21 / 59
Ⅱ章 ミドガルズの街
20
しおりを挟む
さて。
森に帰れば早速荷物置きようの小屋を作らねばならない。
ついでに家を作ってゆっくり過ごすのも良い。
ダイグンタイアリの行軍ルートに注意するのみだ。
野菜でも育てて、それにつられた植食動物を僕が食うというのもいいな。
あ、それよりもネタとして変身を考えねば。
変身。
ロマンである。
「なんにしても、まずは小屋作りかな。」
この世界は幸い地震は無い。
タコ一匹が住む程度の家ならば犬小屋を大きくするイメージで作れば素人でもなんとかなるだろう。
風や雨も木々が生い茂るここではさほど考えなくていいし。
そんなわけで森に木材を作りに言ったのだが・・・
『ど、どうして!?
どうして私におみやげを何も買って来てくれなかったの!?』
「調査のときにあげたじゃない。」
『それはそれ!すっごく楽しみにしてたのにっ!!』
「悪かったってば。」
『なんのためにわざわざ言語変換の刷り込みをしてあげたというのっ!?
甘味を買って来るためでしょっ!?』
「初耳すぐる。」
『・・・死ねばいいのに。』
「・・・。」
『・・・恩を仇で返すとか最低ね。
しかも私の森を切り取ろうとしてるわけだし。』
「ちょっと木材を作るだけでしょ。
これもまた1つの弱肉強食です。ていうか仇ってなんだ。仇ってのは。聞き捨てならん。ちゃんとお土産だって買ってきたでしょ。」
『それがこの埴輪なの?』
「埴輪じゃない。ご当地マスコットのグルグガッハ君だ。」
『こんな腕だか足だかが沢山生えた気持ちの悪いマスコットを欲しがる人がいるのかしら?』
「失敬な。タコみたいで可愛いじゃないか」
『・・・本気?』
「まさか。お店の人にお土産で良いのは無いかと聞いたらこの埴輪が良いと言われたから、買ってきた。この辺はこういうセンスだな~と思ってたのだけど・・・ちがー」
『違うに決まってるでしょう?かつがれたのよ。貴方。』
グリューネが思いのほか文句を言ってきたのである。
しょうがないでしょうに。
滞在期間が伸びたのでその間に腐るだろうと食べてしまったのだ。
でも、ただ甘いだけのもの。
ケーキやアメとかなら分かるが、そんなもので大騒ぎするものでもないだろう。
と決めつけたのが失敗だった。
『もう二度と何もしてあげないわよっ!!このタコやろうぉっ!!』
そう吐いて捨てて、彼女は森の奥へ消えた。
いまさらだけど彼女って一体この森の何なんだろうか?
「・・・どうでもいいか。今の僕には家作りにしか興味が無いっ!」
ちなみに森に帰ってからはずっとタコのままである。
いやはや肩が凝ってしかたのない社会見学だったぜ。
手ごろな木を一本折る。
そして街で買ってきたごついナイフで整形していく。いやはやエアスラッシュを使わないだけでここまで楽に色々準備できるとはありがたすぎる。
あれはほんと細かいことに向いてないからね。
そして人間ならば重労働でも、ガチムチのタコにはただの手作業。
どんどん木材を作っていく。
確か、木材は乾燥させて虫除けの液に浸したりとかなんか加工されてた気がするが、そんな知識も物も無いので適当である。
腐食したり、折れたりしたらまた家を作り直せばいいのだ。
日曜大工がちょっと大げさになった程度なのだから。
ちなみに作る場所は点々としてる泉の中でも小動物が多くくる場所。
比較的浅い場所で、人が来るかもしれないが、他の場所では大きな犬小屋程度なら一撃で粉砕玉砕大喝采するような大型肉食動物ばかりやってくる。
そんな場所に家を建てられるはずもなく、出来るだけ人が来ず、かつ大型生物もこないような水場が望ましいということで今まですんでいた場所から大きく離れたここに決めた。
クギを打ち込んだり、タコ墨で接着したりしながら4日ほど。
なんとか完成したマイホーム。
なんということでしょう。
水辺を陣取る植物がぼうぼうと生えていた水際には立派なお家が建っているではありませんか。
