他の場所では大きな犬小屋程度なら一撃で粉砕玉砕大喝采するような大型肉食動物ばかりやってくる。
そんな場所に家を建てられるはずもなく、出来るだけ人が来ず、かつ大型生物もこないような水場が望ましいということで今まですんでいた場所から大きく離れたここに決めた。

クギを打ち込んだり、タコ墨で接着したりしながら4日ほど。
なんとか完成したマイホーム。
なんということでしょう。
水辺を陣取る植物がぼうぼうと生えていた水際には立派なお家が建っているではありませんか。

完成したのを見せびらかそうとグリューネを探したが、見つからなかったのでそのまま僕は初のマイホームで寝たのであった。
ちなみにベッドは丸太を二つならべてそこに大きな葉っぱを敷いたハンモックのような形のベッド。
堅い素材しか無いために、柔らかいベッドを作るため考えた工夫である。


☆ ☆ ☆

目を覚ますと目の前にはこの世のものとは思えない美少女が一緒になって寝ていた。
僕はタコなので見ようによっては官能的かもしれない。
寝てる少女に絡みつく触腕を持つ生物。

ここであわてるのは普通のタコ。
しかし僕は訓練されたタコである。
いままでこんな美少女と寝たことなど無かったので吐息などにちょっと顔を赤くしつつも、そのままハンモックから彼女を起こさないようにまろび出た。
というかラブコメの主人公のように慌てふためいたところでこちとらタコである。
シュールなだけだ。
その場面を頭に思い浮かべると一気に冷めた。

「・・・。スルーで。」

とりあえず人のベッド式ハンモックで一緒に寝てるグリューネにはおきてから突っ込むことにして、今日は釣りをしようと思う。
できれば昨日の段階でやりたかったが家の組み立てで疲れていたのだ。
なんだかんだでここまでの道のりは非常に険しく長かった気がする。

職人に頼んだ釣り竿。
それのリール部分にその辺の良くしなり、伸びる植物のツルを巻きつけて、釣り針を接着。
ルアーか迷ったが、まずは釣り針にミミズでもつけてテンプレな釣りをしようではないか。

今日はじめて、僕は海産物を口にするのだ。
海水というより淡水だが。
上手そうな魚をひたすら釣って塩焼きにして食べよう。
内臓は・・・一応取っておこうか。フグのような魚がいないとも限らないし。

その辺のミミズを掘り起こして釣りをすること、1分後。
いきなりヒットした。
しっかりと引っ掛けて、吊り上げるとなかなかしっかりしたブラックバスのような魚が釣れ、大きさは50センチほどか。
こんなでかい魚がこの泉のどこにいたのかと少し不思議だったが、ブラックバスやブルーギルなんかは普通に美味しいらしいし、この森の泉は澄んでいる。
泥臭さもないだろう。
まずは生で、と思ったが寄生虫が怖いのでやめた。
僕が水中生物なればそのままでもいけたと思うのだが。

とりあえず串焼きにしてみよう。
家の中にある倉庫BOXからナイフを取ってきて、魚の頭を落とす。
腹に切れ目を入れて内臓を取り除いてその辺の枝に差し込む。

火は当然、火を起こすとか言う魔道具を街で買ってあるのでそれで焚き火を作って焼き始めた。
ぱちぱちと香ばしい?音が鳴る。

美味しそうだ。

魚を釣って待っておこう。
次の魚はししゃものような魚で、おなかが膨れている。
子持ちししゃもだろうか?
これは丸焼きで食べてもいいかもしれない。
とりあえずこれも簡単に串にさしこんで焼く。

しばらくかけてブラックバス2匹とししゃもっぽい魚を3匹。
まずはブラックバスから―しょうゆがあればなあと思いつつ。
塩でいただこう。

むしゃり。

そんな音が口の中に反響した。
と同時にぐおっと吹きすさぶ、油が口に広まった。
しつこくなく、コクがあって、肉の旨みが染み出ているのであろう。
ある種の出汁のようなそれが僕の口の中に流れ出る。
それはしょっぱさが少し口の中を満たす。
そこに続く、魚肉の群れ。
肉はほぐれやすくも、しっかりとしたもので決して口解けのいいものとはいえない。
が、その適度な堅さゆえに口の中にしつこく残るということではなく、魚肉にありがちなポロポロと崩れる身ではない、牛肉を少しほぐしたような感触が食べ応えという楽しみを与えてくれる。
そして魚肉特有の淡白な肉の味が優しく広がっていく。さらに畳み掛ける塩によるしょっぱさ。
まるで魚を入れた味噌汁―そう、これは魚肉の旨みが存分に出た海鮮汁のような――荒いが、荒いがゆえの美味しさを感じさせてくれる一品である。水分がかなり含まれてるのでカプセル味噌汁とでも呼ぼうか。

