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第二章 恋におちたら
31 side樹理
しおりを挟む「「来月の学園祭のミスコンでは絶対優勝してもらいますから!!」」
二人が威勢良く立ち上がってお互いのほうの腕……昔流行った女性デュオのポーズのように真里菜の左手と翠の右手を、手のひらを合わせながらぴんと上げて高らかに宣言した。
開校以来百有余年。戦中戦後も毎年行われていたという、文字通り学校で一番美人を選ぶためのコンテストだ。特に決められているわけではないが暗黙の了解なのか、出場するのは最終学年である三年生のみ。つまり、この二人は出ることはない。
確か、樹理のクラスにミスコンの最有力候補がいる。母親が中東出身というハーフで、顔の目鼻立ちも体のメリハリはっきりしたと背の高い美人。父親が多額の寄付をしていて、多少のわがままも許されているので本人はかなりの女王様だ。
あの人とは戦いたくない。というか、いつも背中に大輪のバラを背負っているようなあの派手さと自分の地味さを比較したら、知名度から考えても始まる前から負けていると思う。
「お姉さま、いつもリナ達と自分は格が違うとか思ってるでしょう?」
真里菜の黒い瞳がきらりと光って始まる前から逃げ腰の樹理を捕らえる。
ごくりとつばを飲み込みながらこくんとうなずいた。
「お姉さまはちゃんとした人だし、そんなこと考えなくていいと思うし、そもそもそこら辺の認識がおかしいとは思うんだけど、お姉さまはきっと人にただそう言われた位じゃ考え方を改めないと思うのでっ! それならば同格になればいいだけのこと。手っ取り早いのはみんなが認める学園一になることよね」
「や、え? 私が? あれに出るの? そんな、私なんか……」
「ぴぴーっ ダメです。これからは『私なんか』は言っちゃダメ」
真里菜が笛を吹くまねをして、さらにレッドカードでも持っているかのような仕草で樹理に右腕を突き出した。
「お姉さまなら絶対大丈夫。足らないのは自信だけだから」
ものすごく自信を持って、翠が言い切った。
そんな自信、どこから出せというのだろうか。
やっぱり、迷惑だからと断ればよかったと、自分の人の良さと流されやすさに樹理が頭を抱えているそばで、二人がああでもない、こうでもないと作戦を練る声が聞こえてくる。
「あっ そうだ。お姉さま、番号教えて番号っ」
「え? なんの?」
「なんのって、番号って言ったらケータイのっ」
言いながら、真里菜がポケットから赤い携帯電話を出している。表面は大小さまざまな大量のクリスタルが張られてキラキラゴツゴツしたすごい状態だ。
「ボクもー ついでにメルアドも」
翠が出したのは、名前にあわせたのか薄緑色の携帯電話だ。こちらはゴテゴテしていないが、どうも同じ機種らしい。
「あの、持ってないの」
「へ?」
「携帯電話。私、持ってないのよ」
「なんで!? どうしてっ!? ケータイは女子高生のマストアイテムでしょう!?」
間の抜けた声を出した二人に、重ねて同じことを告げると、今度は猛然と返された。そう言われても樹理には今まで携帯電話で頻繁に連絡を取らなくてはならない友人もいなかったし、なくても十分生活できたのだ。
「信じられなーい。夜道でコワイ人にさらわれたらどうするんですかっ! 今すぐ買って!! ご家族の方が反対してるとか? いまどき携帯電話ひとつくらいで不良にはなれませんって私から言ってあげる。なんなら料金リナ持ちでもいいからっ」
「え、ダメよ。パ……両親は勧めてくれたんだけど、私がいらないって断ったの。だから頼めば電話くらい持たせてもらえるから……」
「じゃあもう絶対。買ったら教えてね。って言うか、ボクたち、買うとき一緒に行くから」
「そうそう。お姉さまって安さに負けて絶対最新機種選ばなさそうだもん。品定め隊は必要よね」
何でそんなことまでわかるのと心の中で反論はしたものの、あっという間に土曜日に一緒に街に出て携帯を選ぶという目的に遊ぶ事を約束させられた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
何度でもいうけど、これ書いたころはパカパカする携帯だったんです。用途はほぼ、電話とメール。
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