完成したのを見せびらかそうとグリューネを探したが、見つからなかったのでそのまま僕は初のマイホームで寝たのであった。
ちなみにベッドは丸太を二つならべてそこに大きな葉っぱを敷いたハンモックのような形のベッド。
堅い素材しか無いために、柔らかいベッドを作るため考えた工夫である。
☆ ☆ ☆
目を覚ますと目の前にはこの世のものとは思えない美少女が一緒になって寝ていた。
僕はタコなので見ようによっては官能的かもしれない。
寝てる少女に絡みつく触腕を持つ生物。
ここであわてるのは普通のタコ。
しかし僕は訓練されたタコである。
いままでこんな美少女と寝たことなど無かったので吐息などにちょっと顔を赤くしつつも、そのままハンモックから彼女を起こさないようにまろび出た。
というかラブコメの主人公のように慌てふためいたところでこちとらタコである。
シュールなだけだ。
その場面を頭に思い浮かべると一気に冷めた。
「・・・。スルーで。」
とりあえず人のベッド式ハンモックで一緒に寝てるグリューネにはおきてから突っ込むことにして、今日は釣りをしようと思う。
できれば昨日の段階でやりたかったが家の組み立てで疲れていたのだ。
なんだかんだでここまでの道のりは非常に険しく長かった気がする。
職人に頼んだ釣り竿。
それのリール部分にその辺の良くしなり、伸びる植物のツルを巻きつけて、釣り針を接着。
ルアーか迷ったが、まずは釣り針にミミズでもつけてテンプレな釣りをしようではないか。
今日はじめて、僕は海産物を口にするのだ。
海水というより淡水だが。
上手そうな魚をひたすら釣って塩焼きにして食べよう。
内臓は・・・一応取っておこうか。フグのような魚がいないとも限らないし。
その辺のミミズを掘り起こして釣りをすること、1分後。
いきなりヒットした。
しっかりと引っ掛けて、吊り上げるとなかなかしっかりしたブラックバスのような魚が釣れ、大きさは50センチほどか。
こんなでかい魚がこの泉のどこにいたのかと少し不思議だったが、ブラックバスやブルーギルなんかは普通に美味しいらしいし、この森の泉は澄んでいる。
泥臭さもないだろう。
まずは生で、と思ったが寄生虫が怖いのでやめた。
僕が水中生物なればそのままでもいけたと思うのだが。
とりあえず串焼きにしてみよう。
家の中にある倉庫BOXからナイフを取ってきて、魚の頭を落とす。
腹に切れ目を入れて内臓を取り除いてその辺の枝に差し込む。
火は当然、火を起こすとか言う魔道具を街で買ってあるのでそれで焚き火を作って焼き始めた。
ぱちぱちと香ばしい?音が鳴る。
美味しそうだ。
魚を釣って待っておこう。
次の魚はししゃものような魚で、おなかが膨れている。
子持ちししゃもだろうか?
これは丸焼きで食べてもいいかもしれない。
とりあえずこれも簡単に串にさしこんで焼く。
しばらくかけてブラックバス2匹とししゃもっぽい魚を3匹。
まずはブラックバスから―しょうゆがあればなあと思いつつ。
塩でいただこう。
むしゃり。
そんな音が口の中に反響した。
と同時にぐおっと吹きすさぶ、油が口に広まった。
しつこくなく、コクがあって、肉の旨みが染み出ているのであろう。
ある種の出汁のようなそれが僕の口の中に流れ出る。
それはしょっぱさが少し口の中を満たす。
そこに続く、魚肉の群れ。
肉はほぐれやすくも、しっかりとしたもので決して口解けのいいものとはいえない。
が、その適度な堅さゆえに口の中にしつこく残るということではなく、魚肉にありがちなポロポロと崩れる身ではない、牛肉を少しほぐしたような感触が食べ応えという楽しみを与えてくれる。
そして魚肉特有の淡白な肉の味が優しく広がっていく。さらに畳み掛ける塩によるしょっぱさ。
まるで魚を入れた味噌汁―そう、これは魚肉の旨みが存分に出た海鮮汁のような――荒いが、荒いがゆえの美味しさを感じさせてくれる一品である。水分がかなり含まれてるのでカプセル味噌汁とでも呼ぼうか。
すなわちなかなかに美味だ。
次に食べるのはししゃものような小魚。