すなわちなかなかに美味だ。

次に食べるのはししゃものような小魚。
とりあえず一口で食べる。
多少焦げてしまったのでちょっとした苦味と、次にくる良い具合の苦味。
そう、美味しい苦味とも言うべき風情ある苦味を感じる。
ししゃもにある魚臭さ、生臭さが無いために上品な苦味といっても良い。
その苦味と魚の身に含まれる旨みが自然すぎて逆に不自然なほどに融合した苦味と旨み。

そして、卵である。
それこそ何粒何万の小さな卵が口の中ではじけた。
次々とはじけた。
はじけるはじける。
口の中が戦争を起こしたかのようにはじけた。

ぱちぱちと音を発て、はじける卵は小さいのにもかかわらず旨みが凝縮されており、小刻みに旨みのマシンガンが発砲される。
僕の口を穿とうとせんばかりに旨みがはじけていく。

味の銃戦争とでも言うべきか。

これもまた美味である。

釣り針を求めて一月以上、人間の街でがんばった甲斐があった。
そう考えることができるほどに僕は魚の旨みを噛み締めていた。

嗚呼、美味い。
ちなみに生物を食べると得られる充足感もちゃんとある。
こんな小さな魚達にも魔力が宿っているようでだ。


「さて、それじゃ残りもいただいて・・・せめて断ってから貰わない?」

残りの魚も取ろうとしたところで触腕が空ぶった。
そこにあったはずの魚の串焼きが無い。

『はふはふ・・・熱っ・・・でも美味しい。魚ってこんなに美味しかったのね。』

グリューネが起きて早々僕のご飯を横取りしていた。
なんてふてぇやろうだ。
せめて断ってから貰わないだろうか?

ちなみに彼女は今まで服を着ていなかったが、僕の服をそのまま差し出した。
そのまま保管しておいても草はいずれしなびて使い物じゃなくなるし、それなら最後まで使いつぶした方がいいと考えたのだ。
しかし彼女が身に着けると不思議と取り立てのような葉っぱのようにみずみずしくなるのを見て、なんだかんだで使いつぶさなくて良かったと安心した。
初めて成功した発明品なれど、愛着があるのだ。
多少なりとも惜しいとは感じるものの、真っ裸の美少女を見ているよりはいいだろうということで服を与えた。
僕のはまた街に用事が出来たときに作ればいいのである。

『ごちそうさま。
光合成ばかりではなくて、たまには食事を取るのもいいわね。』
「人の朝食を取っておいて真っ先に出る言葉がそれかい。」

ちょっとムッとしたが、魚の一匹二匹で騒ぐのも大人げない。
もう一度釣りでもしよう。
人がこないせいか、人に対する警戒心が弱いし、簡単につれる。

『何を言ってるの?
これで甘味を忘れたことを勘弁してあげるのだから感謝しなさい。』
「はいはい。」
『・・・ここはツッコムところじゃないかしら?』
「ボケか。」
『当然じゃない。こんなことを本気で言うようなドリアードだとでも思っているの?
私は常に優雅なの。
食い意地とは無縁よ。』
「と、言いつつ、ブラックバスだけじゃなくてししゃもの方も食ってるじゃないか。」
『う、うるさいわねっ!
優雅さの中に食い意地がちょっとくらいあってもいいでしょっ!!』
「無縁じゃないじゃない。」
『生きてるものは皆々何かしら食しているものよ。』
「いや、そういう問題じゃなくてね。矛盾してー」
『それよりも。
貴方。私が一緒に寝ていたのに何もしなかったわね。』
「何をしろと?」
『子孫を残したいとか思わないの?』
「・・・は?」
『ますますおかしいわね。
そろそろ貴方の種族はそろそろ性成熟して子孫を残そうとする頃合いなのだけれど。』
「・・・色々つっこみたいところだが、とりあえずタコが人間を襲うわけ無いだろう。常識的に考えて。」

まさかこの世界では触手(性的な意味で)系として有名なのかな?

『非常識の塊が良く言うわ。
確かに言うとおりだけれど、人の形を取り、人の街に溶け込んだタコだから、貴方との間の子供に興味が湧いただけ。』

そんなノリで致しちゃうんですね。
野生生物らしい。
人間を模って話せても、彼女という種は別物であるということか。

そうだとすると、他に沢山の子供がいたりするのか?
タコである自分に声をかけるのだ。
他の生物とのハイブリッドが産めるからこそ声をかけてきたと考えて良い。
それとも性的ではなく魔法的に産まれるのかな。


ブラックバス改め、カプセル味噌汁を釣り上げながらそんなことをぼんやり思った僕だった。

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