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第一章 幸せのありか
12 side樹理
しおりを挟む言われてまた、涙が出てきた。
掛けられたタオルの端をつかんだまま座りこんで、どのくらい時間が経っただろう。
何とか涙を押し込めて、何も出来ずにバスタオルを被ったままいた樹理が、ドアの開く音を聞いて反射的にそちらに首を向けると、スーツに着替えた哉が、不機嫌さを隠しもせずにずかずかと近づいてくるのが見えた。
「いつまでそこにいるつもりだ? 着替えろ。送ってやる」
驚いて見上げている樹理の横を通り過ぎて、空になった缶を取って、何も言わずに哉がキッチンの方に消えていった。
慌てて服を着て、タオルをたたむ。少し考えてからそれをテーブルに置いて、玄関へ行くとドアの横で壁に背中を預けて目を閉じている哉がいた。
「あの…すいません、私、自分で帰ります」
持ち合わせはないけれど、家に帰れば父か母がいるはずだ。頼めばタクシー代くらい出してくれる。
「……これ以上、ご迷惑、かけるのは」
ぎろりとにらみつけられて、樹理が黙り込む。樹理には、哉が何を考えているのか全く分からない。
「迷惑ついでだ。お前の父親も見てみたい」
また泣きそうな顔をした樹理に歎息して哉は玄関収納の棚に置いた車の鍵とカードキーを取って返事も聞かずにドアを開けて出てしまった。閉まり切る前のドアに樹理は両手をついて靴を履き、ドアのまん前にあるエレベータのドアに向かって歩いている哉の背中を追いかけた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
飲酒運転ダメ絶対。
あと、ほんとに各話短くてごめん。
サイトに掲載していた時は、視点変更を気にせずまとめてました。
移してて「えっ こんな短いセンテンスで視点変わってたっけ!?」ってなりました。
ごめん。
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