とりあえず一口で食べる。
多少焦げてしまったのでちょっとした苦味と、次にくる良い具合の苦味。
そう、美味しい苦味とも言うべき風情ある苦味を感じる。
ししゃもにある魚臭さ、生臭さが無いために上品な苦味といっても良い。
その苦味と魚の身に含まれる旨みが自然すぎて逆に不自然なほどに融合した苦味と旨み。
そして、卵である。
それこそ何粒何万の小さな卵が口の中ではじけた。
次々とはじけた。
はじけるはじける。
口の中が戦争を起こしたかのようにはじけた。
ぱちぱちと音を発て、はじける卵は小さいのにもかかわらず旨みが凝縮されており、小刻みに旨みのマシンガンが発砲される。
僕の口を穿とうとせんばかりに旨みがはじけていく。
味の銃戦争とでも言うべきか。
これもまた美味である。
釣り針を求めて一月以上、人間の街でがんばった甲斐があった。
そう考えることができるほどに僕は魚の旨みを噛み締めていた。
嗚呼、美味い。
ちなみに生物を食べると得られる充足感もちゃんとある。
こんな小さな魚達にも魔力が宿っているようでだ。
「さて、それじゃ残りもいただいて・・・せめて断ってから貰わない?」
残りの魚も取ろうとしたところで触腕が空ぶった。
そこにあったはずの魚の串焼きが無い。
『はふはふ・・・熱っ・・・でも美味しい。魚ってこんなに美味しかったのね。』
グリューネが起きて早々僕のご飯を横取りしていた。
なんてふてぇやろうだ。
せめて断ってから貰わないだろうか?
ちなみに彼女は今まで服を着ていなかったが、僕の服をそのまま差し出した。
そのまま保管しておいても草はいずれしなびて使い物じゃなくなるし、それなら最後まで使いつぶした方がいいと考えたのだ。
しかし彼女が身に着けると不思議と取り立てのような葉っぱのようにみずみずしくなるのを見て、なんだかんだで使いつぶさなくて良かったと安心した。
初めて成功した発明品なれど、愛着があるのだ。
多少なりとも惜しいとは感じるものの、真っ裸の美少女を見ているよりはいいだろうということで服を与えた。
僕のはまた街に用事が出来たときに作ればいいのである。
『ごちそうさま。
光合成ばかりではなくて、たまには食事を取るのもいいわね。』
「人の朝食を取っておいて真っ先に出る言葉がそれかい。」
ちょっとムッとしたが、魚の一匹二匹で騒ぐのも大人げない。
もう一度釣りでもしよう。
人がこないせいか、人に対する警戒心が弱いし、簡単につれる。
『何を言ってるの?
これで甘味を忘れたことを勘弁してあげるのだから感謝しなさい。』
「はいはい。」
『・・・ここはツッコムところじゃないかしら?』
「ボケか。」
『当然じゃない。こんなことを本気で言うようなドリアードだとでも思っているの?
私は常に優雅なの。
食い意地とは無縁よ。』
「と、言いつつ、ブラックバスだけじゃなくてししゃもの方も食ってるじゃないか。」
『う、うるさいわねっ!
優雅さの中に食い意地がちょっとくらいあってもいいでしょっ!!』
「無縁じゃないじゃない。」
『生きてるものは皆々何かしら食しているものよ。』
「いや、そういう問題じゃなくてね。矛盾してー」
『それよりも。
貴方。私が一緒に寝ていたのに何もしなかったわね。』
「何をしろと?」
『子孫を残したいとか思わないの?』
「・・・は?」
『ますますおかしいわね。
そろそろ貴方の種族はそろそろ性成熟して子孫を残そうとする頃合いなのだけれど。』
「・・・色々つっこみたいところだが、とりあえずタコが人間を襲うわけ無いだろう。常識的に考えて。」
まさかこの世界では触手(性的な意味で)系として有名なのかな?
『非常識の塊が良く言うわ。
確かに言うとおりだけれど、人の形を取り、人の街に溶け込んだタコだから、貴方との間の子供に興味が湧いただけ。』
そんなノリで致しちゃうんですね。
野生生物らしい。
人間を模って話せても、彼女という種は別物であるということか。
そうだとすると、他に沢山の子供がいたりするのか?
