幸せのありか

神室さち

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なつまつり

9 side哉

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「まっ マサキ君ッ!!」


 わたわたと慌てる樹理にも笑顔を向けて、再び哉に向き直る。


「氷川のデータって侵入(はい)りにくいんだよねぇ 重要な部分はみんな完璧にオフだし。結構大変だったのよ? ラインに乗ってるマシンで重役の住所閲覧データが残ってるのを探すの。年配の重役のマシンとか、結構管理甘いよね。まあ、それで助かったんだけど」

 睨んでいるのは変わらなくても、ざっと顔つきの変わった哉に、なんでもない様子でマサキは指をキーボードを打つように動かす。


「あ、大丈夫。オレが入ったルートは全部いちいちゲート立てて塞いどいたから、他のやつは入れないよ。カギもかけたからオレ以外は。大会社って情報管理、大変だよね、氷川の管理者はかなり性格悪くない? 捻くれ度が高いって言うかトリッキーなトラップ多いよね。でも人数多けりゃセキュリティ綻びやすいし、知らないで外とのゲート開けちゃうバカもいるし」

「お前は何者だ?」

「ん? オレ? 一応パソコンのセキュリティソフトとか作ってる会社の代表だよん」


 言いながらマサキがジーンズの後ろポケットからふちがよれよれになった名刺を一枚取り出し哉に渡す。白い飾り気の無い四角い紙には『Inc.SR CEO』と言う肩書きと『Masaki Tokuyama』と言う名前が二行印字されているだけだ。


「って言っても社員が数十人の始めたばっかりのちっちゃいベンチャー企業で、実際仕切ってんのはオレの相方。氷川サン覚えてないかもしれないけど相方君は氷川サンのこと覚えてるみたいだよ。中高と後輩だったんだって。名前はね、北沢雪矢(きたざわゆきや)。相方の方が一個下。あ、その名刺、最後の一枚だから返してね」

 言い終わるかいなかでマサキが手を伸ばしてぱっと哉の手から名刺を取り返して後ろのポケットに差し込む。


「……北沢……確か大学の時に大怪我して……」

「あ、覚えてた? そう、大学三年のときバイクで四トントラックとタイマン張って下半身不随になったの。今は車椅子生活。リハビリ兼ねて祭りに誘ったんだけど、やっぱり人ごみじゃ気兼ねするみたいなんだよね。邪魔そうにする人多いし」


 事故云々を差し置いても忘れないだろう。なにせ、哉の友人が悪魔のバトンとでも言うべき権限を譲渡したのが、その北沢雪矢に他ならない。哉のときも大概だったが、彼も彼で楽しそうに独裁者っぷりを発揮していた。


「今は真面目にやってるつもりなんだけど、昔のこと知ってる知り合いに昔の悪事ばらすぞとか脅されて時々コソコソ今でも悪事働いてるわけデス」

「……脅してません……」

「うん、樹理のは泣き落としだよね。自分家のセキュリティソフトだと、相方も手を入れてるからオレでも入れないんだ。氷川みたいな大会社に採用してもらえたらボロ儲けなんだけどなぁ」


 想像しているのかにまにま笑っているマサキの傍らで、哉が手を口元に当ててブツブツつぶやいている。

「……ハッカー? アタッカー……マサキ……ユーオニマス?」

 いくつかの単語を羅列させて、行き着いて唇からこぼれた言葉に、軽薄そうに笑っていたマサキがはっと笑みを引っ込める。


「そう、Euonymusなかなかちゃんと読んでくれる日本人って少ないんだ。すごいなぁ 造園にも興味があるとか? 初対面で言い当てられたのは二人目かも。あ、一人目は相方なんだけど。フツーは知らないよね、学名なんて。結構安直でしょ?」


 一瞬で引っ込めた笑顔を引きずり出して、マサキがこれまでとは趣の違う顔で笑った。


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