タコである自分に声をかけるのだ。
他の生物とのハイブリッドが産めるからこそ声をかけてきたと考えて良い。
それとも性的ではなく魔法的に産まれるのかな。
ブラックバス改め、カプセル味噌汁を釣り上げながらそんなことをぼんやり思った僕だった。
森に帰れば早速荷物置きようの小屋を作らねばならない。
ついでに家を作ってゆっくり過ごすのも良い。
ダイグンタイアリの行軍ルートに注意するのみだ。
野菜でも育てて、それにつられた植食動物を僕が食うというのもいいな。
あ、それよりもネタとして変身を考えねば。
変身。
ロマンである。
「なんにしても、まずは小屋作りかな。」
この世界は幸い地震は無い。
タコ一匹が住む程度の家ならば犬小屋を大きくするイメージで作れば素人でもなんとかなるだろう。
風や雨も木々が生い茂るここではさほど考えなくていいし。
そんなわけで森に木材を作りに言ったのだが・・・
『ど、どうして!?
どうして私におみやげを何も買って来てくれなかったの!?』
「調査のときにあげたじゃない。」
『それはそれ!すっごく楽しみにしてたのにっ!!』
「悪かったってば。」
『なんのためにわざわざ言語変換の刷り込みをしてあげたというのっ!?
甘味を買って来るためでしょっ!?』
「初耳すぐる。」
『・・・死ねばいいのに。』
「・・・。」
『・・・恩を仇で返すとか最低ね。
しかも私の森を切り取ろうとしてるわけだし。』
「ちょっと木材を作るだけでしょ。
これもまた1つの弱肉強食です。ていうか仇ってなんだ。仇ってのは。聞き捨てならん。ちゃんとお土産だって買ってきたでしょ。」
『それがこの埴輪なの?』
「埴輪じゃない。ご当地マスコットのグルグガッハ君だ。」
『こんな腕だか足だかが沢山生えた気持ちの悪いマスコットを欲しがる人がいるのかしら?』
「失敬な。タコみたいで可愛いじゃないか」
『・・・本気?』
「まさか。お店の人にお土産で良いのは無いかと聞いたらこの埴輪が良いと言われたから、買ってきた。この辺はこういうセンスだな~と思ってたのだけど・・・ちがー」
『違うに決まってるでしょう?かつがれたのよ。貴方。』
グリューネが思いのほか文句を言ってきたのである。
しょうがないでしょうに。
滞在期間が伸びたのでその間に腐るだろうと食べてしまったのだ。
でも、ただ甘いだけのもの。
ケーキやアメとかなら分かるが、そんなもので大騒ぎするものでもないだろう。
と決めつけたのが失敗だった。
『もう二度と何もしてあげないわよっ!!このタコやろうぉっ!!』
そう吐いて捨てて、彼女は森の奥へ消えた。
いまさらだけど彼女って一体この森の何なんだろうか?
「・・・どうでもいいか。今の僕には家作りにしか興味が無いっ!」
ちなみに森に帰ってからはずっとタコのままである。
いやはや肩が凝ってしかたのない社会見学だったぜ。
手ごろな木を一本折る。
そして街で買ってきたごついナイフで整形していく。いやはやエアスラッシュを使わないだけでここまで楽に色々準備できるとはありがたすぎる。
あれはほんと細かいことに向いてないからね。
そして人間ならば重労働でも、ガチムチのタコにはただの手作業。
どんどん木材を作っていく。
確か、木材は乾燥させて虫除けの液に浸したりとかなんか加工されてた気がするが、そんな知識も物も無いので適当である。
腐食したり、折れたりしたらまた家を作り直せばいいのだ。
日曜大工がちょっと大げさになった程度なのだから。
ちなみに作る場所は点々としてる泉の中でも小動物が多くくる場所。
比較的浅い場所で、人が来るかもしれないが、他の場所では大きな犬小屋程度なら一撃で粉砕玉砕大喝采するような大型肉食動物ばかりやってくる。
そんな場所に家を建てられるはずもなく、出来るだけ人が来ず、かつ大型生物もこないような水場が望ましいということで今まですんでいた場所から大きく離れたここに決めた。
クギを打ち込んだり、タコ墨で接着したりしながら4日ほど。
なんとか完成したマイホーム。
なんということでしょう。
水辺を陣取る植物がぼうぼうと生えていた水際には立派なお家が建っているではありませんか。
完成したのを見せびらかそうとグリューネを探したが、見つからなかったのでそのまま僕は初のマイホームで寝たのであった。
ちなみにベッドは丸太を二つならべてそこに大きな葉っぱを敷いたハンモックのような形のベッド。
堅い素材しか無いために、柔らかいベッドを作るため考えた工夫である。
☆ ☆ ☆
目を覚ますと目の前にはこの世のものとは思えない美少女が一緒になって寝ていた。
僕はタコなので見ようによっては官能的かもしれない。
寝てる少女に絡みつく触腕を持つ生物。
ここであわてるのは普通のタコ。
しかし僕は訓練されたタコである。
いままでこんな美少女と寝たことなど無かったので吐息などにちょっと顔を赤くしつつも、そのままハンモックから彼女を起こさないようにまろび出た。
というかラブコメの主人公のように慌てふためいたところでこちとらタコである。
シュールなだけだ。
その場面を頭に思い浮かべると一気に冷めた。
「・・・。スルーで。」
とりあえず人のベッド式ハンモックで一緒に寝てるグリューネにはおきてから突っ込むことにして、今日は釣りをしようと思う。
できれば昨日の段階でやりたかったが家の組み立てで疲れていたのだ。
なんだかんだでここまでの道のりは非常に険しく長かった気がする。
職人に頼んだ釣り竿。
それのリール部分にその辺の良くしなり、伸びる植物のツルを巻きつけて、釣り針を接着。
ルアーか迷ったが、まずは釣り針にミミズでもつけてテンプレな釣りをしようではないか。
今日はじめて、僕は海産物を口にするのだ。
海水というより淡水だが。
上手そうな魚をひたすら釣って塩焼きにして食べよう。
内臓は・・・一応取っておこうか。フグのような魚がいないとも限らないし。
その辺のミミズを掘り起こして釣りをすること、1分後。
いきなりヒットした。
しっかりと引っ掛けて、吊り上げるとなかなかしっかりしたブラックバスのような魚が釣れ、大きさは50センチほどか。
こんなでかい魚がこの泉のどこにいたのかと少し不思議だったが、ブラックバスやブルーギルなんかは普通に美味しいらしいし、この森の泉は澄んでいる。
泥臭さもないだろう。
まずは生で、と思ったが寄生虫が怖いのでやめた。
僕が水中生物なればそのままでもいけたと思うのだが。
とりあえず串焼きにしてみよう。
家の中にある倉庫BOXからナイフを取ってきて、魚の頭を落とす。
腹に切れ目を入れて内臓を取り除いてその辺の枝に差し込む。
火は当然、火を起こすとか言う魔道具を街で買ってあるのでそれで焚き火を作って焼き始めた。
ぱちぱちと香ばしい?音が鳴る。
美味しそうだ。
魚を釣って待っておこう。
次の魚はししゃものような魚で、おなかが膨れている。
子持ちししゃもだろうか?
これは丸焼きで食べてもいいかもしれない。
とりあえずこれも簡単に串にさしこんで焼く。
しばらくかけてブラックバス2匹とししゃもっぽい魚を3匹。
まずはブラックバスから―しょうゆがあればなあと思いつつ。
塩でいただこう。
むしゃり。
そんな音が口の中に反響した。
と同時にぐおっと吹きすさぶ、油が口に広まった。
しつこくなく、コクがあって、肉の旨みが染み出ているのであろう。
ある種の出汁のようなそれが僕の口の中に流れ出る。
それはしょっぱさが少し口の中を満たす。
そこに続く、魚肉の群れ。
肉はほぐれやすくも、しっかりとしたもので決して口解けのいいものとはいえない。
が、その適度な堅さゆえに口の中にしつこく残るということではなく、魚肉にありがちなポロポロと崩れる身ではない、牛肉を少しほぐしたような感触が食べ応えという楽しみを与えてくれる。
そして魚肉特有の淡白な肉の味が優しく広がっていく。さらに畳み掛ける塩によるしょっぱさ。
まるで魚を入れた味噌汁―そう、これは魚肉の旨みが存分に出た海鮮汁のような――荒いが、荒いがゆえの美味しさを感じさせてくれる一品である。水分がかなり含まれてるのでカプセル味噌汁とでも呼ぼうか。
すなわちなかなかに美味だ。
次に食べるのはししゃものような小魚。
とりあえず一口で食べる。
多少焦げてしまったのでちょっとした苦味と、次にくる良い具合の苦味。
そう、美味しい苦味とも言うべき風情ある苦味を感じる。
ししゃもにある魚臭さ、生臭さが無いために上品な苦味といっても良い。
その苦味と魚の身に含まれる旨みが自然すぎて逆に不自然なほどに融合した苦味と旨み。
そして、卵である。
それこそ何粒何万の小さな卵が口の中ではじけた。
次々とはじけた。
はじけるはじける。
口の中が戦争を起こしたかのようにはじけた。
ぱちぱちと音を発て、はじける卵は小さいのにもかかわらず旨みが凝縮されており、小刻みに旨みのマシンガンが発砲される。
僕の口を穿とうとせんばかりに旨みがはじけていく。
味の銃戦争とでも言うべきか。
これもまた美味である。
釣り針を求めて一月以上、人間の街でがんばった甲斐があった。
そう考えることができるほどに僕は魚の旨みを噛み締めていた。
嗚呼、美味い。
ちなみに生物を食べると得られる充足感もちゃんとある。
こんな小さな魚達にも魔力が宿っているようでだ。
「さて、それじゃ残りもいただいて・・・せめて断ってから貰わない?」
残りの魚も取ろうとしたところで触腕が空ぶった。
そこにあったはずの魚の串焼きが無い。
『はふはふ・・・熱っ・・・でも美味しい。魚ってこんなに美味しかったのね。』
グリューネが起きて早々僕のご飯を横取りしていた。
なんてふてぇやろうだ。
せめて断ってから貰わないだろうか?
ちなみに彼女は今まで服を着ていなかったが、僕の服をそのまま差し出した。
そのまま保管しておいても草はいずれしなびて使い物じゃなくなるし、それなら最後まで使いつぶした方がいいと考えたのだ。
しかし彼女が身に着けると不思議と取り立てのような葉っぱのようにみずみずしくなるのを見て、なんだかんだで使いつぶさなくて良かったと安心した。
初めて成功した発明品なれど、愛着があるのだ。
多少なりとも惜しいとは感じるものの、真っ裸の美少女を見ているよりはいいだろうということで服を与えた。
僕のはまた街に用事が出来たときに作ればいいのである。
『ごちそうさま。
光合成ばかりではなくて、たまには食事を取るのもいいわね。』
「人の朝食を取っておいて真っ先に出る言葉がそれかい。」
ちょっとムッとしたが、魚の一匹二匹で騒ぐのも大人げない。
もう一度釣りでもしよう。
人がこないせいか、人に対する警戒心が弱いし、簡単につれる。
『何を言ってるの?
これで甘味を忘れたことを勘弁してあげるのだから感謝しなさい。』
「はいはい。」
『・・・ここはツッコムところじゃないかしら?』
「ボケか。」
『当然じゃない。こんなことを本気で言うようなドリアードだとでも思っているの?
私は常に優雅なの。
食い意地とは無縁よ。』
「と、言いつつ、ブラックバスだけじゃなくてししゃもの方も食ってるじゃないか。」
『う、うるさいわねっ!
優雅さの中に食い意地がちょっとくらいあってもいいでしょっ!!』
「無縁じゃないじゃない。」
『生きてるものは皆々何かしら食しているものよ。』
「いや、そういう問題じゃなくてね。矛盾してー」
『それよりも。
貴方。私が一緒に寝ていたのに何もしなかったわね。』
「何をしろと?」
『子孫を残したいとか思わないの?』
「・・・は?」
『ますますおかしいわね。
そろそろ貴方の種族はそろそろ性成熟して子孫を残そうとする頃合いなのだけれど。』
「・・・色々つっこみたいところだが、とりあえずタコが人間を襲うわけ無いだろう。常識的に考えて。」
まさかこの世界では触手(性的な意味で)系として有名なのかな?
『非常識の塊が良く言うわ。
確かに言うとおりだけれど、人の形を取り、人の街に溶け込んだタコだから、貴方との間の子供に興味が湧いただけ。』
そんなノリで致しちゃうんですね。
野生生物らしい。
人間を模って話せても、彼女という種は別物であるということか。
そうだとすると、他に沢山の子供がいたりするのか?
タコである自分に声をかけるのだ。
他の生物とのハイブリッドが産めるからこそ声をかけてきたと考えて良い。
それとも性的ではなく魔法的に産まれるのかな。
ブラックバス改め、カプセル味噌汁を釣り上げながらそんなことをぼんやり思った僕だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる